公認心理師資格試験 過去問解説 問72 事例問題:知的能力障害の評価

公認心理師資格試験 過去問解説 問72 事例問題:知的能力障害の評価

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

Advertisement

 

【問72】事例問題:知的能力障害の評価

問72 8歳の男児 A、小学2年生。授業についていけないという保護者からの主訴で、児童精神科クリニックを受診した。家庭生活では問題なく、勉強も家で教えればできるとのことであった。田中ビネー知能検査ではIQ 69、Vineland-IIでは、各下位領域の v 評価点は9〜11であった。
A の評価として、最も適切なものを1つ選べ。

① 知的機能が低く、適応行動の評価点も低いため、知的能力障害の可能性が高い。

② 知的機能は低いが、適応行動の評価点は平均的であるため、知的能力障害の可能性は低い。

③ 保護者によると、家庭生活では問題ないとのことであるが、授業についていけないため、学習障害の可能性が高い。

④ 保護者によると、勉強も家で教えればできるとのことであるが、授業についていけないため、学校の教授法に問題がある可能性が高い。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ①

 

① 知的機能が低く、適応行動の評価点も低いため、知的能力障害の可能性が高い

となります。

 

Advertisement

 

知的能力障害とは

知的能力障害 = 知的機能 + 適応機能 の両側面の欠陥が発達期から生じていること

知的機能の欠陥とは、問題解決能力や論理的な判断力など学習面でも必要な機能であり、主に知能検査で測定される知能指数(IQ)という指標が概ね69以下の場合を指します。

 

適応機能の欠陥とは、家庭・学校・職場・地域社会など広い範囲にわたって、コミュニケーション面生活上の自立社会参加社会的な責任など日常生活で必要な機能が阻害されていることを指しています。

 

知的能力障害は、知能検査などで測定される知的機能に併せて、日常生活上の適応機能の2つの側面から評価されます。

 

知的機能(=IQ)が低いだけでは、知的能力障害という判断はできない

 
 



 

選択肢の解説

今回の事例では、知能検査のひとつである田中ビネー式知能検査と適応機能を評価するVinelandⅡという心理検査が出てきます。

これらの検査結果を基に選択肢を判断していきましょう。

 

VinelandⅡについてはこちらの記事を参考にしてくださいね📚

 

① 知的機能が低く、適応行動の評価点も低いため、知的能力障害の可能性が高い

Aの知的機能は田中ビネー式知能検査でIQ=69であり、極めてギリギリなラインですが軽度知的障害と同等の水準が示されています。

 

残る適応機能についてですが、VinelandⅡの「各下位領域の v 評価点は9〜11」と記述されています。

 

VinelandⅡの得点解釈のポイントは以下の通りです。

  • 領域標準得点    平均 100  標準偏差 15
  • 各下位領域の得点  平均 15       標準偏差 3

 

このことからAの得点である「下位領域9〜11」というのは、平均から-2SD〜-1SD離れた得点分布となりますね。

 

評価の基準から見ると、やや低い〜平均の下程度の適応機能を有していると考えられます。

 

この結果からAは、知的機能も適応機能もかなり低い水準に位置していることがわかりますね。

 

もちろんこの結果だけで知的能力障害の有無を判断はできませんが、知的機能と適応機能の低さを考慮に入れると、やはり知的能力障害が存在している可能性は否定できないといえるでしょう。

 

よって、選択肢①「知的機能が低く、適応行動の評価点も低いため、知的能力障害の可能性が高い」は適切な記述といえます。

 

② 知的機能は低いが、適応行動の評価点は平均的であるため、知的能力障害の可能性は低い

こちらの選択肢については、ほとんどが選択肢①で解説されたとおりです。

 

適応行動の下位領域の評価点は、平均15 標準偏差3であるため、Aの評価は-2SD〜-1SDに位置しています。

 

そのため、「適応行動の評価点=平均的」とは言い難く、選択肢②「知的機能は低いが、適応行動の評価点は平均的であるため、知的能力障害の可能性は低い」は不適切な記述といえますね。

 

③ 保護者によると、家庭生活では問題ないとのことであるが、授業についていけないため、学習障害の可能性が高い

「授業についていけない=学習障害」と考えている保護者の方や教師の方が多いですが、

学習障害 = 全般的な知的機能に問題はないが、読む・書く・計算するといった特定の領域において習得と使用に困難がある

とされています。

 

そのため、今回のAの場合では、全般的な知的機能が低いことが示されているため、学習障害の定義には当てはまらないことになりますね。

 

よって、選択肢③「保護者によると、家庭生活では問題ないとのことであるが、授業についていけないため、学習障害の可能性が高い」は不適切な記述といえます。

 

④ 保護者によると、勉強も家で教えればできるとのことであるが、授業についていけないため、学校の教授法に問題がある可能性が高い

こちらの選択肢についても難しいところですが、「勉強も家で教えればできる」=「学習した直後は成果を出すことができているが、学習した内容の定着と使用まではいかない」と判断することが妥当そうです。

 

「勉強ができない」=「全く理解できない」というパターンもあれば、その場では回答可能ですが定着しないというパターンや興味のある学習内容のみ定着していくというパターンも大いにあり得るでしょう。

 

以上のことから、完全に不適切とはいえませんが、適切とも言い難いため、選択肢④「保護者によると、勉強も家で教えればできるとのことであるが、授業についていけないため、学校の教授法に問題がある可能性が高い」は問題の解答としては不適切となります。



まとめ

第3回公認心理師資格試験の問72は、事例問題:知的能力障害の評価に関する問題でした❗️

 

以下のポイントをおさえておきましょう💡

知的能力障害 = 知的機能 + 適応機能 の両側面の欠陥が発達期から生じていること

 

  • 知的機能 = 知能検査で測定される知的水準が69以下
  • 適応機能 = 日常生活上の複数の場面で、コミュニケーション・自立・社会参加・社会的責任などの領域が阻害されていること

 

適応機能を評価する心理検査であるVinelandⅡの結果は、

  • 領域標準得点    平均 100  標準偏差 15
  • 各下位領域の得点  平均 15       標準偏差 3

である。