第5回公認心理師試験・午前問76は、限局性学習症/限局性学習障害〈SLD〉と診断された小学生に対して、スクールカウンセラーが最初に何をするべきかを問う事例問題です。
正答は ④ 授業中の学習活動を観察して、Aの学習方略とつまずきを把握する です。
この問題で重要なのは、「診断名が分かっているから、すぐに支援方法を決める」「まず心理検査を追加する」という発想ではありません。
学校で実際に困っているのは、板書を書き写すのに時間がかかり、その結果として学習の遅れが生じていることです。
したがって最初に必要なのは、実際の授業場面で、
- どこから時間がかかっているのか
- どのような学習方略を使っているのか
- どの課題ならできるのか
- 教材、指示、板書、作業量のどこで負荷が高まるのか
を具体的に把握することです。

問題
10歳の女児A、小学4年生。小学3年生の3月に限局性学習症/限局性学習障害〈SLD〉と診断されています。
新学期に、スクールカウンセラーBは担任教師CからAへの支援について相談を受けました。
Aはおとなしく穏やかで、他児との交流は良好です。一方、語彙が乏しく、自分の気持ちを適切に表現しにくい様子があります。また、授業中に板書をノートへ書き写すことに時間がかかり、その結果として学習の遅れが生じています。
Bの最初の対応として、最も適切なものを1つ選びます。
- 個別の指導の時間をとるようCに助言する。
- Aの感情の言語化を促すようにCに助言する。
- Aに知能検査を実施して、認知機能の偏りを把握する。
- 授業中の学習活動を観察して、Aの学習方略とつまずきを把握する。
正答は ④ です。
正答は④|支援の前に「実際の学習場面」を見る
支援を考えるときには、診断名だけから方法を決めるのではなく、
本人が、どの課題の、どの過程で、どのようにつまずいているのか
を把握する必要があります。
たとえば「板書が遅い」といっても、背景は一つではありません。
- 黒板からノートへ視線を移すのに時間がかかる
- 文字を正確に写すことに強い負荷がある
- 一度に保持できる情報量が少ない
- 書字そのものに時間がかかる
- どこを写しているか見失いやすい
- 教師の説明を聞きながら書く二重課題が難しい
- 全てを完全に写そうとして時間がかかる
など、異なる可能性があります。
同じ「板書が遅い」でも、必要な支援は変わります。
だからこそ、最初に授業を観察し、Aが現在使っている学習方略と、具体的なつまずきの位置を把握することが重要です。
SLDとは
文部科学省が教育分野で扱う学習障害では、全般的な知的発達に大きな遅れがない一方で、
- 聞く
- 話す
- 読む
- 書く
- 計算する
- 推論する
といった特定の能力の習得・使用に著しい困難を示す状態が扱われます。
医学領域では限局性学習症〈Specific Learning Disorder:SLD〉という診断概念が用いられます。
試験では、「授業についていけない=SLD」ではないことも重要です。
知的能力、感覚機能、教育環境、注意、情緒、発達歴などを含めて評価する必要があります。
知的能力障害と学習障害の違いについては、第3回問72|知的能力障害の評価も合わせて確認すると整理しやすくなります。
「診断名」と「支援方法」は一対一ではない
SLDと診断されていても、全ての子どもが同じ困難を示すわけではありません。
たとえば、
- 読字が中心に難しい
- 書字が中心に難しい
- 計算が中心に難しい
- 複数領域に困難がある
など、プロフィールは異なります。
さらに、同じ書字困難でも、授業中に起きる困難は、
- 板書
- 作文
- 漢字
- ノート整理
- テストへの記入
など場面によって変化します。
そのため、学校での支援では実際の学習活動を観察することが非常に重要です。
① 個別指導を勧めるのが最初ではない理由
個別指導は、Aにとって有効な支援になる可能性があります。
しかし、本問は「最初の対応」を聞いています。
何に困っているかを十分に把握しないまま、
「個別で教える時間を増やしましょう」
と支援方法を先に決めると、困難の中心と支援がずれる可能性があります。
まず観察し、その結果に基づいて必要な支援を検討するのが順序です。
したがって①は最初の対応としては適切ではありません。
② 感情の言語化を促すことが最優先ではない理由
Aには「語彙が乏しく、自分の気持ちを適切に表現しにくい」という情報があります。
この点は無視してよいわけではありません。
しかし、現在の相談の中心は、学習活動の遅れと板書の困難です。
感情の言語化を促す支援を行っても、板書や学習活動のどこにつまずいているかは分かりません。
試験では、事例文に書かれた情報全てに介入しようとするのではなく、主訴と優先順位を読むことが必要です。
③ すぐ知能検査を行うのが最初ではない理由
心理検査は重要なアセスメント手段です。
必要に応じて知能検査を行い、認知特性を把握することが有用な場合もあります。
しかし、本問ではAはすでにSLDと診断されています。
そして学校内で具体的な学習上の困難が確認されています。
この段階では、追加の検査を行う前に、授業場面で実際に何が起きているかを見ることが優先されます。
心理検査の結果だけでは、授業中の教材提示、板書量、課題の進め方、本人の工夫などは十分に分かりません。
観察するときに見るポイント
授業観察では、「できる・できない」だけで評価しません。
たとえば、
課題開始
- 指示を理解できているか
- 何をすればよいか分かっているか
- 開始までに時間がかかっていないか
課題遂行
- どの順番で取り組んでいるか
- 見本をどのように利用しているか
- 読む・書く・考える作業のどこで止まるか
- 周囲の児童と比べてどの工程に時間がかかるか
援助の効果
- 教師が口頭で補足すると進めるか
- 板書量を減らすと変化するか
- プリントを使うと負荷が下がるか
- 時間を延長すると力を発揮できるか
といった点を見ます。
こうした情報があると、支援を「一般論」ではなく、本人のつまずきに合わせて組み立てられます。
スクールカウンセラーの役割
スクールカウンセラーの仕事は、個別面接だけではありません。
児童生徒の学校生活を理解するために、
- 行動観察
- 教師へのコンサルテーション
- ケース会議
- 心理アセスメント
- 支援方針の検討
などに関わります。
学校では、子どもの困難を相談室の中だけで理解するのではなく、実際に困難が起きている環境を見ることが重要です。
アクティブ・ラーニングを扱った第4回問68と合わせると、「授業の中で学習者が実際に何をしているかを見る」という視点を整理できます。
支援へつなげる考え方
観察によってつまずきが見えた後は、必要に応じて、
- 板書を全て写さなくてもよい方法
- 手元資料の準備
- 課題量の調整
- ICTの活用
- 書字以外の方法で理解を示せる選択肢
- 指示の分割
- 個別または小集団での補充
- 特別支援教育コーディネーター等との連携
などを検討できます。
ただし、どの配慮が適切かは、本人の困難と学校環境によって異なります。
そのため、本問でも観察→具体化→支援という順序が重要になります。
試験での見分け方
事例問題で「最初の対応」が問われたら、次の順序を意識します。
情報不足のまま介入を決めていないか
を見ることです。
- まず観察・情報収集
- 困難の機能や場面を具体化
- 必要に応じて検査や追加評価
- 支援方法を選択
- 効果を確認して修正
という流れで考えると判断しやすくなります。
まとめ
第5回公認心理師試験・午前問76の正答は ④ 授業中の学習活動を観察して、Aの学習方略とつまずきを把握する です。
SLDという診断名だけで支援方法を決めるのではなく、実際の授業場面で、
何ができていて、どこで、どのようにつまずいているのか
を確認することが最初の対応になります。
試験では、
診断 → 即介入
ではなく、
主訴の確認 → 実際の場面の観察 → つまずきの具体化 → 支援
という順序を押さえてください。
参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午前問題・正答
- 文部科学省|学習障害に関する基本的な理解と支援の手立て


コメント