公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問50|Reasonの安全文化

公認心理師過去問第5回49 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問50は、J. T. Reasonが示した安全文化の構成要素を問う問題です。「不適切なもの」を選ぶ問題で、正答は② 定められた指揮系統に厳密に従うです。安全文化は「ミスを起こさない人を作る」考え方ではなく、エラーや異常から学び、組織全体として安全性を高める仕組みとして理解することが重要です。

実際の問題文

問50 J. T. Reasonが提唱している安全文化の構成要素を表す内容として、不適切なものを1つ選べ。

① 自らのエラーを率直に報告する。
② 定められた指揮系統に厳密に従う。
③ 不可欠な安全関連情報を提供する。
④ 安全に関する情報を基に正しい結論を導き出す。

問題文の読み解き

この問題の中心は、Reasonの安全文化を「報告する文化」「公正な文化」「柔軟な文化」「学習する文化」の4つで整理できるかどうかです。選択肢①〜④を、この4つのどれに近いかで対応づけると解きやすくなります。

特に②の「定められた指揮系統に厳密に従う」は、一見すると組織の統制が取れていて安全そうに見えます。しかしReasonのいう柔軟な文化では、危機や例外的状況に応じて、固定的な階層構造から一時的に離れ、必要な専門性や現場情報を持つ人へ権限を移すことが重視されます。そのため②が不適切です。

正答は② 定められた指揮系統に厳密に従う

Reasonの安全文化では、通常時のルールや指揮命令系統を否定するわけではありません。問題になるのは、状況が変化しても「常に」「厳密に」固定された指揮系統だけに従うことです。安全上の異常や危機では、現場の専門知識や即時の情報を優先し、組織構造を柔軟に変える必要があります。

この考え方は、柔軟な文化〈flexible culture〉に対応します。日本医療・病院管理学会の解説でも、柔軟な文化は危機など臨機の対応が必要なときに組織がフラット化して対応することとして説明されています。

Reasonの安全文化とは

Reasonは、事故やエラーを個人の不注意だけに還元せず、その背後にある組織、手順、環境、情報伝達、監督体制などのシステム要因を見ることを重視しました。安全文化もその延長線上にあり、「エラーが起きたとき誰を責めるか」より、「どうすれば情報が集まり、適切に学び、再発防止につながるか」を考えます。

文献によっては、報告する文化、公正な文化、柔軟な文化、学習する文化の4つを安全文化の構成要素として説明します。また、これらが機能することで「情報に立脚した文化〈informed culture〉」が成立するという整理もあります。試験では数え方だけを暗記するより、各文化の役割を理解しておく方が選択肢を判別しやすくなります。

4つの文化を整理する

報告する文化〈Reporting Culture〉

現場で起きたエラー、インシデント、ニアミス、異常などを率直に報告できる文化です。報告がなければ組織は危険の存在を把握できません。したがって、報告した人が一律に非難される環境では、安全に必要な情報が集まらなくなります。

公正な文化〈Just Culture〉

公正な文化は「何をしても罰しない文化」ではありません。許容できるエラーや行動と、故意・重大な逸脱など許容できない行動との境界を明確にしながら、善意の報告を阻害しない文化です。個人責任とシステム要因を適切に分けて扱う点が重要です。

柔軟な文化〈Flexible Culture〉

状況に応じて意思決定の構造を変えられる文化です。非常時や危機では、肩書や通常の階層よりも、最も適切な知識・経験を持つ人へ権限を移すことがあります。本問の②は、この柔軟性とは逆方向にあります。

学習する文化〈Learning Culture〉

収集した安全情報を分析し、そこから意味のある結論を導き、実際の制度や手順を変更する文化です。報告が集まるだけでは安全は高まりません。情報を学習へ変換し、再発防止やシステム改善に反映する必要があります。

選択肢ごとの検討

① 自らのエラーを率直に報告する

適切です。これは「報告する文化」に対応します。安全上の失敗を隠さず、組織が危険情報へアクセスできる状態を作ることが出発点です。

② 定められた指揮系統に厳密に従う

不適切で、正答です。通常の指揮命令系統が必要な場面はありますが、Reasonの安全文化では、危機や例外的状況に応じて組織が柔軟に再編されることが重要です。「厳密に従う」と固定してしまうと、現場の専門性や新しい情報に対応しにくくなります。

③ 不可欠な安全関連情報を提供する

適切です。安全文化では、現場の安全に必要な情報が組織へ提供され、共有される必要があります。報告する文化や、公正な文化によって、情報が表面化しやすい条件を整えることが重要です。

④ 安全に関する情報を基に正しい結論を導き出す

適切です。これは「学習する文化」に対応します。事故やインシデントの情報を蓄積するだけでなく、分析して改善策へつなげることが必要です。

「公正な文化=責任を問わない」は誤り

安全文化を学ぶときに起こりやすい誤解が、「個人を責めないことが安全文化である」という極端な理解です。公正な文化では、ヒューマンエラー、リスクを過小評価した行動、故意の危険行為などを同じようには扱いません。報告を萎縮させない一方で、受け入れられる行動の境界を組織として明確にします。

試験でも、「責任を一切問わない」「すべて個人の責任とする」のような両極端の表現には注意が必要です。

ヒューマンエラーを個人の問題だけにしない

Reasonの考え方を理解するには、エラーはしばしばシステムの結果として表面化する、という視点が重要です。たとえば医療事故で、確認を忘れた個人だけを処分しても、同じ忘れ方が起きる手順、情報表示、業務量、役割分担が残れば再発の可能性は残ります。

そのため、安全文化では「誰が間違えたか」だけでなく、「なぜその間違いが起こりやすかったか」「どの防御層が機能しなかったか」「どの情報が上がってこなかったか」を検討します。

医療安全とのつながり

公認心理師が働く医療機関や福祉施設でも、インシデント報告、情報共有、多職種連携、危機時の意思決定は安全文化と直結します。心理職だけで完結する問題ではなく、組織全体の安全管理の中で役割を果たす必要があります。

特に、相談情報やリスク情報が心理職の手元だけにとどまり、必要な関係者へ共有されない場合、安全上の問題につながります。一方で、守秘義務や個人情報保護との調整も必要です。何を誰と共有するかを組織ルールと専門職倫理の双方から判断します。

試験での見分け方

Reasonの安全文化が問われたら、まず「報告・公正・柔軟・学習」の4語を思い出します。次に、選択肢を「情報を出す」「報告しやすい条件を作る」「危機時に権限構造を変える」「情報から改善を学ぶ」のどれかへ対応づけます。

今回の②のように、固定的な階層や権限構造を絶対視する表現は、柔軟な文化との対比で誤りを見抜きやすくなります。

関連知識

Reasonの安全文化を別の問題と関連づけて復習する場合は、第3回問148の解説が直接的です。同じ概念を複数の設問で見比べると、「報告」「公正」「柔軟」「学習」を単語暗記ではなく状況判断として使えるようになります。

柔軟な文化を具体例で理解する

柔軟な文化は「ルールを守らなくてよい文化」ではありません。平常時には役割分担や指揮命令系統が明確である方が安全な場面も多くあります。しかし、想定外の状況や緊急事態では、通常の階層にこだわることで情報伝達や判断が遅れることがあります。そのときに、現場で最も状況を把握している人や、必要な専門性を持つ人へ一時的に意思決定を寄せられることが柔軟性です。

例えば、医療現場で急変が起きたとき、職位が高い人がすべての情報を持っているとは限りません。患者の変化を直接観察していたスタッフの情報や、特定領域に詳しい専門職の判断をすぐに取り込む必要があります。安全文化の観点では、「誰が偉いか」ではなく「今この状況で何の情報・専門性が必要か」が重要になります。

報告から学習までを一つの流れで捉える

4つの文化は独立した暗記事項ではなく、相互につながっています。まず、現場のエラーやニアミスが報告する文化によって表面化します。その報告者が不当に処罰されず、行動の性質に応じて公正に扱われる公正な文化があることで、次の報告もしやすくなります。

集まった情報は、緊急時には柔軟な文化のもとで迅速な意思決定へ使われ、平常時には学習する文化によって手順や制度の改善へつながります。つまり、報告数を増やすだけでも、マニュアルを増やすだけでも十分ではありません。情報が集まり、解釈され、行動変容へつながる循環が必要です。

安全文化と心理的安全性は同一ではない

近年「心理的安全性」という言葉もよく使われますが、Reasonの安全文化と同義ではありません。心理的安全性は、対人関係上のリスクを取って発言しても不利益を受けにくいというチーム環境を指す概念です。安全文化では、それに加えて報告制度、責任の境界、危機時の権限移譲、事故情報からの組織学習など、より広い安全管理の仕組みを扱います。

両者は関連し得ますが、試験では概念を混同しないようにします。「言いやすい雰囲気」だけでは、報告後の分析や改善がなければ安全文化として十分ではありません。

現場での報告制度と安全文化の関係

インシデント報告制度が存在するだけでは、安全文化が十分に機能しているとは言えません。報告件数が少ない場合、それが「事故が少ない」ことを意味するとは限らず、報告しにくい雰囲気や、報告後に不利益を受けるという予想が影響している可能性もあります。反対に、報告件数が多い組織でも、集めた情報が分析されず、同じ問題が繰り返されていれば学習する文化は弱いと考えられます。

したがって、試験では制度の有無ではなく、報告→公正な扱い→柔軟な対応→学習と改善という流れ全体を見ることが重要です。安全文化は単一の規則ではなく、組織が安全に関する情報をどう扱うかという継続的なプロセスです。

まとめ

第5回午前問50の正答は② 定められた指揮系統に厳密に従うです。Reasonの安全文化では、報告する文化、公正な文化、柔軟な文化、学習する文化が重要です。固定された指揮系統へ常に厳密に従うことは、状況に応じて専門性や権限配置を変える柔軟な文化と矛盾します。試験では、4つの文化をそれぞれの機能と結びつけて理解しておきましょう。

参考文献・資料

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