公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問51|多重関係

公認心理師過去問第5回51 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問51は、公認心理師の実践で問題となる多重関係を見分ける問題です。正答は④ 終結を記念してクライエントとレストランで会食する⑤ 税理士であるクライエントに確定申告を手伝ってもらうの2つです。ポイントは、「心理支援関係とは別の役割・関係を意図的に重ねていないか」を見ることです。

実際の問題文

問51 公認心理師としての実践において倫理的に問題とされる多重関係に該当するものを2つ選べ。

① 適度に自分の経験を開示する。
② クライエントから母親のイメージの投影を受ける。
③ 心理職の同僚間で相互にコンサルテーションを行う。
④ 終結を記念してクライエントとレストランで会食する。
⑤ 税理士であるクライエントに確定申告を手伝ってもらう。

問題文の読み解き

この問題は、「心理支援の中で起こり得ること」と「心理支援関係とは別の関係を追加すること」を区別する問題です。自己開示や転移は面接過程の中で生じ得る現象であり、同僚とのコンサルテーションは専門職間の活動です。一方、クライエントと私的な会食をすること、クライエントから税務サービスを受けることは、支援関係とは別の社会的・経済的役割を重ねます。

日本公認心理師協会の倫理綱領では、会員は心理支援にあたり、原則として要支援者等との間で専門的支援関係の範囲を超えた関係を結ばないとされています。本問はこの境界管理を具体例から判断できるかを問っています。

正答は④と⑤

④は、終結を契機としてクライエントと私的な会食関係を持つ例です。「終結したからただちに完全な私人同士になる」とは限りません。支援関係で形成された信頼、情報の非対称性、過去の役割関係などが残るため、意図的に社会的関係へ移行することは境界の混乱や利益相反につながり得ます。

⑤は、心理師が支援しているクライエントから、自分の確定申告という別の専門サービスを受ける例です。心理支援関係に加えて「税理士―顧客」という経済的・専門的関係が重なるため、役割の二重化が明確です。支援上の判断が経済的利害に影響されたり、断りにくさが生じたりする危険があります。

多重関係とは何か

多重関係とは、心理職と要支援者の間に、専門的支援関係とは異なる別の関係や役割が重なる状態を指します。たとえば、友人関係、恋愛・性的関係、雇用関係、商取引、家族関係、師弟関係などが重なる場合です。問題となるのは、単に「関係が二つある」という数え方ではなく、その重なりが専門的判断、客観性、守秘、同意、権力差、搾取や不利益のリスクへ影響することです。

一方、地域が狭く偶然に生活圏が重なるなど、完全に避けることが難しい関係もあります。したがって実務では、関係の存在だけで機械的に善悪を決めるのではなく、予見可能性、回避可能性、リスク、本人の利益、記録、相談体制を含めて検討します。本問では、④と⑤が意図的に支援範囲を超える関係を追加する具体例として問われています。

倫理綱領で押さえるポイント

支援者自身の利益を優先しない

倫理綱領では、心理支援行為を自己の欲求や利益のために行ってはならないとされています。多重関係が問題になる背景には、支援者側の都合や利益が支援判断に混入し、要支援者の利益が二次的になる危険があります。

専門的支援関係の範囲を守る

倫理綱領第8項は、原則として要支援者等との間で専門的支援関係の範囲を超えた関係を結ばないとしています。この「原則として」という表現は、現実の地域・学校・医療・福祉現場で偶発的な接触が起こり得ることも踏まえつつ、専門職側が不要な役割重複を作らないことを求めるものとして理解すると整理しやすくなります。

自己決定と説明責任

倫理的な境界管理では、「本人が同意したから問題ない」とは限りません。専門職と要支援者には情報や権力の非対称性があり、本人が断りにくい場合があります。支援者には、専門的判断に基づき不利益を予防し、必要に応じてスーパービジョンやコンサルテーションを利用し、判断過程を記録する責任があります。

選択肢ごとの検討

① 適度に自分の経験を開示する

不正解です。自己開示は、それ自体が多重関係を意味するわけではありません。心理師が自分の経験を話すことでクライエントとの間に別の社会的関係が成立するわけではないためです。ただし、自己開示の量や内容が支援者自身の欲求充足になっていないか、クライエントの負担になっていないかは別途検討が必要です。

② クライエントから母親のイメージの投影を受ける

不正解です。これは転移として説明される面接内の心理現象に関係します。クライエントが心理師を母親のように感じることと、心理師が実際に母親としての役割を引き受けることは別です。転移が起きたから多重関係になるのではなく、その現象を専門的関係の中で扱うことが求められます。

③ 心理職の同僚間で相互にコンサルテーションを行う

不正解です。専門職同士のコンサルテーションは、適切な守秘・情報共有の範囲を守ることを前提に、支援の質を高めるために行われます。この選択肢ではクライエントとの別の関係が追加されていません。したがって本問の多重関係には該当しません。

④ 終結を記念してクライエントとレストランで会食する

正答です。支援関係の終結を理由に、私的・社会的な関係へ意図的に移行しています。終結後であっても、過去の専門関係による影響が直ちに消えるわけではありません。特に「記念として会食する」という目的は、支援の必要性よりも私的関係形成の色合いが強く、境界管理の問題として捉えます。

⑤ 税理士であるクライエントに確定申告を手伝ってもらう

正答です。心理師―クライエント関係と、税理士―依頼者という経済的・専門的関係を重ねています。料金、依頼の断りやすさ、支援継続への影響など、複数の利害が絡みます。心理師がクライエントの専門能力を自分の利益のために利用する構造にもなり得るため、避けるべき例です。

「終結後なら自由」と考えない

心理支援が終わった後も、要支援者が面接で共有した個人的情報、支援者への信頼、役割の非対称性は残ります。そのため、終結を境に専門職倫理上の配慮がゼロになるわけではありません。終結後の接触については、支援中よりも関係が自由になる面があっても、過去の専門関係から生じる影響を評価する必要があります。

試験では「終結後だから問題ない」という誘導に注意します。④は、まさに終結後の私的な会食を多重関係として選ばせる構成です。

自己開示と多重関係を混同しない

自己開示は、支援者が自分の経験や考えの一部をクライエントに伝える技法・行為です。適切性は目的、タイミング、量、クライエントへの影響によって判断します。過度な自己開示は問題になり得ますが、それは「多重関係だから」という理由とは限りません。

選択肢問題では、倫理的に注意が必要な行為と、多重関係という特定概念を区別することが重要です。「何か問題がありそう」という印象だけで選ぶと①を誤選択しやすくなります。

転移と実際の役割関係を区別する

転移では、クライエントが過去の重要他者との関係パターンを心理師との関係の中に持ち込むことがあります。しかし、それは心理師が現実に家族役割を持つことではありません。心理師がその期待に応じて家族のような私的役割を引き受ければ、そこで初めて境界の問題が具体化します。

したがって②は「心理現象」、④・⑤は「現実の役割重複」と整理すると見分けやすくなります。

実務で多重関係のリスクを評価する視点

実際の現場では、同じ地域に住む、学校行事で会う、共通の知人がいるなど、完全に避けられない重複関係もあります。その場合には、関係を秘密にするのではなく、想定されるリスクを事前に考え、本人へ必要な説明を行い、守秘の扱いを確認し、必要に応じて管理者やスーパーバイザーへ相談します。

重要なのは、心理師側が自分の利益のために新たな関係を作らないことと、避けられない関係では本人の不利益を最小化することです。境界管理は「近づかないこと」だけではなく、専門的関係を安全に維持するための意思決定です。

試験での見分け方

多重関係の選択肢では、心理支援関係に加えて「友人」「恋人」「取引相手」「雇用者・被雇用者」「別サービスの提供者・利用者」などの役割が追加されていないかを確認します。関係が追加されていれば、その関係が心理師の判断やクライエントの自由な意思決定を歪める可能性を考えます。

一方、転移、逆転移、自己開示、コンサルテーション、スーパービジョンなどは、適切に扱われる限り専門的実践の内部で生じる概念です。名称だけで倫理違反と決めず、「別の現実関係が成立しているか」を見るのが試験上のコツです。

関連する既存記事

多重関係を直接扱う既存記事として、第3回午前問1「要支援者と公認心理師の関係」があります。公認心理師と要支援者の関係性を倫理面から整理する際に、今回の問51と合わせて確認すると理解しやすくなります。

境界違反と境界横断を機械的に同一視しない

専門職倫理では、支援関係の境界を越える接触がすべて同程度の問題になるわけではありません。たとえば地域行事で偶然会うことと、心理師側が私的な交友や商取引を積極的に開始することでは、予見可能性とリスクが異なります。実務では、本人への潜在的な不利益、専門的判断への影響、権力差、関係を断る自由、守秘への影響などを検討します。

本問の④と⑤は、偶然の接触ではなく、心理師が支援関係とは別の社会的・経済的関係を作る例です。このため「多重関係」という概念へ明確に結びつきます。試験対策では、単に距離が近いかではなく、役割の追加と利害の重なりを見ることが重要です。

まとめ

第5回午前問51の正答は④と⑤です。④は終結後に私的な社会関係を作る例、⑤は心理支援関係に税務サービスという別の経済的・専門的関係を重ねる例です。①自己開示、②転移、③同僚間コンサルテーションは、それ自体では多重関係ではありません。試験では「支援関係とは別の現実の役割が追加されているか」を軸に判断します。

参考文献・資料

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