「どうしたらいいか分からない」と考え続けているのに、なかなか答えが出ない。
そんなとき、必要なのはさらに長く考えることではなく、悩みを「実際に取り組める問題」へ整理し直すことかもしれません。
心理学や認知行動療法の領域では、このように問題を具体化し、いくつかの選択肢を考え、実行して結果を振り返る方法が使われています。
ただし、重要なのは「どんな悩みも自分で解決する」ということではありません。
自分で変えられる部分がある問題もあれば、待つしかないこと、相手の意思に関わること、周囲の協力や専門的な支援が必要なこともあります。
この記事では、問題解決法の考え方を、日常で使いやすい6つのステップに整理します。
問題解決法とは?
問題解決法は、漠然とした困りごとを整理して、
「何が問題なのか」
「どうなれば少し前進なのか」
「どんな選択肢があるのか」
「まず何を試すのか」
を具体化していく方法です。
心理療法として行われる問題解決療法(Problem-Solving Therapy:PST)では、問題の定義、達成可能な目標設定、解決策の生成と選択、実行、結果の評価などを支援者と一緒に進めます。
国立精神・神経医療研究センターの一般向け解説でも、問題解決療法は「問題の定義」「達成可能な目標」「解決策の生成と選択」「実行」「評価」などを含む構造化された心理療法として紹介されています。国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」
なお、問題解決法の区切り方やステップ数は、理論やプログラムによって異なります。
この記事の「6ステップ」は唯一の正式な手順という意味ではなく、日常生活で扱いやすい形に整理したものです。
まず、「解ける問題」かどうかを考える
問題解決法を使う前に確認しておきたいのが、
「これは、自分の行動によって変えられる部分がある問題か?」
という点です。
たとえば、
「提出期限までに仕事が終わりそうにない」
という問題には、作業量を整理する、優先順位をつける、期限を相談するといった行動の余地があります。
一方で、
「試験結果がどうなっているか心配」
「相手が自分をどう思っているか知りたい」
といった状況では、考え続けても結果や他者の気持ちそのものを直接操作することはできません。
その場合は、問題を無理に「解決」しようとするよりも、
待っている間の負担をどう減らすか、今できる行動は何か、誰かに相談するか
へ問いを変えた方が扱いやすくなることがあります。
これは「問題から逃げる」という意味ではありません。
自分が変えられる部分と、直接は変えられない部分を分けること自体が、問題整理の一部です。
ストレスへの対処をより広く考えたい場合は、「コーピングとは?」の記事も参考になります。
問題解決法を実践する6つのステップ
以下では、「仕事が多すぎて、何から手をつければよいか分からない」という例を使って進めます。
1. 問題を具体的にする
「仕事が大変」のままでは、何を変えればよいのか分かりません。
そこで、「金曜日までに3つの資料を作る必要があるが、残り時間ではすべてを同じ品質で完成させるのが難しい」のように、状況を具体化します。
ポイントは、原因を完全に突き止めることではなく、いま扱う問題の範囲を決めることです。
2. 達成可能なゴールを決める
「仕事を全部完璧に終わらせる」では、大きすぎる場合があります。
たとえば「今日中に3つの仕事の優先順位を決める」「明日の午前中に最優先の資料の骨組みを作る」なら、次の行動へつなげやすくなります。
ゴールは理想ではなく、今の条件で前進と判断できる状態にします。
3. 解決策をいくつか出す
この段階では、すぐに正解を決めません。
「優先順位をつける」「一部を簡略化する」「締切を相談する」「他の人に確認を依頼する」「まず30分だけ最優先課題に取り組む」など、複数の案を出します。
最初から一案に絞ると、「これができなければ終わり」という状態になりやすいため、まず選択肢を広げます。
4. 現実的な案を選ぶ
それぞれについて、時間、負担、効果、周囲への影響などを考えます。
ここで重要なのは、最も理想的な案ではなく、現在の自分と環境で実行可能な案を選ぶことです。
たとえば「全部を今日終わらせる」ではなく、「優先順位を決めて、必要なら期限を相談する」が現実的かもしれません。
5. 小さく実行する
選んだ方法を実際の行動へ変換します。
「優先順位を考える」よりも、「3つの仕事を紙に書き、10分で優先順位を決める」の方が行動しやすくなります。
行動開始そのものが難しい場合は、行動活性化の記事で紹介している「記録→計画→実行→振り返り」の考え方ともつながります。
6. 結果を振り返り、必要なら選び直す
実行した後は、「成功した/失敗した」だけで評価しません。
「少し進んだ」「思ったより負担が大きかった」「別の方法の方がよさそうだった」といった情報を残します。
うまくいかなければ、問題の定義、ゴール、選択した方法のどこかを調整します。
一度で正解を当てるのではなく、結果から次の選択を変えることが重要です。
「仕事が多すぎる」を6ステップで整理すると
最初は、
仕事が多すぎて無理だ。
という状態だったとします。
これを、
金曜日までに3つの資料が必要だが、残り時間ではすべてを同じ水準で仕上げるのが難しい。
と具体化します。
そしてゴールを、
今日中に優先順位を決め、最優先の資料の骨組みまで作る。
へ変更します。
さらに、
優先順位を決める
一部の完成度を下げる
締切を相談する
一部を他者へ相談する
という複数案を考えます。
その結果、「まず優先順位を決め、その結果によって締切を相談する」を選んだとします。
ここまで来ると、「仕事が多すぎる」という大きな悩みから、
10分使って3つの仕事を並べる
という実際に取り組める行動へ変わっています。
問題解決法の役割は、必ず問題をなくすことではありません。
漠然とした困りごとを、次に扱えるサイズへ変えることにも価値があります。
問題解決法がうまくいかないとき
問題解決法を使っているのに動けない場合、「意志が弱い」と結論づける必要はありません。
よくあるのは、問題設定そのものが大きすぎるケースです。
「人生をどうすればいいか」では広すぎますが、
「今月中に転職するか決めるため、今週は求人を3件見る」
なら扱える範囲が狭まります。
また、実行案が大きすぎる場合もあります。
「勉強する」ではなく、
「教材を開いて、今日やるページを確認する」
まで小さくすると、開始しやすくなることがあります。
セルフモニタリングを使い、「どの状況で止まりやすいか」「何をした日は進みやすかったか」を観察すると、問題設定そのものを修正する材料も得られます。
問題解決法と認知再構成法の違い
認知再構成法と問題解決法は、どちらも認知行動療法の文脈で用いられますが、焦点が異なります。
たとえば、
上司から返事がない。嫌われたに違いない。
という状況で、
「嫌われたに違いない」という考えを、根拠や別の見方から検討するのが認知再構成法です。
一方、
返事がないため、明日の仕事をどう進めるか決められない。
という現実的な課題に対して、
「再度連絡する」「別の担当者に確認する」「返答がなくても進められる部分を進める」
と選択肢を整理するのが問題解決法です。
もちろん、実際の生活では両方が重なることがあります。
考え方を整理した方がよいのか、現実の問題へ行動した方がよいのか、それともまず負担を下げた方がよいのかを区別すると、対処法を選びやすくなります。
問題解決法と行動活性化の違い
行動活性化は、活動と気分・生活状況との関係を観察しながら、生活の中に行動を組み直していくアプローチです。行動活性化の記事
問題解決法は、
「具体的な問題に対して、どんな選択肢を取るか」
を整理することが中心です。
一方、行動活性化では、
「動けない状態の中で、生活との接点をどう増やすか」
がより中心になります。
そのため、
「何をすればいいのか分からない」なら問題解決法、
「何をすればいいかは分かっているが、行動そのものが止まっている」なら行動活性化、
という区別が役立つことがあります。
ただし、実際には併用されることもあります。
すべての問題を一人で解決する必要はない
問題解決という言葉から、
自分で答えを出さなければいけない。
と考える必要はありません。
「誰かへ相談する」「役割を分担する」「環境を変える」「専門的な支援につながる」ことも、問題への対応です。
特に、強い心身の不調が続いている、生活や仕事・学校への影響が大きい、安全面の心配がある、といった場合は、セルフケアの手順を続けることよりも、周囲や専門機関へ相談することが優先される場合があります。
Ig Knowledgeでは、本人だけに整える責任を負わせず、本人・環境・周囲の支援を含めて条件を考えることを大切にしています。
問題解決療法にはどの程度エビデンスがある?
ここでは、日常的な「問題解決のコツ」と、治療として研究されている問題解決療法(PST)を分けて考える必要があります。
成人のうつ病を対象とした2018年のメタ解析では、30件のランダム化比較試験、計3,530人が対象となりました。全研究をまとめると対照群との差は比較的大きく見えましたが、研究間のばらつきも非常に大きい結果でした。
低バイアスリスクの9研究だけに絞ると効果量は小さくなり、著者らはPSTについて、うつ病に対しておそらく有効で、他の心理療法と同程度の効果が考えられるという慎重な結論を示しています。PubMed: Cuijpers et al. (2018)
また、PSTについては、単なる「解決策を考える技術」だけではなく、問題への向き合い方と、問題定義・代替案生成・意思決定・実行と評価などを組み合わせることの重要性も指摘されています。PubMed
一方、若年者については結果が一貫しているわけではありません。
13〜25歳を対象とした2023年の系統的レビューでは25研究が採用されましたが、対象者、介入内容、研究方法などの異質性が大きく、若年者のうつ病予防・治療に対する問題解決介入のエビデンスはmixed evidenceとまとめられています。PMC systematic review
そのため、
「この6ステップを使えば、うつや不安が改善する」
とまでは言えません。
この記事で紹介した方法は、問題を整理し、次に試す行動を考えるための一つの枠組みとして捉えるのが適切です。
まとめ
問題解決法では、考え続けて答えを出そうとするのではなく、
問題を具体化し、ゴールを決め、いくつかの選択肢を作り、小さく試して結果から修正する
という流れを使います。
大切なのは、一度で正しい答えを出すことではありません。
「この方法は重かった」
「ここまではできた」
「これは自分だけでは変えられない」
「誰かに相談した方がよさそう」
ということも、次の選択を考えるための情報になります。
問題をすべて解決するのではなく、今扱える部分を見つける。
それだけでも、漠然とした悩みから次の一歩へ移りやすくなることがあります。

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