第4回公認心理師試験・午後問87は、A. H. Maslow〈マズロー〉の欲求階層説において、最も下位に位置づけられる欲求を問う問題です。正答は ③ 生理的欲求 です。
Maslowの理論では、人間の基本的欲求として、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、自尊の欲求、自己実現の欲求が階層的に整理されます。試験対策では順番を覚えるだけでなく、「それぞれが何を意味するのか」「なぜ生理的欲求が最も基礎に置かれるのか」まで理解しておくと、類似問題にも対応しやすくなります。
問題
Maslowの欲求階層説について、5つの欲求の中で最も下位に位置づけられるものを選びます。
- 安全の欲求
- 自尊の欲求
- 生理的欲求
- 自己実現の欲求
- 所属と愛の欲求
正答は ③ 生理的欲求 です。
正答は③|生理的欲求
生理的欲求〈physiological needs〉は、生きるために直接必要となる身体的・生物学的な欲求です。
代表的には、
- 食べる
- 飲む
- 呼吸する
- 眠る
- 体温を保つ
- 排泄する
といった生命維持に関わる欲求です。
Maslowは、こうした欲求が十分に満たされていない状況では、他の欲求よりも優先度が高くなりやすいと考えました。
たとえば極端な空腹状態では、
「周囲から評価されたい」
「自分らしく成長したい」
という高次の欲求より、まず食べることが行動を強く方向づけます。
このため、生理的欲求は欲求階層の最下位、つまり最も基礎的な位置に置かれます。
Maslowの5つの基本的欲求
試験では、下から上への順番を確実にしておきましょう。
第1段階|生理的欲求
生命維持に関する欲求です。
- 食事
- 水分
- 睡眠
- 呼吸
- 排泄
などが中心です。
第2段階|安全の欲求
身体的・心理的に安全で、生活が安定していることを求める欲求です。
たとえば、
- 危険から守られる
- 住居が安定している
- 生活の見通しが立つ
- 秩序や安心感がある
といった状態です。
第3段階|所属と愛の欲求
人とのつながりや受容を求める欲求です。
- 家族とのつながり
- 友人関係
- 仲間への所属
- 親密な関係
- 愛情を与え、受けること
などが含まれます。
第4段階|自尊の欲求
自分自身を価値ある存在と感じること、他者から認められることに関する欲求です。
- 達成感
- 自信
- 有能感
- 自尊心
- 承認
- 評価
などが関連します。
第5段階|自己実現の欲求
自分の能力や可能性を活かし、「自分がなり得るものになろうとする」欲求です。
単に成功することだけではなく、自分の資質や可能性をできるだけ実現しようとする方向性として理解します。
覚える順番
下から、
生理 → 安全 → 所属と愛 → 自尊 → 自己実現
です。
語呂だけでなく、意味の流れを考えると覚えやすくなります。
まず生きるための身体的条件があり、その次に安全な生活があり、その上に人とのつながり、自己評価・他者からの評価、さらに自己の可能性の実現が位置づけられます。
「下位の欲求が100%満たされないと次へ進めない」わけではない
欲求階層説は、しばしば「下の段階を完全にクリアしないと上の段階には絶対に進めない」というピラミッド図として説明されます。
しかし、Maslow自身の議論は、それほど機械的なものではありません。
複数の欲求は同時に存在し得ますし、ある欲求が部分的に満たされることで、より高次の欲求が強くなることもあります。
したがって、試験では階層の順番を押さえつつ、
「人間の欲求は必ず一段ずつ完全に満たされる」
と極端に理解しないことが大切です。
「優勢性の階層」という考え方
Maslowは基本的欲求について、どの欲求が行動をより強く方向づけるかという優勢性〈prepotency〉の違いを論じました。
生理的欲求が強く満たされていない状況では、生理的欲求が意識や行動を占めやすくなります。
それがある程度満たされると、安全、所属、自尊など、より上位の欲求が相対的に重要になります。
この考え方を理解すると、「下位」という言葉を単なる上下関係としてではなく、より基礎的で優先されやすい欲求として理解できます。
① 安全の欲求が違う理由
安全の欲求は第2段階です。
生理的欲求が一定程度満たされると、
- 危険を避けたい
- 安定して暮らしたい
- 予測可能な環境で生活したい
という欲求が前景化します。
重要な欲求ですが、最下位ではありません。
② 自尊の欲求が違う理由
自尊の欲求は第4段階です。
自分自身への評価と、他者からの評価の両方が関係します。
たとえば、
- 自信を持ちたい
- 能力を発揮したい
- 認められたい
- 尊敬されたい
という欲求です。
生理的欲求・安全・所属と愛よりも高次に位置づけられます。
④ 自己実現の欲求が違う理由
自己実現の欲求は、基本的な5段階の中では最も上位に位置づけられます。
自分自身の可能性や能力を十分に活かし、自分らしい成長や達成を目指す欲求です。
したがって、本問の「最も下位」とは正反対です。
⑤ 所属と愛の欲求が違う理由
所属と愛の欲求は第3段階です。
安全がある程度確保された後、
- 家族
- 友人
- 恋人
- 集団
などとのつながりを求める欲求が重要になります。
人間関係・所属感のテーマとして、心理学のさまざまな領域と関係します。
自己実現は人間性心理学の重要概念
Maslowは、人間性心理学を代表する研究者の一人です。
人間性心理学では、精神分析や行動主義だけでは十分に捉えきれない、
- 主体性
- 成長
- 意味
- 自己実現
- 人間の可能性
などが重視されました。
C. R. Rogersも人間性心理学を代表する人物であり、「自己概念」「自己一致」「成長する力」などを重視しました。
MaslowとRogersは理論の内容は異なりますが、
人間の成長可能性を重視する
という大きな方向性で関連づけて覚えると整理しやすくなります。
「欠乏欲求」と「成長欲求」
Maslowの理論を発展的に学ぶと、低次の欲求は欠乏を埋めようとする欠乏欲求〈deficiency needs〉として、高次の自己実現は成長へ向かう成長欲求〈growth need〉として整理されることがあります。
試験でまず重要なのは5段階の順番ですが、
- 足りないものを満たそうとする方向
- 自分の可能性を広げようとする方向
という違いを理解すると、自己実現の位置づけが分かりやすくなります。
心理支援での扱いには注意が必要
欲求階層説は非常に有名で、教育、医療、福祉、産業など多くの場面で説明に使われます。
一方で、すべての人に固定された5段階が同じ順序で生じることを、普遍的な法則として扱うことには慎重さが必要です。
文化、生活環境、価値観、危機状況などによって、何を優先するかは異なります。
したがって実践では、
「この人はいま第何段階だからこう支援する」
と機械的に当てはめるのではなく、その人が何を必要としているかを個別に確認することが重要です。
第3回問91「自己実現」とつなげる
第3回公認心理師試験では、「自己実現」という概念が選択肢として登場しています。
Maslowの自己実現は、
自分の可能性を実現し、自分がなり得るものになろうとすること
と理解するとよいでしょう。
今回の問87では、その自己実現が階層の最上位にあり、その対極として最も基礎にあるのが生理的欲求です。
第4回問9「Rogersの自己概念」とつなげる
第4回午前問9では、Rogersのパーソナリティ理論で「自己概念」が問われました。
MaslowとRogersは同じ理論ではありませんが、いずれも人間性心理学の文脈で重要です。
試験では、
- Maslow → 欲求階層・自己実現
- Rogers → 自己概念・来談者中心療法・共感的理解
と分けて覚えます。
試験での見分け方
Maslowの欲求階層説が出たら、まず5段階を下から思い出します。
生理的欲求
↓
安全の欲求
↓
所属と愛の欲求
↓
自尊の欲求
↓
自己実現の欲求
本問は「最も下位」と聞かれているため、③生理的欲求です。
まとめ
第4回公認心理師試験・午後問87の正答は ③ 生理的欲求 です。
Maslowの5つの基本的欲求は、下から、
生理 → 安全 → 所属と愛 → 自尊 → 自己実現
と整理されます。
試験では順番の暗記だけでなく、生理的欲求が生命維持に直結する最も基礎的な欲求であることを理解しておきましょう。
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参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第4回公認心理師試験 午後問題・正答
- Maslow AH. A Theory of Human Motivation. Psychological Review. 1943.
- Maslow AH. Motivation and Personality.


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