第4回公認心理師試験・午前問67は、もともと自主的に取り組んでいた活動へ点数や競争といった外的な統制を導入した後、報酬がない場面で自発的な取組が低下する現象を問う問題です。正答は⑤ アンダーマイニング効果です。試験では、「もともと内発的に行っていた」「外的報酬・統制を加えた」「その後に自発性が下がった」という3点を拾えるかがポイントです。
実際の問題文
問67 小学3年生のある学級では、1学期の始めから学級での様々な活動に対し積極的で自主的に取り組む様子がみられた。そこで、児童のやる気をさらに高めるために、児童が行った活動に点数をつけて競わせることが試みられた。その結果、2学期になると、次第に点数のつかない活動では、児童の自主的な取組がみられなくなり、3学期になるとさらにその傾向が顕著になった。
この現象を説明するものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 学級風土
② 遂行目標
③ 期待価値理論
④ ピグマリオン効果
⑤ アンダーマイニング効果
問題文の読み解き
最初の1学期には、児童は点数がなくても「積極的で自主的に」活動していました。つまり、問題文は活動そのものへの関心や楽しさなど、内発的動機づけがすでに存在していた状況を置いています。その後、教師側が点数と競争を導入し、2学期以降は「点数のつかない活動」で自主的な取組が減っています。
ここで重要なのは、単に「競争が嫌だった」と読むのではなく、外的な報酬・評価が行動の理由として前面に出た後、報酬がない場面で自発性が低下したという変化です。このパターンがアンダーマイニング効果の典型的な出題構造です。
正答は⑤ アンダーマイニング効果
アンダーマイニング効果は、もともと内発的に動機づけられていた活動に対し、外的報酬や強い統制を付加することで、その後の内発的動機づけや自由選択場面での行動が低下することを指します。自己決定理論の文脈では、外的な出来事が本人の自律性や有能感をどのように支えるか、あるいは損なうかという観点から整理されます。
本問では、児童はもともと自主的に取り組んでいたにもかかわらず、点数をつけて競わせるようになった後、点数のつかない活動への自発性が低下しました。したがって、⑤が最も直接的に説明します。
内発的動機づけと外発的動機づけ
内発的動機づけ
内発的動機づけとは、活動そのものが面白い、楽しい、知りたい、上達したいと感じるために取り組む状態です。行動の主要な「報酬」が活動そのものの中にあります。学習場面でいえば、褒美がなくても本を読む、問題を解く、工作を続けるといった行動が例になります。
外発的動機づけ
外発的動機づけは、活動とは別の結果を得るために行動する状態です。点数、賞品、評価、承認、罰の回避などが代表例です。ただし、自己決定理論では外発的動機づけも一枚岩ではなく、本人が価値を理解して自分のものとして取り込んでいる程度によって質が異なると考えます。そのため、「外発的=悪い」「内発的=良い」と単純化するのは適切ではありません。
なぜ報酬でやる気が下がることがあるのか
認知的評価理論では、報酬や監視、締切、競争などの外的出来事が、本人に「自分で選んでいる」よりも「外から動かされている」と感じさせると、自律性が損なわれ、内発的動機づけが低下しやすいと考えます。一方、能力の向上を実感できる情報的なフィードバックは、有能感を支えることで内発的動機づけを高めることがあります。
したがって、同じ「ほめる」「点数をつける」でも、機能は一律ではありません。本人にとって統制的に働くのか、能力を知らせる情報として働くのか、また報酬が予告されていたか、活動自体がもともと興味深かったかなどによって影響は変わります。
研究からみた外的報酬の影響
Deci、Koestner、Ryanのメタ分析は128研究をまとめ、期待された有形報酬や、参加・完了・成績に随伴する報酬が、自由選択場面での内発的動機づけを低下させる傾向を報告しました。一方で、肯定的な言語フィードバックは自由選択行動や自己報告の興味を高める結果も示されています。
この知見からも、「報酬はすべて有害」と覚えるのではなく、報酬の種類、随伴性、期待性、本人がどう受け取るかを区別する必要があります。試験問題では、もともと自主性が高い活動へ点数と競争を導入した後に自主性が落ちたため、アンダーマイニング効果を選びます。
選択肢ごとの検討
① 学級風土
学級風土は、学級集団に共有される雰囲気、規範、対人関係、教師との関係など、学級全体の心理社会的環境を表す概念です。本問の点数制度が学級風土へ影響する可能性はありますが、「外的報酬の導入後に、報酬のない活動への自発性が低下した」という現象名を直接説明する選択肢ではありません。
② 遂行目標
遂行目標は達成目標理論で用いられ、自分の能力を他者との比較や評価の中で示すことを重視する目標です。競争という語から連想しやすい選択肢ですが、本問が問うのは児童の目標志向そのものではなく、外的な点数づけを導入した後の自発性低下です。
③ 期待価値理論
期待価値理論は、行動や課題選択が「成功できそうか」という期待と、「その課題にどれだけ価値を感じるか」によって説明されるとする枠組みです。学習動機づけを説明する重要理論ですが、本問の時間的変化を表す現象名としては⑤がより直接的です。
④ ピグマリオン効果
ピグマリオン効果は、教師や周囲からの期待が、その後の本人の行動や成績に影響するという期待効果に関する概念です。本問では教師が児童へ高い能力期待を伝えた結果ではなく、点数と競争という外的統制を導入した結果が示されています。
⑤ アンダーマイニング効果
正答です。既に内発的に取り組んでいた活動へ外的報酬を加えたことで、報酬がないときの自発的行動が低下しています。「最初は自主的だった」という前半と、「点数のつかない活動では自主性がなくなった」という後半をつなげて読むことが重要です。
アンダーマイニング効果と「過剰正当化」
関連して、もともと好きで行っていた行動に外的報酬が付くと、「自分は好きだからやっているのではなく、報酬のためにやっている」と行動の理由を捉え直し、その後の内発的動機づけが下がるという説明が「過剰正当化効果」として紹介されることがあります。両者は近接した文脈で扱われますが、試験では提示された用語に合わせて整理するのが安全です。
なお、実際の教育場面で児童の動機を一つの原因だけで説明することはできません。課題難度、教師との関係、仲間関係、成功経験、疲労、評価方法など複数の条件が関係します。試験上の概念同定と、実際の児童理解は分けて考えます。
教育場面で報酬をどう考えるか
外的報酬は、行動開始のきっかけを作る、ルールを明確にする、達成を可視化するなどの機能を持つことがあります。一方、もともと自発的に取り組めている活動に一律の点数競争を加えると、活動の意味が「楽しむ・学ぶ」から「点を取る・勝つ」へ移りやすくなります。
実務では、本人が何に価値を感じているかを確認し、選択肢を用意する、理由を説明する、達成過程を具体的にフィードバックするなど、自律性と有能感を支える工夫が重要です。報酬を使うか使わないかの二択ではなく、どのような機能を持たせるかを考えます。
試験での見分け方
アンダーマイニング効果の問題では、①もともと内発的な興味や自発性がある、②報酬・評価・監視などが加わる、③その後に報酬のない場面で行動や興味が減る、という順序がよく使われます。この「導入前→外的統制→導入後」の時間経過を押さえると、期待価値理論や達成目標理論と区別しやすくなります。
一方、教師の期待が成績へ影響するならピグマリオン効果、成功可能性と課題価値なら期待価値理論、他者より良くできることを示す目標なら遂行目標、と軸を分けて覚えると混同しにくくなります。
関連知識:他の動機づけ理論との違い
動機づけ理論は多数あり、同じ「やる気」を異なる角度から説明します。Herzbergの二要因理論は主に職務満足と不満足、達成目標理論は学習者がどのような目標基準を持つか、期待価値理論は成功期待と価値、自己決定理論は自律性・有能感・関係性などに注目します。
既存記事で動機づけ理論を整理したい場合は、第3回問28「Herzbergの2要因理論」が補助的な復習になります。ただし、アンダーマイニング効果そのものを扱う記事ではないため、理論間の位置づけを整理する目的で参照してください。
よくある誤解:競争そのものがアンダーマイニング効果ではない
本問には「競わせる」という語がありますが、競争があるだけで自動的にアンダーマイニング効果と呼ぶわけではありません。重要なのは、外的な評価・報酬が導入された前後で、もともと存在していた自発性がどう変化したかです。競争が本人に挑戦として受け止められ、有能感を支える場合もあり得ます。逆に、常に順位づけられ、選択の余地がなく、点数のために活動させられていると感じれば、統制的に機能しやすくなります。
したがって試験では「競争」という単語に反応するのではなく、児童の行動の時間的変化を読みます。1学期は点数なしでも自主的、点数制導入後は点数のない活動が減少、という流れこそが⑤を支持しています。
まとめ
第4回午前問67の正答は⑤ アンダーマイニング効果です。児童は当初から自主的に活動していましたが、点数と競争が導入された後、点数のない活動への自主的取組が低下しました。試験では「既存の内発的動機づけ」「外的報酬・統制」「その後の自発性低下」を一まとまりで捉えることが重要です。なお、報酬の影響は一律ではなく、肯定的で情報的なフィードバックなどは内発的動機づけを支える場合があります。


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