第4回公認心理師試験・午前問70は、企業が多様な属性・経験をもつ人材を組織の中で活かす取組をどの概念で説明するかを問う問題です。正答は⑤ ダイバーシティマネジメントです。単に女性・外国人・障害者などの人数を増やすことではなく、個々の違いを認め、能力発揮の機会を整え、それを組織の価値創造や競争優位につなげる点が核心です。
実際の問題文
問70 製造業A社は、これまで正社員の大半が男性であった。ここ数年の労働力不足を背景に、様々な人材を登用する機会を模索している。女性の管理職の増加を目指したキャリアコンサルティングの実施、外国人社員に伴って来日した配偶者の採用に加え、社内に障害者支援委員会を設置して精神障害者の就労支援を行うなど、個々の違いを認め、尊重し、それらを組織の競争優位性に活かそうとする取組を行った。その取組をきっかけとして、女性社員、高齢者や国籍の異なる社員なども少しずつ増えて、今では属性の異なった人と協働する機会が増えている。
このA社の取組を全体的に表すものとして、最も適切なものを1つ選べ。
① コンプライアンス
② キャリアマネジメント
③ ポジティブアクション
④ アファーマティブアクション
⑤ ダイバーシティマネジメント
問題文の読み解き
設問で最も重要なのは、「個々の違いを認め、尊重し、それらを組織の競争優位性に活かそうとする」という部分です。女性管理職の増加、外国人社員の家族の採用、精神障害者の就労支援など、複数の属性や背景をもつ人材を組織の中で活かす取組がまとめて提示されています。
ここでは、一つの施策名を答えるのではなく、A社の取組を「全体的に表すもの」が問われています。したがって、女性活躍だけ、障害者雇用だけ、キャリア支援だけに着目すると選択肢を狭く捉えすぎます。
正答⑤ ダイバーシティマネジメント
ダイバーシティマネジメントは、性別、年齢、国籍、障害の有無、価値観、経験、働き方などの違いを持つ人材を組織の中で活かし、能力発揮や価値創造につなげる経営の考え方です。経済産業省も、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し価値創造につなげている経営」と整理しています。
A社は人材の属性を単に多様化しているだけではなく、「違いを認め、尊重する」「競争優位性に活かす」「異なる属性の人と協働する機会が増える」という組織全体の変化を目指しています。このため⑤が最も包括的です。
ダイバーシティとインクルージョン
ダイバーシティは「違いが存在すること」
ダイバーシティは、多様な属性・背景・経験を持つ人が組織に存在している状態を指します。しかし、人数が多様になっただけでは、必ずしも能力発揮や組織成果につながりません。
インクルージョンは「参加できること」
インクルージョンは、その違いを持つ人々が排除されず、意思決定や仕事の機会に参加できる状態を重視します。多様な人材がいても、発言権や昇進機会が偏っていれば、実質的な包摂は十分ではありません。
経営としてのダイバーシティ
国家試験では、ダイバーシティを「多様な人がいる」だけで終わらせず、採用、配置、育成、評価、働き方、職場環境などを通じて能力発揮につなげる視点を押さえると判断しやすくなります。
① コンプライアンスが誤りである理由
コンプライアンスは、法令や社会規範、組織内ルールなどを遵守することを中心とする概念です。障害者雇用や差別防止には法的義務が関係しますが、A社の取組は「法令を守ること」だけを目的としていません。異なる背景をもつ人材を活かし、組織の競争優位につなげるという積極的な経営戦略が示されています。
② キャリアマネジメントが誤りである理由
キャリアマネジメントは、個人や組織が職業上の経験・役割・能力開発を計画し管理することに関係します。A社は女性管理職を増やすためにキャリアコンサルティングを実施していますが、それは全体の一部です。外国人、高齢者、障害者など多様な人材を活かす組織全体の取組を説明するには範囲が狭すぎます。
③ ポジティブアクションが誤りである理由
ポジティブアクションは、雇用や昇進などで生じている実質的な格差を是正するために、特定の集団に対して積極的な措置を講じる考え方です。日本の雇用施策では、特に男女間の格差是正との関連で用いられることがあります。
A社の女性管理職増加の取組にはポジティブアクション的側面があります。しかし設問では、女性だけでなく、外国人、高齢者、精神障害者など複数の属性を含み、それらの違いを組織の競争優位に活かすことが中心です。したがって全体概念としては⑤が適切です。
④ アファーマティブアクションが誤りである理由
アファーマティブアクションは、歴史的・社会的に不利益を受けてきた集団への格差是正措置を指す概念です。ポジティブアクションと近い文脈で使われることがありますが、設問のA社は特定集団への優遇措置そのものを主題としていません。
むしろ、属性の異なる人材を組織に取り込み、協働と能力発揮を通じて価値創造へつなげる全体的な経営方針が描かれています。
「人数を増やす」だけでは不十分
ダイバーシティマネジメントでは、採用数や構成比だけでなく、入社後に能力を発揮できるかが重要です。配置や昇進機会、合理的配慮、柔軟な働き方、評価制度、研修、上司のマネジメントなど、組織側の条件も問われます。
異なる属性の社員が増えても、重要な情報から外されたり、固定観念で役割を決められたりすれば、多様性は組織の力になりにくくなります。そのため「多様な人材の存在」と「多様な人材が活躍できる仕組み」を分けて理解します。
心理職が職場支援で見る視点
公認心理師が産業・労働領域で関わる場合、個人の適応だけでなく、職場環境や制度との相互作用も重要です。たとえば障害のある社員への支援では、本人の努力だけでなく、業務調整、情報共有、上司・同僚の理解、相談体制、合理的配慮などを検討します。
また、多様性を理由に本人の特性を決めつけないことも重要です。「外国人だから」「高齢者だから」「精神障害があるから」と一括りにせず、本人の希望、能力、仕事内容、環境条件を個別に確認します。
試験での見分け方
「競争優位」「価値創造」が強い手掛かり
多様性を組織成果へつなげる記述があれば、ダイバーシティマネジメントを疑います。
特定集団の格差是正ならポジティブアクション
女性など特定集団の採用・昇進格差の是正が中心なら、ポジティブアクションとの区別を検討します。
法令遵守だけならコンプライアンス
企業倫理や法令遵守が中心ならコンプライアンスです。施策の目的と範囲を確認します。
表面的な多様化とダイバーシティ経営の違い
採用時に多様な属性の人を増やしても、その後の配置や評価、昇進機会が従来と同じままであれば、ダイバーシティ経営の効果は限定的です。たとえば女性を採用しても管理職候補から外す、外国人社員へ重要業務を任せない、障害のある社員に一律の役割だけを与えるといった運用は、人数の多様化にとどまります。
ダイバーシティマネジメントでは、異なる人材が実際に能力を発揮し、意思決定や価値創造へ参加できる仕組みが必要です。採用、配置、育成、評価、昇進、職場環境を一体として見る点が、単発の雇用施策との違いです。
心理的安全性との関係
属性の異なる人が同じ職場にいても、自分の意見を言うことで不利益を受けると感じれば、協働は進みにくくなります。異なる視点を共有でき、分からないことを質問し、失敗や懸念を報告できる職場環境は、多様性を組織の学習へつなげる上で重要です。
ただし、心理的安全性そのものがダイバーシティマネジメントの定義ではありません。多様な人材の参加を支える一つの組織条件として位置づけると整理できます。
多様性を固定観念で扱わない
ダイバーシティ施策では、属性を重視するあまり、「女性はこう働く」「高齢者は変化が苦手」「外国人はこの役割が得意」といった固定観念を強める危険があります。属性は支援や制度設計を考える一つの情報ですが、個人の能力、希望、経験を直接決めるものではありません。
心理職が職場支援に関わる場合も、集団カテゴリーと個人理解を区別する必要があります。本人の希望や困難を確認しながら、必要な環境調整や組織上の課題を検討します。
組織にとってのメリットをどう考えるか
多様な人材を活かすことは、新しい顧客ニーズの理解、異なる視点からの問題解決、人材確保、柔軟な働き方の開発などにつながる可能性があります。一方、多様性を導入すれば自動的に成果が上がるわけではありません。意思疎通や価値観の違いによる摩擦が生じることもあります。
そのため、管理職のマネジメント、役割の明確化、対話の機会、公平な評価、ハラスメント防止などを組み合わせる必要があります。試験では、「多様性そのもの」ではなく「多様性を活かす経営」を見抜くことが重要です。
関連用語との整理
ダイバーシティは多様性、インクルージョンは参加・包摂、エクイティは必要に応じた公正な機会や資源配分を重視する語として使われます。実務では重なり合う概念ですが、国家試験では設問で示された目的と行動を優先して判断します。
本問では「個々の違いを認め、尊重し、それらを組織の競争優位性に活かす」という表現が決定的で、⑤を選ぶ根拠になります。
ダイバーシティ施策を評価する視点
施策の評価では、採用人数だけでなく、定着率、昇進機会、本人の能力発揮、職場での参加感など複数の指標を確認します。人数が増えても離職や排除が続くなら、組織側の仕組みを再検討する必要があります。
まとめ
第4回午前問70の正答は⑤ ダイバーシティマネジメントです。A社は女性、外国人、高齢者、精神障害者など多様な人材を組織に取り込み、違いを認め尊重しながら能力発揮と競争優位へつなげようとしています。個別施策だけを見るのではなく、組織全体の経営方針を問う問題として整理すると見分けやすくなります。


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