第4回公認心理師試験・午後問94は、G. Bateson〈グレゴリー・ベイトソン〉の二重拘束理論〈double bind theory〉と、そこに深く関係するコミュニケーション概念を問う問題です。
正答は ⑤ メタ・コミュニケーション です。
二重拘束では、表面的な言葉と、表情・態度・文脈などの別レベルのメッセージが矛盾し、しかもその矛盾について話し合うこと自体が難しい状況が問題になります。
この「いまのやりとりが何を意味しているのか」「このメッセージをどう受け取るべきか」という、コミュニケーションについてのコミュニケーションがメタ・コミュニケーションです。

問題
G. Bateson の二重拘束理論に関連する概念として、最も適切なものを1つ選べ。
- 三角関係
- 両親連合
- 世代間境界
- ホメオスタシス
- メタ・コミュニケーション
正答は ⑤ メタ・コミュニケーション です。
正答⑤|メタ・コミュニケーションとは
メタ・コミュニケーションとは、
「コミュニケーションについてコミュニケーションすること」
です。
たとえば、
「今の言い方は怒っているように聞こえたけれど、本当はどういう意味?」
と確認することは、メッセージそのものではなく、そのメッセージの意味や関係性について扱っています。
人は会話の中で、言葉だけを受け取っているわけではありません。
- 声の調子
- 表情
- 視線
- 身体の向き
- その場の文脈
- 相手との関係性
なども同時に読み取っています。
言葉と非言語メッセージが一致していれば理解しやすい一方、矛盾していると意味が不明確になります。
そのとき、
「今の言葉と態度が食い違っているように感じる」
と、その矛盾自体について話すことができれば、コミュニケーションを整理できます。
二重拘束理論では、このようなメタ・コミュニケーションが困難になる点が重要です。
二重拘束〈double bind〉とは
Batesonらは1956年、統合失調症をコミュニケーションの観点から理解しようとする理論を提示しました。
二重拘束は、簡単に言えば、
どちらを選んでも矛盾した要求に反することになり、しかもその矛盾について指摘したり、その場から離れたりすることが難しい状況
です。
典型的には、
- 重要な対人関係の中で
- 異なるレベルのメッセージが矛盾し
- その状況が反復され
- 矛盾そのものについて話すことができず
- 関係から逃れることも難しい
という特徴で説明されます。
具体例で理解する
たとえば、親が子どもに、
「もっと近くに来て。あなたのことが大切だから」
と言いながら、子どもが近づくと身体を強くこわばらせたり、嫌そうな表情を示したりするとします。
この場合、
- 言語メッセージ:近づいてほしい
- 非言語メッセージ:近づかないでほしい
という矛盾が生じます。
さらに、
「近づいたら嫌そうにしたよね」
と子どもが指摘すると、
「そんなこと言っていない。あなたの考えすぎ」
と否定される場合、メッセージの矛盾を話題にすることも難しくなります。
このようなコミュニケーションのレベル間の矛盾を捉えるために、メタ・コミュニケーションという考え方が重要になります。
メッセージには複数のレベルがある
二重拘束理論を理解するには、メッセージを一層で考えないことが重要です。
たとえば、
「好きにしていいよ」
という言葉でも、
- 穏やかな声で言う
- 怒った顔で言う
- 皮肉を込めて言う
では意味が変わります。
内容レベルでは同じ文章でも、関係レベル・文脈レベルの意味は異なるからです。
したがって、
何を言ったか
だけでなく、
どのような関係・文脈で、どのように伝えたか
を見る必要があります。
① 三角関係|正答ではない理由
三角関係やトライアングルは、家族システム論などで重要な概念です。
二者関係の緊張を第三者を含む関係で調整するなど、家族関係を理解するうえで用いられます。
しかし、Batesonの二重拘束理論に最も直接的に結びつく概念は、矛盾するメッセージのレベルを扱うメタ・コミュニケーションです。
したがって①は正答ではありません。
② 両親連合|正答ではない理由
両親連合は、家族のサブシステムや連合を理解するときに用いられる概念です。
家族療法では、
- 夫婦サブシステム
- 親子サブシステム
- 連合
- 境界
などの構造を分析することがあります。
しかし、二重拘束の中心は両親が連合しているかどうかではありません。
したがって②は不適切です。
③ 世代間境界|正答ではない理由
世代間境界は、家族療法、とりわけ家族構造を扱う考え方と関連します。
親世代と子ども世代の境界が、
- 過度に硬い
- 曖昧
- 適切
といった観点で整理されることがあります。
二重拘束理論は主としてメッセージの矛盾とコミュニケーションのレベルを扱うため、③は正答ではありません。
④ ホメオスタシス|正答ではない理由
ホメオスタシスは、システムが一定の状態を維持しようとする性質を指します。
家族システムでも、
「家族全体が現在の関係パターンを維持しようとする」
という説明に使われることがあります。
二重拘束理論と同じシステム論的文脈で登場し得る重要語ですが、本問で直接問われている概念ではありません。
したがって④ではなく⑤です。
二重拘束理論の歴史的位置づけ
ここは重要です。
Batesonらの1956年の論文では、二重拘束状況が統合失調症の発症に関与する可能性が仮説として提示されました。
しかし現在、二重拘束を統合失調症の原因として確立された理論のように扱うことは適切ではありません。
統合失調症は、
- 遺伝的要因
- 神経生物学的要因
- 発達的要因
- ストレス
- 社会環境
などが複雑に関係する多因子性の疾患として理解されます。
APA Dictionary of Psychologyでも、double bindは「かつて統合失調症の原因と考えられた」理論として説明されています。
試験では、
Bateson/二重拘束/メタ・コミュニケーション
という対応関係を押さえつつ、実務では歴史的理論として位置づけることが重要です。
家族療法とのつながり
二重拘束理論は、家族を「個人の背景」ではなく、相互作用するコミュニケーション・システムとして捉える流れに影響を与えました。
家族療法では、
- 誰が悪いか
- 誰に原因があるか
という直線的な理解より、
関係の中でどのような相互作用が繰り返されているか
を見る視点が重要になります。
Ig Knowledgeでは、家族療法を含む心理療法の位置づけについてカウンセリングと心理療法の違いでも整理しています。
試験での見分け方
次の対応を押さえておくと整理しやすくなります。
- Bateson → 二重拘束 → メタ・コミュニケーション
- Bowen → 三角関係
- 構造派家族療法 → 境界・サブシステム・連合
- システム論 → ホメオスタシス
本問では、「Bateson」という人名が最も大きな手がかりです。
まとめ
第4回公認心理師試験・午後問94の正答は ⑤ メタ・コミュニケーション です。
二重拘束理論では、
矛盾する異なるレベルのメッセージを受けながら、その矛盾について話すことも難しい
というコミュニケーション状況が問題になります。
試験では、
Bateson → 二重拘束 → メタ・コミュニケーション
の組み合わせを確実に覚えておきましょう。
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第4回公認心理師試験 午後問題・正答
- Bateson G, Jackson DD, Haley J, Weakland J. Toward a Theory of Schizophrenia. Behavioral Science. 1956.
- APA Dictionary of Psychology|double bind


コメント