公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問66|高齢者のうつ病と認知症の鑑別

公認心理師過去問第4回66 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午前問66は、高齢者にみられる「物忘れ」や仕事上のミスを、認知症だけでなくうつ病に伴う認知機能低下も含めて鑑別できるかを問う問題です。正答は① うつ病です。ポイントは、認知症を示唆するように見える訴えだけに引っ張られず、生活機能、認知機能検査、抑うつ症状、経過をまとめて読むことです。

実際の問題文

問66 67歳の男性A、税理士。重度認知症の母親Bと二人で暮らしている。Aは、Bの介護をしながら税理士の仕事をしている。Aは、1年前から集中力や思考力が低下して、仕事が捗らなくなった。ミスも増えたため、仕事を辞めようかと悩んでいた。物忘れ、不眠、食欲低下についてもかなり心配していた。Aは、現在の状態がBの初期症状と類似しているのではないかと心配し、医療機関を受診した。Aは、手段的日常生活動作〈IADL〉に問題はなく、HDS-Rは29点、老年期うつ検査-15-日本版〈GDS-15-J〉は13点であった。

診断として疑われるAの状態として、最も適切なものを1つ選べ。

① うつ病
② パニック症
③ 前頭側頭型認知症
④ Lewy小体型認知症
⑤ 心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉

問題文の読み解き

この問題では、「物忘れ」「集中力や思考力の低下」「仕事上のミス」という認知症を連想しやすい情報と、「不眠」「食欲低下」「強い心配」という抑うつを示唆する情報が同時に提示されています。したがって、単語だけで診断名を当てるのではなく、どの情報がどの病態を支持し、どの情報が反証になるかを整理する必要があります。

特に重要なのは、AのIADLに問題がないこと、HDS-Rが29点であること、GDS-15-Jが13点であることです。ただし、HDS-RやGDS-15-Jはあくまでスクリーニング・評価のための指標であり、それだけで認知症を否定したり、うつ病を確定したりすることはできません。試験問題では、これらの情報を症状・生活機能・経過と組み合わせて読むことが求められます。

正答は① うつ病

Aには、不眠、食欲低下、集中力や思考力の低下、仕事の能率低下とミスの増加がみられています。これらは抑うつ状態でみられうる症状です。さらに、A自身が認知機能低下を強く気にしており、仕事を辞めようかと悩むほど機能低下を悲観的に捉えています。

高齢者のうつ病では、気分の落ち込みだけでなく、記憶、注意、処理速度、遂行機能などの認知面の問題が前景化することがあります。近年のレビューでも、高齢期うつ病と認知機能低下はしばしば併存し、その関係は単純ではないとされています。したがって「物忘れがある=認知症」と短絡しないことが重要です。

うつ病と認知症はなぜ紛らわしいのか

高齢者のうつ病では、集中困難や判断力低下、精神運動制止などにより、「覚えられない」「考えがまとまらない」「仕事が進まない」といった訴えが生じることがあります。一方、認知症でも抑うつ症状を伴うことがあり、両者は併存する場合もあります。

以前は、うつ病に伴う認知機能低下を「仮性認知症」と呼ぶことがありました。しかし現在は、この用語だけで可逆的な状態と決めつけるのは適切ではありません。高齢期うつ病に認知機能低下を伴う人の一部では、その後に神経認知障害が明らかになることもあるため、経過観察を含む包括的な評価が必要です。

検査結果をどう読むか

HDS-R 29点

HDS-Rは認知機能を短時間で把握するための検査ですが、点数だけで認知症の有無を決定するものではありません。本症例では29点と高く、少なくとも試験問題上は、明らかな全般性認知機能低下を積極的に支持する情報ではありません。とはいえ、教育歴、聴覚・視覚、疲労、抑うつ、課題特性などの影響を受けるため、実臨床では得点を単独で解釈しません。

GDS-15-J 13点

GDS-15-Jは高齢者の抑うつ症状を評価する尺度です。本症例の13点は抑うつ症状が強いことを示唆する重要な情報です。ただし、これも診断面接の代替ではありません。尺度は「うつ病らしさ」を拾い上げるための材料であり、診断には症状の持続期間、機能障害、身体疾患、薬剤、喪失体験などを含む評価が必要です。

IADLが保たれていること

税理士として仕事上の効率低下はあるものの、問題文では手段的日常生活動作に問題がないとされています。認知症では、認知機能低下が日常生活上の自立へどの程度影響しているかが重要です。この情報は、少なくとも本問で認知症を第一に選ぶことを弱める材料になります。

選択肢ごとの検討

① うつ病

正答です。不眠、食欲低下、集中力・思考力低下、仕事上の能率低下、強い心配という症状のまとまりがあり、GDS-15-Jも高値です。認知機能を心配する訴えが強い一方、IADLは保たれ、HDS-Rは29点です。問題文全体として、うつ病に伴う認知的訴えを考える構成です。

② パニック症

パニック症では、突然に強い恐怖や不安が高まり、動悸、息苦しさ、発汗、震えなどを伴うパニック発作が反復し、その再発への予期不安や回避が問題になります。本症例にはその中核像が示されていません。

③ 前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症では、比較的早期から脱抑制、無気力、共感性の低下、常同行動、食行動変化などの行動・人格面の変化が目立つことがあります。本症例では、本人の困り感、不眠、食欲低下、心配が中心であり、典型的な行動変化は示されていません。

④ Lewy小体型認知症

Lewy小体型認知症では、認知機能の変動、具体的な幻視、REM睡眠行動異常、パーキンソニズムなどが重要な所見です。本症例にそれらは提示されていません。不眠があるからLewy小体型認知症と考えるのではなく、睡眠症状の内容まで読む必要があります。

⑤ 心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉

PTSDでは、実際のまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受けるといった外傷的出来事への曝露を前提に、侵入症状、回避、認知・気分の陰性変化、過覚醒などを評価します。本症例ではそのような外傷曝露や症状群が示されていません。

試験での見分け方

この種の問題では「物忘れ」という単語だけで認知症へ飛びつかないことが重要です。認知症を疑う問題では、認知機能の低下だけでなく、日常生活への影響、緩徐な進行、病型ごとの特徴的な症状が配置されます。一方、うつ病では睡眠・食欲・意欲・思考力・集中力の変化がまとまりとして提示されることがあります。

さらに、本人が失敗を強く自覚し、悲観的に捉えている点もヒントになります。ただし、実臨床では「訴えが強いからうつ病、病識が乏しいから認知症」と単純化できません。試験上の典型像と臨床判断を区別して覚えることが大切です。

介護負担という背景も見落とさない

Aは重度認知症の母親を介護しながら仕事を続けています。介護負担、睡眠不足、役割過多、将来への不安は、抑うつ症状の背景になり得ます。問題の正答を選ぶだけなら①ですが、支援を考える際には本人の症状だけでなく、介護体制、休息、家族支援、社会資源の利用可能性まで含めて評価します。

関連知識:高齢期うつ病と認知機能

高齢期うつ病では、注意や遂行機能、処理速度、記憶などの認知領域に低下がみられることがあります。また、うつ病と神経変性疾患は排他的ではなく、併存することもあります。したがって、治療により気分症状が改善した後も認知機能の問題が持続する場合や、生活機能が徐々に低下する場合には、再評価が必要です。

Alzheimer型認知症について復習する場合は、第3回問22の解説も参考になります。また、認知症と抑うつの鑑別に関連する事例として第3回問140の解説も併せて確認すると、症例問題の読み方を整理しやすくなります。

実務での注意

公認心理師が高齢者の認知・抑うつ症状を扱う際は、心理検査や質問紙の結果だけで判断せず、医師による診断、身体疾患、服薬、生活状況、家族からの情報などを統合する必要があります。希死念慮、自責感、急激な機能低下がある場合には、安全確保と医療連携を優先します。

鑑別で確認したい「時間経過」と周辺情報

うつ病と認知症の鑑別では、現在の症状だけでなく、いつから、どのように変化したかを確認します。うつ病では比較的時期を特定しやすい形で意欲や集中力が落ちることがありますが、神経変性疾患では数年単位で緩徐に進行する場合があります。ただし、経過だけで確定できるわけではなく、発症時期、変動、生活上の失敗、仕事や家事への影響を具体的に聞き取ります。

本人の訴えに加えて、家族や周囲からみた変化も重要です。本人が「以前と同じ」と感じていても家族が反復質問や金銭管理の失敗を認める場合があります。反対に、本人が強く「何もできなくなった」と訴えていても、客観的には生活機能がかなり保たれている場合もあります。どちらか一方の情報だけに依存せず、複数の情報源を照合します。

また、甲状腺機能異常、ビタミン欠乏、睡眠障害、薬剤の影響、アルコールや身体疾患なども認知・気分の双方に影響します。高齢者では複数の要因が同時に存在することも珍しくありません。そのため、心理職が認知症かうつ病かを二者択一で決めるのではなく、医療チームの中で鑑別に必要な情報を整理する姿勢が重要です。

「うつ病らしい所見」と「認知症らしい所見」を固定化しない

試験対策では典型像を整理することが有効ですが、臨床では典型から外れる例があります。たとえば、うつ病でも本人が認知的問題を十分に言語化しないことがありますし、認知症の初期でも自分の失敗を強く心配する人はいます。また、うつ病と認知症が併存することもあります。

したがって、「訴えが多い=うつ病」「取り繕う=認知症」のような一対一対応は避けます。本問では複数の所見が①を支持しているため正答できますが、その試験上の判断を、そのまま実際の個人の診断へ当てはめないことが専門職として重要です。

まとめ

第4回午前問66の正答は① うつ病です。Aには認知機能低下を思わせる訴えがありますが、IADLは保たれ、HDS-Rは29点で、GDS-15-Jは13点、不眠や食欲低下もあります。試験ではこれらを統合し、認知症ではなくうつ病を第一に考えます。一方、臨床ではスクリーニング尺度だけで確定せず、うつ病と神経認知障害の併存も含めて継続的に評価することが重要です。

参考文献・資料

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