第5回公認心理師試験・午前問75は、傷害事件を起こした22歳男性の事例をもとに、情状鑑定で検討する事項として不適切なものを選ぶ問題です。正答は ④ 心神喪失状態の有無 です。
この問題の最大のポイントは、
情状鑑定
と
責任能力を評価する精神鑑定
を区別することです。
情状鑑定では、量刑判断の参考となるように、
- 性格
- 認知の特徴
- 家族関係
- 生活歴
- 犯行の背景
- 再犯防止に関わる要因
などを検討します。
一方、「犯行時に心神喪失・心神耗弱であったか」という責任能力の問題は、情状鑑定そのものの中心目的ではありません。

問題
問題の要旨: 22歳の男性Aが、同居する父親を刃物で切りつけ傷害事件を起こしました。Aには犯罪歴はなく、中学入学後から不登校となり、短期のアルバイト経験はあるものの事件当時は無職でした。Aは、近所の人が自分の秘密を知っているのは父親が話しているからだと述べ、過去に父親から殴られた恨みも動機として語っています。
Aの情状鑑定で検討する事項として、誤っているものを選びます。
- 性格の特性
- 認知の特性
- 家族の関係性
- 心神喪失状態の有無
- 犯行当時の生活状況
正答は ④ 心神喪失状態の有無 です。
正答は④|心神喪失の有無は責任能力の問題
心神喪失・心神耗弱は、刑事責任能力に関わる概念です。
刑法上、責任能力が問題となる場合には、
- 精神障害が存在していたか
- その精神障害が犯行時の判断能力にどう影響したか
- 行動を制御する能力にどう影響したか
などを検討します。
これは、主に精神鑑定などの責任能力評価に関係します。
一方、情状鑑定の中心は、責任能力の有無を決めることではありません。
したがって④が不適切です。
情状鑑定とは
情状鑑定は、被告人の人格や生活史、犯行背景などを心理学・社会学・精神医学等の知見から検討し、量刑判断の参考となる情報を提供する鑑定です。
検討される内容には、
- 生育歴
- 家族歴
- 学校生活
- 就労歴
- 対人関係
- 性格
- 認知の特徴
- 犯行の動機
- 犯行に至る心理過程
- 再犯リスク
- 再犯防止のための支援可能性
などが含まれます。
つまり、
「この人がどのような背景をもち、なぜこの犯罪に至ったのか」
を理解することが重要です。
① 性格の特性は検討対象
被告人の性格や行動傾向は、情状鑑定で重要な情報です。
たとえば、
- 衝動性
- 対人不信
- 攻撃性
- 依存傾向
- ストレス対処
- 問題解決の特徴
などを検討します。
ただし、「性格が悪いから犯罪をした」と単純化するのではありません。
性格傾向と、
- 家庭環境
- 社会的孤立
- 職業状況
- 精神状態
- 事件直前の出来事
などを組み合わせて理解します。
したがって①は適切です。
② 認知の特性は検討対象
本事例ではAが、
「近所の人たちが自分の秘密を全て知っている」
と考えています。
このような認知が、
- どの程度確信されているか
- どのような経験から形成されたか
- 他者の意図をどう解釈する傾向があるか
- 犯行の動機とどう関係したか
を検討することには意味があります。
情状鑑定では、本人の認知の仕方や意味づけが犯行にどのように関係したかを分析します。
したがって②は適切です。
③ 家族の関係性は検討対象
Aは父親に対して、
- 自分の秘密を近所に話しているという疑念
- 昔から殴られていたという恨み
を語っています。
被害者が父親であり、同居しているという点からも、
家族関係は犯行背景を理解する上で重要な情報
です。
具体的には、
- 親子関係
- 家庭内暴力の有無
- 家族内コミュニケーション
- 養育歴
- 家族内の役割
- 支援資源
などを確認します。
したがって③は適切です。
⑤ 犯行当時の生活状況は検討対象
Aは事件当時無職でした。
また、中学入学後から不登校となり、就労歴も短期のアルバイトに限られています。
このような生活状況は、
- 社会的孤立
- 日中活動
- 経済状況
- 家庭への依存
- ストレス
- 対人関係の狭さ
などと関連する可能性があります。
犯行を理解するためには、事件当時の生活全体を把握する必要があります。
したがって⑤は適切です。
責任能力とは
刑事責任能力とは、犯罪行為について責任を負わせることができる心理的能力を指します。
一般に、
- 物事の是非善悪を判断する能力
- その判断に従って行動を制御する能力
が問題になります。
精神障害などによってこれらの能力が失われていた場合、心神喪失が問題になります。
能力が著しく低下していた場合には、心神耗弱が問題になります。
心神喪失・心神耗弱の最終判断は裁判所
医学・心理学の専門家が鑑定を行ったとしても、
心神喪失・心神耗弱かどうかを最終的に判断するのは裁判所です。
専門家は、
- 精神障害の状態
- 犯行時の心理状態
- 判断能力
- 行動制御能力
などについて専門的意見を提供します。
法律上の責任能力の判断は、医学的診断だけで自動的に決まるものではありません。
情状鑑定と精神鑑定の違い
試験では次のように整理すると分かりやすいです。
情状鑑定
目的:
量刑判断の参考となる被告人の背景・人格・犯行要因等を明らかにする
主な内容:
- 性格
- 認知
- 家族
- 生活歴
- 犯行動機
- 再犯防止
精神鑑定・責任能力鑑定
目的:
犯行時の精神状態と責任能力への影響を検討する
主な内容:
- 精神障害
- 是非善悪の弁識能力
- 行動制御能力
- 心神喪失・心神耗弱に関係する状態
この区別が問75の中心です。
「精神症状がありそうだから④」としない
Aの発言には、妄想的に見える内容があります。
そのため、
「精神疾患があるかもしれないから心神喪失を情状鑑定で調べる」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、試験問題は鑑定の目的の違いを問っています。
精神症状が疑われる場合に責任能力評価が必要になる可能性はありますが、それは情状鑑定そのものとは区別して考えます。
犯罪行動を多面的に理解する
情状鑑定では、犯罪行為を一つの原因で説明しません。
たとえば本事例では、
- 不登校歴
- 就労の不安定さ
- 家族関係
- 社会的孤立
- 認知の特徴
- 父親への恨み
- 犯行時の生活状況
など複数の要因を整理します。
公認心理師が司法・犯罪領域で関与する場合にも、個人の特性だけでなく環境や関係性を含めたアセスメントが重要です。
再犯防止との関係
情状鑑定で本人の背景を詳しく理解することは、量刑だけでなく、
- どのような支援が必要か
- 再犯につながるリスクは何か
- どのような環境調整が必要か
- 社会復帰時にどのような支援資源が必要か
を考える材料にもなります。
「なぜ起きたか」を理解することは、「今後どう防ぐか」を考えることにもつながります。
試験での見分け方
問題文に「情状鑑定」とあれば、
性格・認知・家族・生活歴・犯行背景・再犯防止
をまず考えます。
一方、
心神喪失・心神耗弱・責任能力
が出たら、責任能力鑑定・精神鑑定の領域です。
したがって④です。
まとめ
第5回公認心理師試験・午前問75の正答は ④ 心神喪失状態の有無 です。
情状鑑定では、被告人の性格、認知、家族関係、生活状況などを検討し、犯行背景や量刑判断に資する情報を整理します。
一方、
心神喪失の有無は刑事責任能力に関する問題
です。
試験では、
情状鑑定=背景・人格・量刑
精神鑑定=精神状態・責任能力
と整理しておきましょう。
※本記事は公認心理師試験の学習用解説です。個別の刑事事件における責任能力や量刑判断は、具体的事実・証拠・鑑定等を踏まえて司法機関が判断します。
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午前問題・正答
- 法務省資料|精神鑑定・心理鑑定・情状鑑定に関する整理


コメント