第6回公認心理師試験・午前問42は、S. E. Finnの治療的アセスメント〈Therapeutic Assessment〉について、不適切な説明を選ぶ問題です。正答は ② アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く です。
治療的アセスメントでは、心理検査を単なる情報収集の手段としてではなく、クライエントと協働しながら自己理解を深め、変化を促すための短期的な介入として活用します。
そのため、
- 標準化された心理検査を使う
- クライエント自身の質問を重視する
- 検査結果を一緒に話し合う
- アセスメントのプロセス自体を治療的に用いる
といった点が特徴です。
一方、「アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く」という考え方は、治療的アセスメントの協働的・対人的な性質と合いません。
- 問題
- 正答は②|「評価者の個性を取り除く」は不適切
- 治療的アセスメントとは
- 「検査する人」と「検査される人」ではなく協働する
- ⑤ クライエントに「何を明らかにしたいか」を尋ねる
- ① 標準化された心理検査を用いる
- 標準化と協働性は両立する
- ③ 検査結果についてクライエントと対話する
- ④ アセスメントのプロセス自体が心理療法とみなされる
- 一般的な心理アセスメントとの違い
- なぜ②が紛らわしいのか
- 「評価者の主観を自由に入れる」わけではない
- 治療的アセスメントの流れ
- 第4回問37とのつながり
- 第3回問33とのつながり
- 試験での見分け方
- まとめ
- 関連記事
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
- 公認心理師試験の過去問解説を続けて読む
問題
問題の要旨: S. E. Finnの治療的アセスメントについて、5つの説明の中から不適切なものを選びます。
- 標準化された心理検査を用いる
- アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く
- 心理検査の結果についてクライエントと対話する
- アセスメントのプロセス自体を心理療法として捉える
- クライエントに、アセスメントで何を明らかにしたいか尋ねる
※公式問題の趣旨を保ちながら学習用に整理しています。正答は ② です。
正答は②|「評価者の個性を取り除く」は不適切
治療的アセスメントは、検査者が完全に中立的な測定装置のようになり、人間的な関わりを排除する方法ではありません。
むしろ、
- 協働
- 尊重
- 好奇心
- 開かれた姿勢
- クライエントとの対話
を重視します。
もちろん、標準化検査を実施するときには、検査の標準的な手続きを守る必要があります。
しかし、
標準化された手続きを守ること
と
検査者の個性・人間的関与を取り除くこと
は別です。
治療的アセスメントでは、検査者とクライエントの関係性や対話そのものが重要な役割を持ちます。
治療的アセスメントとは
治療的アセスメント〈Therapeutic Assessment:TA〉は、Stephen E. Finnらによって発展した心理アセスメントのアプローチです。
通常の心理アセスメントでは、
- 診断
- 治療方針
- 支援計画
- 機能評価
などのために情報を収集します。
治療的アセスメントでも情報収集は行います。
しかし、それだけではなく、アセスメントを受けることそのものがクライエントにとって役立つ経験になることを重視します。
APAでも、Therapeutic Assessmentは、伝統的な心理検査をクライエントと協働して用い、本人が自分自身をよりよく理解し、持続している問題への解決策を見つけることを助ける短期的介入として紹介されています。
「検査する人」と「検査される人」ではなく協働する
従来型のアセスメントでは、
- 専門家が検査する
- 専門家が結果を解釈する
- 専門家が結果を伝える
という一方向的な構造になりやすい場合があります。
治療的アセスメントでは、クライエントをアセスメントの協働者として位置づけます。
たとえば、
「今回のアセスメントで、あなた自身について何を知りたいですか?」
と尋ねます。
クライエント自身の疑問が、アセスメント全体の中心になります。
⑤ クライエントに「何を明らかにしたいか」を尋ねる
これは治療的アセスメントの重要な特徴です。
初期段階で、クライエントが自分自身について抱いている疑問を一緒に整理します。
たとえば、
- なぜ人間関係でいつも同じことが起こるのか
- なぜ仕事になると急に自信がなくなるのか
- なぜ感情が高ぶると考えられなくなるのか
- 自分にはどのような強みがあるのか
といった問いです。
このような質問を「アセスメント質問」として扱い、その問いに答えるために検査や面接を活用します。
そのため⑤は適切です。
① 標準化された心理検査を用いる
これも適切です。
治療的アセスメントは、自由な対話だけで行う方法ではありません。
知能検査、認知機能検査、パーソナリティ検査など、目的に応じて標準化された心理検査を用います。
ここが重要です。
治療的だからといって、
「標準化された検査を使わない」
わけではありません。
むしろ、検査から得られた信頼できる情報を、クライエントとの協働的な理解に活かします。
標準化と協働性は両立する
心理検査では、実施方法が標準化されていることが重要です。
検査者が自分の判断で質問を変えたり、得点基準を変えたりすると、検査結果の意味が変わってしまいます。
治療的アセスメントでも、標準化検査はまず定められた方法で実施します。
その後、
- 検査中に本人が何を感じていたか
- 特定の反応を本人がどう理解するか
- 検査結果が本人の経験とどう結びつくか
を対話します。
つまり、
検査実施は標準化する
結果理解は協働的に行う
という組合せです。
③ 検査結果についてクライエントと対話する
これも治療的アセスメントの中核です。
結果を専門用語だけで一方的に説明するのではなく、
- 本人の実感と合うか
- 意外な結果はあるか
- 日常生活とどうつながるか
- 本人の質問にどう答えられるか
を話し合います。
この対話によって、クライエントが結果を「専門家から貼られたラベル」ではなく、自分自身を理解するための情報として扱いやすくなります。
したがって③は適切です。
④ アセスメントのプロセス自体が心理療法とみなされる
これも適切な方向です。
治療的アセスメントでは、アセスメントは治療前の単なる準備作業ではありません。
- 自分について問いを立てる
- 検査を受ける
- 結果について考える
- 新しい見方を検討する
- 自分の行動や経験を別の角度から理解する
という過程そのものが、クライエントの変化につながることを重視します。
その意味で、アセスメント・プロセス自体が治療的な介入として機能します。
一般的な心理アセスメントとの違い
治療的アセスメントを理解するには、一般的な情報収集型アセスメントと比較すると分かりやすくなります。
情報収集型アセスメント
主な目的:
- 診断
- 治療計画
- 支援方針
- 適性評価
- 客観的情報の収集
中心となる問い:
「この人について何を知る必要があるか」
治療的アセスメント
上記の目的に加えて、
- 自己理解
- 協働
- クライエントの疑問への回答
- 変化の促進
- 治療的関係
を重視します。
中心となる問い:
「本人は何を知りたいのか。その問いに一緒に答えられるか」
という違いがあります。
なぜ②が紛らわしいのか
心理検査には客観性・標準化が必要です。
そのため、
「検査者の影響をできるだけ減らす」
という発想自体は、一見もっともらしく見えます。
たとえば知能検査で、ある受検者だけに特別なヒントを出せば、標準化が崩れます。
しかし、このことと、
検査者の個性や関係性そのものを排除する
ことは同じではありません。
治療的アセスメントでは、人と人との関係を利用しながらアセスメントを進めます。
したがって②が不適切です。
「評価者の主観を自由に入れる」わけではない
ここも誤解しやすいポイントです。
②が誤りだからといって、
「検査者の主観で自由に解釈してよい」
という意味ではありません。
心理検査は、
- 標準化された実施
- 妥当な採点
- 根拠に基づく解釈
- 面接・観察情報との統合
が必要です。
治療的アセスメントでは、その専門性を保ちながら、クライエントとの対話や協働を加えます。
つまり、
客観性か人間関係か
の二者択一ではありません。
治療的アセスメントの流れ
代表的には、次のような流れで理解できます。
1. アセスメント質問をつくる
クライエントが知りたいことを整理します。
2. 標準化検査を実施する
質問に関連する心理検査を選びます。
3. 検査結果を統合する
検査、面接、行動観察などの情報を整理します。
4. クライエントと結果を話し合う
結果を一方的に伝えるのではなく、本人の経験と照らし合わせます。
5. 新しい理解を一緒に検討する
クライエントが受け入れやすい形で、新しい視点や可能性を探ります。
この一連の過程そのものが治療的に用いられます。
第4回問37とのつながり
第4回午後問37では、成人のクライエントへの心理検査の目的として、
- 自己理解や洞察を深める
- 治療計画に活用する
- セラピストとクライエントのコミュニケーションを深める
といった考え方が問われました。
そこでも、心理検査を「専門家が情報を取るだけの道具」と考えないことが重要でした。
今回の治療的アセスメントは、その考えをさらに明確にしたアプローチとして理解できます。
第3回問33とのつながり
第3回問33では、心理的アセスメントには心理検査の結果だけでなく、関与しながらの観察で得た情報も加味することが問われました。
心理アセスメントは、
検査得点だけで人を理解するものではない
という点で共通します。
治療的アセスメントでは、さらにクライエント本人との対話や質問を積極的に組み込みます。
試験での見分け方
「Finn」「治療的アセスメント」が出たら、次のキーワードを思い出します。
- 協働
- クライエント中心
- 標準化心理検査
- 本人の質問
- 結果の対話
- 自己理解
- アセスメントそのものが治療的
逆に、
- 評価者の人間性を排除する
- 一方的に結果を通知する
- クライエントの質問を扱わない
といった説明は合いにくいです。
まとめ
第6回公認心理師試験・午前問42の正答は ② アセスメントを行う者の個性の影響を取り除く です。
Finnの治療的アセスメントは、標準化された心理検査を用いながら、クライエントと協働し、本人が知りたいことを中心に検査結果を一緒に理解していくアプローチです。
試験では、
標準化された検査+協働的な対話+治療的プロセス
と整理しておくと判断しやすくなります。
関連記事
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第6回公認心理師試験 午前問題・正答
- American Psychological Association|Therapeutic Assessment With Adults
- Therapeutic Assessment Institute|Overview of Therapeutic Assessment
- Finn SE, Tonsager ME. Information-gathering and therapeutic models of assessment.

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