第5回公認心理師試験・午前問43は、質的研究と関係の深い研究法・分析法を見分ける問題です。正答は② 主成分分析です。
ポイントは、「質的研究らしい言葉」を暗記することではありません。それぞれの方法が、何をデータとして扱い、何を明らかにしようとする方法なのかを理解しておくことです。
問題の要旨
5つの研究方法・分析方法のうち、質的研究との関わりが相対的に薄いものを1つ選ぶ問題です。選択肢は、PAC分析、主成分分析、エスノグラフィー、複線径路・等至性アプローチ、グラウンデッド・セオリー・アプローチです。
公式正答は② 主成分分析です。
正答は② 主成分分析
主成分分析〈Principal Component Analysis:PCA〉は、複数の量的変数を少数の主成分へ要約する多変量解析です。数値データの分散をできるだけ保持しながら次元を縮約することが目的で、基本的には量的研究の統計解析に位置づきます。
したがって、質的研究法との関わりが深い方法を並べた選択肢の中では、②が不適切です。
そもそも質的研究とは
質的研究は、人の経験、意味づけ、相互作用、文化、時間的なプロセスなどを、語りや観察記録、文書などを通して理解しようとする研究です。数値を使うか使わないかだけで区別するより、研究対象をどのように理解しようとしているかで捉える方が適切です。
そのため、質的研究の中でも整理のために数値的処理を補助的に用いる方法はあります。「統計処理が少しでもあれば質的研究ではない」と覚えると、PAC分析のような選択肢で迷いやすくなります。
主成分分析〈PCA〉とは何か
主成分分析は、多数の相関した量的変数から、元の情報をできるだけ保つ少数の合成変数を作る次元削減の方法です。
- 入力:複数の量的変数
- 出力:元の変数の線形結合である主成分
- 目的:情報を大きく失わずに変数の数を減らす
- 基準:第1主成分はデータの分散を最大限に説明する方向として求められる
既存記事の第3回問81「主成分分析」では、主成分分析そのものを詳しく扱っています。
主成分分析と因子分析は同じではない
| 観点 | 主成分分析 | 因子分析 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 観測変数を少数の成分へ要約する | 観測変数の背後にある潜在因子を想定する |
| 考え方 | 元の変数の情報を効率よく圧縮する | 共通して変動する理由を潜在変数で説明する |
| 試験での位置づけ | 量的な多変量解析 | 量的な多変量解析 |
両者は似た場面で使われますが、目的とモデルの考え方が異なります。本問ではこの細かな区別よりも、PCAが質的研究法ではないことを見抜ければ十分です。
選択肢① PAC分析
PAC分析〈Personal Attitude Construct Analysis〉は、個人の態度構造やイメージを捉える方法です。自由連想、連想項目間の類似度評定、クラスター分析、本人による解釈、研究者による総合的解釈などを組み合わせます。
ここで重要なのは、クラスター分析という数量的処理を含むからといって、直ちに「量的研究だけの方法」になるわけではないことです。日本心理学会のワークショップでも、PAC分析は混合研究法または質的研究法として扱われています。
PAC分析でなぜ迷いやすいのか
PAC分析は、類似度評定や距離行列、クラスター分析を用いるため、見た目には統計的です。しかし、最終的な中心は、得られた構造を対象者自身の語りや研究者とのやりとりを通して解釈し、個人固有の意味構造を明らかにすることにあります。
公認心理師試験では、「数値処理を含む=量的研究」と単純化しないことが重要です。
選択肢③ エスノグラフィー
エスノグラフィーは、集団や文化、生活世界を、その場への参加や観察、インタビューなどを通して理解し記述する方法です。参加観察が中核的な方法の一つで、対象集団の規範や実践を内部者の視点から捉えようとします。
したがって、質的研究と非常に関わりの深い方法です。
選択肢④ 複線径路・等至性アプローチ〈TEA〉
複線径路・等至性アプローチ〈Trajectory Equifinality Approach:TEA〉は、人がある状態や出来事に至るまでの時間的経過を、複数の可能な径路として捉える質的研究の方法論です。
同じ到達点に至るまでにも複数の経路があり得ること、社会的な力や選択が人生の径路にどのように関わるかを検討しやすい点が特徴です。
TEAとTEMの関係
TEAは複線径路・等至性アプローチ全体を指す名称で、その中核的な方法としてTEM〈Trajectory Equifinality Modeling〉が知られています。試験では名称の細かな階層よりも、時間と径路を質的に扱うアプローチであることを押さえておくとよいでしょう。
選択肢⑤ グラウンデッド・セオリー・アプローチ〈GTA〉
グラウンデッド・セオリー・アプローチは、データに根ざしながら概念を生成し、それらの関係を整理して理論化していく質的研究法です。インタビュー記録などをコーディングし、比較しながらカテゴリーや概念間の関係を検討します。
したがって、質的研究と関わりが深い方法として適切です。
5つの選択肢を一表で整理
| 方法 | 中心となる特徴 | 質的研究との関係 |
|---|---|---|
| PAC分析 | 自由連想・類似度評定・クラスター分析・本人の解釈 | 深い |
| 主成分分析 | 量的変数の線形結合による次元削減 | 相対的に薄い |
| エスノグラフィー | 参与観察・文化や実践の記述 | 深い |
| TEA | 時間経過と複数の径路の可視化・理解 | 深い |
| GTA | データに根ざした概念生成・理論構築 | 深い |
選択肢①が適切な理由
PAC分析は数量的な処理を一部に含みますが、個人の態度構造を本人の解釈を含めて理解する方法であり、質的研究・混合研究法の文脈で扱われます。したがって、この設問で「不適切」には当たりません。
選択肢②が不適切な理由
主成分分析は、多数の数値変数を少数の主成分へまとめる統計的方法です。研究者が語りの意味を解釈したり、参加観察から文化的実践を記述したりする方法ではありません。よって正答です。
選択肢③〜⑤が適切な理由
- ③エスノグラフィー:文化や集団を参与観察などから理解する質的研究。
- ④TEA:時間的経過と多様な径路を扱う質的方法論。
- ⑤GTA:データから概念を生成し理論構築を目指す質的研究。
試験での見分け方
- 「分散」「固有値」「線形結合」「次元削減」が出ればPCAを疑う。
- 「参与観察」「文化」「生活世界」が出ればエスノグラフィー。
- 「径路」「時間」「等至点」が出ればTEA/TEM。
- 「コーディング」「カテゴリー」「理論生成」が出ればGTA。
- 「自由連想+類似度評定+クラスター+本人解釈」はPAC分析。
「質的/量的」を二分法だけで覚えない
研究法の問題では、質的研究と量的研究を完全に切り離された二分法として覚えると誤りやすくなります。混合研究法のように両者を組み合わせるデザインもありますし、PAC分析のように数量的処理を補助的に含みながら個人の意味構造を質的に解釈する方法もあります。
「どんなデータを、何の目的で、どのように解釈するか」に注目すると整理しやすくなります。
まとめ
第5回午前問43の正答は② 主成分分析です。
- PCAは量的な多変量解析で、次元削減を目的とする。
- PAC分析は質的研究・混合研究法の文脈で用いられる。
- エスノグラフィー、TEA、GTAはいずれも質的研究と深く関わる。
- 研究法は名称暗記ではなく、データ・目的・分析手続のセットで覚える。


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