第5回公認心理師試験・午後問81は、感情が判断にどのような情報を与えるかを説明する感情情報機能説〈feelings-as-information theory〉を問う問題です。
正答は ① 感情情報機能説 です。
この理論では、人は判断するときに、自分の感情を「いまの対象についての情報」として利用することがあります。
ただし、その感情が判断対象とは無関係な別の原因から生じていると気づくと、感情を手掛かりとして使わなくなり、その影響が小さくなると考えます。

問題
感情が有効な手がかりになる際には、判断の基盤として感情を用いるが、その影響に気づいた場合には効果が抑制されると主張している感情に関する考え方として、最も適切なものを1つ選べ。
- 感情情報機能説
- 認知的評価理論
- コア・アフェクト理論
- 感情ネットワーク・モデル
- ソマティック・マーカー仮説
正答は ① 感情情報機能説 です。
正答①|感情情報機能説とは
感情情報機能説は、Norbert SchwarzとGerald Cloreらの研究で発展した考え方です。
基本的には、
「私はこれについてどう感じているか?」という自分の感情を、判断材料として用いる
という考え方です。
たとえば、ある商品を評価するとき、
- 楽しい気分 → 「この商品は良さそう」
- 不快な気分 → 「あまり良くないかもしれない」
というように、感情状態が評価へ影響することがあります。
ただし重要なのは、感情そのものが機械的に判断を変えるわけではなく、
その感情を「今判断している対象に関係する情報」とみなすかどうか
です。
「感情の原因に気づく」と影響が弱まる
感情情報機能説の代表的な特徴が、設問文の後半です。
たとえば雨の日に気分が沈んでいて、人生満足度を尋ねられたとします。
気分の悪さを、
「自分の人生がうまくいっていないからだ」
と捉えれば、人生満足度を低く評価する可能性があります。
一方で、
「今日は雨だから気分が沈んでいるだけだ」
と気づけば、その気分を人生評価の情報として使いにくくなります。
SchwarzとCloreの研究では、感情の原因を判断対象とは無関係な要因へ帰属すると、感情が判断へ及ぼす影響が弱まることが示されています。
つまり、
感情を情報として信用できると思うかどうか
が重要です。
感情は「邪魔なノイズ」とは限らない
感情が判断に影響すると聞くと、
「感情は合理的判断を邪魔するもの」
と考えやすいですが、感情情報機能説はそれほど単純ではありません。
たとえば、
- 危険を感じる
- 心地よさを感じる
- 違和感を覚える
といった感情は、状況について素早く判断するための情報になり得ます。
問題になるのは、
感情の原因を誤って判断対象へ結びつけること
です。
感情と認知の相互作用
感情は、判断だけでなく情報処理の仕方にも影響します。
Cloreらのレビューでは、ポジティブ感情とネガティブ感情によって、アクセス可能な認知内容の利用のされ方や処理スタイルが変化する可能性が整理されています。
Ig Knowledgeでは第6回問10|ポジティブ感情で、感情が注意や情報処理に与える影響も扱っています。
また、感情そのものをどう調整するかについては感情調整とは?で整理しています。
② 認知的評価理論|正答ではない理由
認知的評価理論〈cognitive appraisal theory〉では、
出来事をどのように評価・解釈したかによって感情が生じる
と考えます。
たとえば同じ試験結果でも、
- 「失敗だ」と評価する
- 「次への情報だ」と評価する
では、生じる感情が異なる可能性があります。
Lazarusらのストレス・感情理論とも深く関係します。
しかし本問が問う、
感情を判断情報として利用し、その感情の原因に気づくと影響が抑えられる
という説明は、認知的評価理論ではなく感情情報機能説です。
③ コア・アフェクト理論|正答ではない理由
コア・アフェクト〈core affect〉は、James A. Russellらが提唱した感情理論に関係します。
感情の基礎となる状態を、
- 快―不快
- 活性―不活性
などの次元から捉えます。
「興奮して心地よい」
「沈んで不快」
といった現在の基本的感情状態を次元的に捉える考え方です。
本問の「判断の情報として感情を利用する」という中心説明とは異なります。
④ 感情ネットワーク・モデル|正答ではない理由
感情ネットワーク・モデルは、Bowerらの研究と関連します。
記憶の中で、
- 感情
- 出来事
- 概念
- 記憶
がネットワーク状に関連しており、ある感情状態が活性化すると、それと関連した記憶や情報へアクセスしやすくなると考えます。
これは、気分一致記憶などを説明する理論として重要です。
しかし、
感情を判断材料として使い、その情報価値が否定されると効果が消える
という本問の特徴とは異なります。
⑤ ソマティック・マーカー仮説|正答ではない理由
ソマティック・マーカー仮説は、Antonio Damasioによって提唱されました。
過去の経験に伴って形成された身体的・情動的反応が、意思決定の際に選択肢を方向づけると考えます。
たとえば、過去に大きな損失を経験した選択肢に対して身体的な不快反応が生じ、その反応が意思決定を回避方向へ導く、といった説明です。
Ig Knowledgeの第6回問20|フォーカシングのフェルトセンスでも、ソマティック・マーカーとの違いを整理しています。
本問で示されている「感情の情報源に気づくと判断への影響が弱まる」という説明は、感情情報機能説に該当します。
「感情の影響に気づく」の意味
試験文の「その影響に気づいた場合には効果が抑制される」は少し分かりにくい表現です。
ポイントは、
自分が感じている感情が、判断対象そのものではなく別の原因から生じた可能性に気づく
ことです。
たとえば、
「この人が嫌いなのではなく、今日は疲れていてイライラしているだけかもしれない」
と気づけば、感情をその人の評価の根拠として使いにくくなります。
この感情の情報価値の割引〈discounting〉が重要です。
臨床でどう考えるか
感情情報機能説は、そのまま心理療法の技法を意味するものではありません。
ただし臨床では、
「この感情は何についての反応なのか」
を区別することは重要です。
たとえば、
- 目の前の相手への怒りなのか
- 過去の出来事が想起された反応なのか
- 睡眠不足や疲労による不快感なのか
- その場の危険を知らせる情報なのか
を整理することで、感情に引きずられすぎず、同時に感情が持つ情報も無視しない理解につながります。
試験での見分け方
本問のキーワードは、
感情を判断の手掛かりとして用いる
+
その感情が別の原因だと分かると影響が弱まる
です。
この組み合わせが出たら、
感情情報機能説〈feelings-as-information〉
を選びます。
まとめ
第5回公認心理師試験・午後問81の正答は ① 感情情報機能説 です。
感情情報機能説では、
人は自分の感情を判断の情報として利用するが、その感情が判断対象とは無関係な原因によるものだと認識すると、その影響は弱くなる
と考えます。
試験では、
Schwarz・Clore → 感情を情報として利用 → 原因の帰属で影響が変わる
という流れを押さえておきましょう。
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午後問題・正答
- Clore GL, Huntsinger JR. How emotions inform judgment and regulate thought. Trends in Cognitive Sciences. 2007.
- Schwarz N, Clore GL. Feelings-as-information theory.


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