感情調整とは?感情をコントロールする5つの方法と具体例を心理学から解説

感情調整とは何か、感情を上手に整える心理学記事のアイキャッチ画像 心理学基礎

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「イライラしないようにしよう」「不安にならないようにしよう」と思っても、感情は思い通りにならないことがあります。

そこで、

「自分は感情をコントロールするのが苦手なのでは」

と感じる人もいるかもしれません。

しかし心理学でいう感情調整〈emotion regulation〉は、嫌な感情をなくすことでも、いつも冷静でいることでもありません。

感情が生まれるまでには、置かれている状況、注意を向けているもの、出来事の捉え方、身体反応や行動など、いくつものプロセスがあります。

Grossの代表的なプロセスモデルでは、その流れの中に、

状況を選ぶ → 状況を変える → 注意を変える → 捉え方を変える → 反応を調整する

という5つの代表的な働きかけ方を整理しています。Gross, 1998

この記事では「感情を抑えるにはどうするか」だけではなく、今の自分なら、どこへ働きかけられそうかという視点から感情調整を考えていきます。

感情調整〈emotion regulation〉とは

感情調整とは、自分がどのような感情をもち、いつその感情が生じ、どのように経験したり表現したりするのかへ影響を与える過程を指します。Grossの古典的レビューでも、emotion regulationは「どの感情を、いつもち、どのように経験・表現するか」に影響する過程として整理されています。Gross, 1998

大切なのは、感情そのものが生じない状態を目指す概念ではないという点です。

たとえば不安があるから準備を始めることがあります。

怒りを感じたことで、「自分にとって何が大切だったのか」に気づくこともあります。

そのため、

「不安になった=調整できなかった」

「怒った=失敗した」

と単純に評価する必要はありません。

感情が生じる前だけでなく、感情が生じたあとにどう関わるかも感情調整に含まれます。

感情は「気合い」だけでは変えにくい

強い不安を感じているときに、

「不安になるな」

と考えても、それだけで不安がなくなるとは限りません。

感情は、

状況 → 注意 → 出来事の捉え方 → 感情反応

という一連の流れの中で生じます。

そのため、最後に出てきた感情だけを止めようとする以外にも、もっと前の段階へ働きかける方法があります。

この考え方がGrossのprocess model of emotion regulationの重要なポイントです。Gross, 1998

感情を調整する5つの方法

ここで紹介する5つは「これ以外に感情調整の方法がない」という意味ではありません。

感情が生じる流れのどの段階へ働きかけるかを整理した5つの方略群と考えると分かりやすくなります。

働きかけるところ 何を変えるか 具体例
状況選択 これから置かれる状況 疲れている日は刺激の強い予定を減らす
状況修正 今いる状況 作業量や人との距離を調整する
注意配分 注意の向き 一度、別の対象へ注意を戻す
認知的変化 出来事の捉え方 別の解釈が可能か考える
反応調整 身体・表情・行動など 呼吸を整える、いったん休む

この5つの整理はGrossのモデルに基づき、日本心理学会の解説でも一般向けに紹介されています。日本心理学会

1.状況を選ぶ〈situation selection〉

感情が強くなりそうな状況へ入る前に、環境や予定を選ぶ方法です。

たとえば、翌日に重要な仕事があるとします。

夜遅くまでSNSを見ると不安が強くなることが分かっているなら、その日は見る時間を短くすることも状況選択になります。

ただし、

「嫌な状況はすべて避けた方がよい」

という意味ではありません。

今は距離を取る方がよいのか、少しずつ向き合った方がよいのかは、状況や目的によって変わります。

2.状況を変える〈situation modification〉

すでに置かれている状況自体へ働きかける方法です。

仕事量が多すぎて焦っているなら、

「焦らないようにしよう」

とするだけではなく、

  • 期限を相談する
  • 作業を小さく分ける
  • 手伝いを依頼する

といった環境側への働きかけも考えられます。

感情だけを見るのではなく、

「この感情が起こり続けている状況そのものを変えられないか」

と考える方法です。

3.注意の向け方を変える〈attentional deployment〉

同じ状況でも、どこへ注意を向け続けているかによって感情体験は変わります。

発表直前、

「失敗したらどうしよう」

という考えばかりを追い続けているなら、一度、

  • 最初に読む一文
  • 呼吸
  • 足が床についている感覚
  • 周囲の音

などへ注意を戻すことができます。

これは「問題を無視する」ことと同じではありません。

必要な場面でいったん注意を切り替え、再び対応しやすい状態をつくるという使い方があります。

4.捉え方を変える〈cognitive change〉

出来事そのものではなく、その出来事をどう解釈しているかへ働きかけます。

代表的なものが認知的再評価〈cognitive reappraisal〉です。

たとえば、

「こんなに緊張している。失敗するに違いない」

だけでなく、

「自分にとって大切な場面だから緊張しているのかもしれない」

という別の見方が可能か考えてみます。

重要なのは、無理にポジティブにすることではありません。

つらい出来事に対して、

「これは良い経験だ」

と思い込もうとすることが認知的再評価なのではなく、今の解釈以外の可能性があるかを検討することがポイントです。

5.感情が生じた後の反応を調整する〈response modulation〉

感情がすでに強くなったあとに、身体反応、表情、行動などへ働きかけます。

たとえば、

  • 少しその場を離れる
  • 呼吸をゆっくり整える
  • 休息を取る

といった方法です。

感情を外へ出さない表出抑制〈expressive suppression〉も、この段階で研究されてきた方略の一つです。

ただし、

「感情を表に出さないのは全部悪い」

と考える必要もありません。

「認知的再評価は良い、表出抑制は悪い」とは限らない

感情調整について調べると、

認知的再評価=適応的

表出抑制=不適応的

という説明を見ることがあります。

研究全体を考えると、これだけでは単純すぎます。

2025年に発表されたsystematic review・meta-analysisでは、249論文、150,474人、37の国・地域のデータを統合し、認知的再評価・表出抑制とメンタルヘルスとの関連を調べています。

その結果、これらの関連の大きさは文化的特徴やサンプルの属性によって異なることが示されました。PubMed

たとえば仕事中に強い怒りを感じても、その場ですべてを相手へ表現することが役立つとは限りません。

いったん表出を抑え、落ち着いてから伝える方が目的に合う場面もあります。

反対に、どんな状況でも感情を抑え続ければよいわけでもありません。

したがって、方略の名前だけで、

「良い方法」「悪い方法」

と固定しないことが重要です。

大切なのは「正しい方法」より、状況に合わせて選べること

感情調整やコーピングの研究では、regulatory flexibilityという考え方があります。

BonannoとBurtonは、特定の方略がどんな状況でも一律に有効または不適応だと考えることを問題視し、

  • 状況を読み取ること
  • 複数の方略を使えること
  • 結果からフィードバックを得ること

という3つの観点から柔軟性を整理しています。PubMed

つまり、

「深呼吸をすればよい」

「考え方を変えればよい」

と、一つの方法だけを覚えるのでは十分ではありません。

同じ人でも、状況が変われば使いやすい方法は変わります。

Ig Knowledgeでは、この部分を、

Fit=その人・その状況・そのタイミングに合っているか

という視点で考えます。

ある方法を試したのに感情が残ったとしても、それだけで失敗とは限りません。

「この条件では、この方法だけでは十分ではなかった」

という次の判断材料になります。

具体例|同じ「不安」でも使う方法は変わる

翌日に人前で発表するとします。

前日

資料を準備する、練習する、睡眠時間を確保するといった状況選択・状況修正が使えるかもしれません。

発表直前

不安が強くなったなら、資料の最初の一文へ注意を戻す、呼吸や姿勢を整えるなど、注意や反応への働きかけが使える場合があります。

発表後

「もっと失敗したところがあったはずだ」

と同じ場面を何度も考え続けているなら、今度は注意や認知への働きかけを考えます。

このように同じ「不安」でも、

いつ・どこで・何が起きているのか

によって使える方法は変わります。

同じ出来事を繰り返し考え続ける反芻については、Ig Knowledgeの「反芻思考とは?」でも詳しく整理しています。

感情調整とコーピングの違い

感情調整とコーピングには重なる部分があります。

コーピングは、ストレスフルな状況に対する認知的・行動的な対処を広く扱います。

一方、感情調整では、感情が生じる過程や、感情をどのように経験・表現するかへの働きかけに焦点が当たります。

Grossの初期レビューでもemotion regulationはcopingなどの近接概念と区別して整理されています。Gross, 1998

とはいえ、実際の行動をきれいに二分できるとは限りません。

たとえば、

「不安になったので、信頼できる人へ相談した」

という行動は、ストレスへのコーピングとしても、感情への働きかけとしても理解できます。

分類名を当てること以上に、

「今、何を変えようとしているのか」

を見ることが実用的です。

ストレスへの対処全体から整理したい場合は、Ig Knowledgeの「コーピングとは?」で詳しく解説しています。

自分に合う感情調整を見つける4ステップ

感情調整を試すときは、次の4点を振り返ると、自分に合う条件を見つけやすくなります。

  1. 何が起きたか
    出来事や周囲の状況を見る。
  2. 何を感じたか
    感情だけでなく、身体反応も確認する。
  3. 何を試したか
    状況・注意・捉え方・反応のどこへ働きかけたかを見る。
  4. その後どうだったか
    感情の強さだけでなく、行動しやすさや疲労も確認する。

ここで特に重要なのは、

「感情がどれだけ下がったか」だけを成功基準にしないことです。

不安が残っていても必要な行動ができた。

不安の強さは同じでも、以前ほど疲れなかった。

いったん離れたことで、人に強く言い返さずに済んだ。

こうした変化も、その方法が自分に合っているか考える材料になります。

自分の状態に気づき、結果を見ながら方法を調整するという点では、メタ認知ともつながります。

Ig Knowledgeのメタ認知記事では、「気づくこと」と「実際にコントロールできること」は同じではないという点も整理しています。

PR|感情と対処法を記録して振り返りたい人へ

自分に合う感情調整を考えるとき、その場で対処するだけでなく、

「何が起きて、どんな感情があり、その後どうしたか」

を記録して振り返る方法もあります。

Awarefyでは、3コラム法・5コラム法・7コラム法などで感情を記録でき、記録した内容を「感情の変化」「感情の構成」などから振り返る機能が公式に案内されています。Awarefy公式ヘルプ

Awarefyで感情や対処法を記録して振り返る

こうした記録は、

「いつも不安になる」

という漠然とした印象から、

「この状況では不安が強まりやすい」

「この方法を使った日は、その後の行動が少し楽だった」

と、自分のパターンを具体的に振り返る材料になります。

Awarefy

Awarefyは、セルフケアや記録を補助する選択肢の一つです。医療機関での診断・治療や心理支援の代替を意味するものではありません。

感情調整が難しいことを「本人の努力不足」にしない

感情調整は、精神疾患との関連についても数多く研究されています。

2026年のPsychological Bulletinのsystematic review・meta-analysisでは、619研究、臨床群41,590人、非臨床対照群36,787人を統合しています。

臨床群では自己報告による感情調整困難が大きく、再評価や問題解決などの使用が少ない一方、反芻、回避、抑制などが多いという群間差が報告されています。PubMed

ただし、この研究は主に臨床群と非臨床群の比較です。

したがって、

「感情調整が苦手だから精神疾患になった」

と原因と結果を断定することはできません。

研究者らも、psychopathologyとemotion regulationの時間的な関係については今後の研究が必要としています。PubMed

感情をうまく調整できないときに、

「もっと自分で頑張るべきだった」

と本人だけの問題にするのは適切ではありません。

感情が強すぎる・長く続くときは一人で調整し続けなくてよい

セルフケアを試しても強い苦痛が長く続く場合や、睡眠・仕事・学校・家庭生活などに大きな影響が出ている場合は、セルフケアだけで対応し続ける必要はありません。

誰かに相談すること自体も、感情に関わる方法の一つです。日本心理学会の解説でも、友人・家族・学校の支援者など、他者との交流を通した感情調整が取り上げられています。日本心理学会

また、自分を傷つけたい気持ちや安全に関わる問題がある場合は、感情を上手に調整する方法を探すことよりも、まず安全を確保し、医療機関や相談機関、人の支援につながることを優先してください。

自分だけで感情をコントロールできることを、目標にする必要はありません。

まとめ

感情調整は、感情をなくしたり、ただ我慢したりすることではありません。

心理学では、感情が生じる流れに沿って、

状況を選ぶ・状況を変える・注意を変える・捉え方を変える・反応を調整する

という5つの代表的な方略群から整理できます。Gross, 1998

そして、どれか一つがいつでも正解というわけではありません。

状況を見る → 方法を選ぶ → 試す → 結果を見る → 必要なら変える。

感情が残った日も、

「できなかった」

だけで終えるのではなく、

自分に合う条件を見つけるための情報

として扱うことができます。

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