第5回公認心理師試験・午後問79は、高齢者福祉領域で働く公認心理師の業務について、多職種連携・高齢者虐待・心理アセスメント・急変時対応を総合的に判断する問題です。
正答は ③ カンファレンスで心理的アセスメントの結果を報告する際、分かりやすさを優先して専門用語の使用を控えて説明する です。
この問題では、公認心理師の専門性とは「専門用語を多く使うこと」ではなく、心理学的情報を他職種が支援へ使える形に翻訳して共有することだと理解する必要があります。

問題
高齢者福祉領域で働く公認心理師の業務について、最も適切なものを1つ選べ。
- 利用者と家族が安全に面会できるように、感染症予防対策マニュアルを単独で作成した。
- 経済的虐待が疑われたが、当事者である利用者から強く口止めされたため、意向を尊重して誰にも報告しなかった。
- カンファレンスで心理的アセスメントの結果を報告する際、分かりやすさを優先して専門用語の使用を控えて説明した。
- 訪問介護員から介護負担が大きい家族の情報を入手し、その家族宅を訪問して、要介護者に対してMMPIを実施した。
- 面接中に利用者の片側の口角が急に下がり、言語不明瞭になったが、話す内容がおおむね分かるため予定時間まで面接を継続した。
正答は ③ です。
正答③|専門情報を「支援に使える言葉」へ変換する
多職種カンファレンスでは、
- 医師
- 看護師
- 介護職
- 社会福祉士
- ケアマネジャー
- リハビリ職
- 公認心理師
など、異なる専門背景を持つ人が参加します。
心理職だけに通じる専門用語をそのまま並べても、支援にはつながりません。
たとえば、
「抑うつ傾向があります」
だけで終わるより、
「朝は活動が低下しやすく、午後になると会話量が増えます。予定を午前に集中させるより、午後に選択肢を提示した方が参加しやすい可能性があります」
と伝える方が、他職種は具体的な支援へつなげやすくなります。
専門性とは、難しい言葉を使うことではなく、
専門的な理解を、相手が使える形に翻訳すること
です。
多職種連携で公認心理師に求められること
高齢者福祉では、心理面だけを切り離して扱うことは困難です。
たとえば認知症のある高齢者の「怒りっぽさ」を考える場合でも、
- 認知機能
- 身体症状
- 疼痛
- 睡眠
- 服薬
- 環境
- 家族関係
- 介護負担
など複数の要因が関係します。
そのため、公認心理師は心理アセスメントの結果をチームへ共有し、医学・介護・福祉情報と統合して支援を考えます。
① 感染症対策マニュアルを単独で作成|不適切
感染症予防は高齢者施設において極めて重要です。
しかし、感染症対策マニュアルを公認心理師が単独で作成するのは適切ではありません。
感染管理には、
- 医師
- 看護師
- 管理者
- 介護職
- 感染管理担当者
などとの協働が必要です。
公認心理師は、面会制限が利用者や家族へ与える心理的影響などに専門性を発揮できますが、感染症管理を単独で担う職種ではありません。
② 経済的虐待を口止めされたため報告しない|不適切
高齢者虐待防止法では、経済的虐待も高齢者虐待に含まれます。
たとえば、
- 年金を勝手に使う
- 預金を無断で引き出す
- 必要な金銭を渡さない
- 財産を不当に処分する
などです。
養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合、生命・身体に重大な危険があるときは市町村への通報義務があり、それ以外でも速やかな通報に努めることが定められています。
さらに、守秘義務に関する規定はこの通報を妨げるものではありません。
したがって、
本人から口止めされたから誰にも報告しない
という対応は適切ではありません。
Ig Knowledgeでは第3回問42|高齢者虐待防止法でも経済的虐待と通報を整理しています。
④ 介護負担の情報からMMPIを実施|不適切
訪問介護員から、
「家族の介護負担が大きい」
という情報を得たからといって、要介護者本人にMMPIを実施することが適切とは限りません。
心理検査は、
何を明らかにする必要があり、その結果をどのように支援へ活用するのか
という目的に基づいて選択する必要があります。
介護負担が問題であれば、
- 家族の負担感
- 介護状況
- サービス量
- BPSD
- 家族関係
- レスパイトの必要性
などを評価することが先です。
「情報が得られたから心理検査をする」という順序ではありません。
⑤ 片側口角下垂・言語不明瞭でも面接継続|不適切
突然、
- 片側の口角が下がる
- 言葉が不明瞭になる
といった変化が見られた場合、脳卒中などの急性神経症状を疑う必要があります。
このような状況で、
「話の内容はだいたい分かるから」
と面接を続けることは適切ではありません。
心理面接よりも、まず医学的な安全確認が優先されます。
公認心理師は医師ではありませんが、緊急性の高い身体症状を見逃さず、適切な医療職へつなぐことが必要です。
「心理職の仕事ではない」と切り離しすぎない
多職種連携では、
「感染症は看護師の仕事」
「虐待は福祉職の仕事」
「身体症状は医師の仕事」
と完全に切り離すのも不適切です。
重要なのは、
自分の専門職としての限界を理解しつつ、必要な情報を見つけたら適切な職種・機関へつなぐ
ことです。
公認心理師法でも、必要に応じて他の保健医療・福祉・教育等の関係者と連携することが求められています。
高齢者支援では家族も支援対象
高齢者福祉では本人だけでなく、介護する家族も大きな負担を抱える場合があります。
そのため、
- 家族のストレス
- 介護疲労
- 睡眠不足
- 抑うつ
- 孤立
- 経済的負担
なども確認し、必要に応じて地域包括支援センターや介護サービス等へつなぎます。
虐待対応でも、被害高齢者の保護だけでなく、養護者への支援が重要です。
カンファレンスでの説明のコツ
心理検査や面接情報を報告するときには、
結果だけではなく意味を伝える
「得点が○点だった」ではなく、
生活上どんな場面で困難として現れやすいか
を説明します。
他職種の言葉へ翻訳する
心理学用語だけでなく、実際のケア場面と結びつけます。
限界も共有する
心理検査は本人のすべてを説明するものではありません。
実施時の体調、環境、教育歴、認知症などの影響も踏まえます。
試験での見分け方
この問題では、
単独で抱え込んでいないか
専門職としての役割を超えていないか
安全を後回しにしていないか
を見ると判断しやすくなります。
- ① 単独で感染対策 → ×
- ② 虐待を抱え込む → ×
- ③ 分かりやすく共有 → ○
- ④ 根拠なくMMPI → ×
- ⑤ 急変でも面接継続 → ×
まとめ
第5回公認心理師試験・午後問79の正答は ③ です。
高齢者福祉領域における公認心理師には、
心理学的情報を多職種チームが利用できる言葉で共有し、必要に応じて他職種や関係機関へつなぐ
役割が求められます。
専門性は「単独で全部行うこと」ではなく、自分の専門性をチームの中で活かすことと理解しましょう。
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午後問題・正答
- 厚生労働省|高齢者虐待防止法
- 厚生労働省|市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について


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