第5回公認心理師試験・午前問59は、研究デザインから適切な統計手法を選ぶ問題です。正答は②「2群の事後テストの平均値を対応のないt検定で分析する」です。
決め手は、比較したいのが別々の参加者からなる2群の事後テスト平均だという点です。事前・事後の2時点が登場するため「対応のあるt検定」に引っ張られやすいですが、この問題が直接問う比較は、講義形式群と協同学習群という独立した2群の事後得点です。
問題
80名の生徒を無作為に40名ずつ2群へ分け、学習前に事前テストを実施したところ、両群の能力は同程度でした。その後、一方には講義形式、もう一方には協同学習を行い、学習後に事後テストを実施しています。事後テストの平均は、講義形式群が約67点、協同学習群が約76点でした。また、各群について事前テストと事後テストの得点には中程度の相関が示されています。
ここで「学習方法の違いによって習得度に差があるか」を検討するために、最も適切な分析法を選びます。
選択肢の要点
- 2群の事後テスト平均を、対応のあるt検定で比較する。
- 2群の事後テスト平均を、対応のないt検定で比較する。
- 各群の事前・事後得点間の相関係数を、対応のあるt検定で比較する。
- 各群の事前・事後得点間の相関係数を、対応のないt検定で比較する。
- 事後テスト平均と相関係数を、被験者間2要因分散分析で分析する。
正答
②
この問題で問われていること
統計問題では、式を思い出す前に、研究目的・従属変数・群の関係を整理すると解きやすくなります。
- 研究目的:学習方法によって事後の習得度が異なるか。
- 従属変数:事後テスト得点。
- 群:講義形式群と協同学習群の2群。
- 群の関係:別々の生徒から構成される独立群。
したがって、「独立した2群の平均値の差」を検定する方法を選べばよく、対応のないt検定が適切です。
対応のないt検定とは
対応のないt検定は、互いに独立した2群の平均値に差があるかを検討する方法です。たとえば、治療群と対照群、男性群と女性群、A教材群とB教材群のように、各参加者がどちらか一方の群だけに属する場合に用います。
この問題では、80名を無作為に40名ずつ分けているため、ある生徒が講義形式群と協同学習群の両方に入ることはありません。したがって2群は独立しています。
「事前・事後」があるのに、なぜ対応のあるt検定ではないのか
ここが最も重要なひっかけです。確かに同じ生徒について事前テストと事後テストを測っているため、同一人物の前後差を比較したいなら対応のあるt検定を考えます。
しかし、この設問が尋ねているのは「それぞれの生徒が前後でどれだけ伸びたか」ではなく、学習方法の違いによって事後の習得度に差があるかです。さらに事前テストで両群が同等であることを確認したという情報が与えられています。
したがって、設問の意図としては、事後テスト平均を独立2群間で比較する対応のないt検定を選びます。
① 対応のあるt検定が不適切な理由
対応のあるt検定は、同じ参加者を2回測定した場合や、マッチングされたペアを比較する場合に適します。この問題で比較する「講義形式群の事後得点」と「協同学習群の事後得点」は、別々の40名から得られています。
「事前と事後がある」というだけで対応ありと判断せず、実際にどの2つの数値を比較するのかを確認する必要があります。
② 対応のないt検定が適切な理由
2群は独立しており、比較対象は連続量であるテスト得点の平均です。研究目的も、2つの学習方法のどちらが高い習得度につながったかという平均値差の検討です。
このため、対応のないt検定がもっとも直接的です。独立2群のt検定では、帰無仮説として「母平均に差がない」と考え、観測された平均値差が偶然のばらつきで説明できる範囲かを評価します。
③・④ 相関係数をt検定するという発想がずれる理由
事前テストと事後テストの相関係数が示されているため、そこに注意が向きやすいですが、相関係数は2変数が一緒に変化する程度を表します。
相関が高いことは「事前得点が高い人ほど事後得点も高い傾向がある」ことを示しますが、講義形式と協同学習のどちらの平均点が高いかを直接検定するものではありません。
さらに、t検定は基本的に平均値の差を扱う方法であり、相関係数そのものを「対応あり/なしt検定」で比較するという選択肢は、この研究目的に合っていません。
⑤ 2要因分散分析が不適切な理由
2要因分散分析は、2つの独立変数(要因)の主効果や交互作用を検討する方法です。たとえば「学習方法(講義/協同学習)」と「性別(男性/女性)」のように、2つの要因が設定されている場合に用います。
本問では、主要な要因は学習方法の1つです。相関係数は第二の要因ではありません。したがって、「事後テスト平均と相関係数を2要因分散分析する」という選択肢は、データの役割を混同しています。
t検定の「対応あり・なし」を一瞬で見分ける
- 同じ人を2回測る:対応のあるt検定。
- 別々の人からなる2群:対応のないt検定。
- 同じ人でも、比較したい値が群間の事後平均:群の独立性を基準に考える。
- 3群以上の平均比較:通常は分散分析を検討する。
- 2変数が一緒に変化する程度:相関係数を検討する。
平均値差と相関は別の問い
心理統計では、「差があるか」と「関係があるか」を分けることが重要です。
平均値差の検定は、群によって代表値が異なるかを問います。一方、相関は、同じ対象の中で2つの変数がどの程度一緒に増減するかを問います。今回の目的は、学習方法の違いによる習得度の差なので、前者です。
より発展的に考えると
実際の研究では、事前得点を共変量として調整するANCOVA、変化量の比較、反復測定を含むモデルなど、別の分析方法を検討することもあります。しかし、公認心理師試験では、選択肢の中から研究目的に最も直接対応する基本的な方法を選ぶことが求められています。
したがって、この問題では高度な手法を持ち込むより、独立2群の事後平均比較=対応のないt検定という基本を正確に適用することが重要です。
試験での見分け方
統計問題では、次の順番で読むと安定します。
- 何を明らかにしたいのか。
- 従属変数は何か。
- 何群を比較するのか。
- 同じ人を繰り返し測っているのか、別々の人か。
- 平均値差を知りたいのか、相関を知りたいのか。
この5点を先に整理すれば、問題文に相関係数などの補助情報が多くても迷いにくくなります。
関連知識
t検定や統計的仮説検定については、第3回問7の解説が関連します。また、研究計画と統計手法の対応を整理するには、第3回問8の解説も確認しておくと理解が深まります。
数字が多い問題で迷わない読み方
平均値、標準偏差、相関係数が並ぶと、すべての数値を使う分析法を選びたくなります。しかし統計問題では、与えられた数値の一部が「研究状況の説明」であり、最終的な分析に直接使わない場合もあります。本問では相関係数が提示されていても、主目的は独立2群の事後平均差です。情報量ではなく研究目的を基準に分析法を選びます。
「無作為に2群へ分けた」という情報の意味
無作為割付は、もともとの能力や特性が一方の群に偏ることを減らし、学習方法の違いによる影響を比較しやすくするために用いられます。本問ではさらに事前テストで両群が同等であることを確認しており、事後テストの群間差を比較するという設計意図が明確です。
ここで「同じ人に事前・事後テストをした」という縦方向の情報だけを見るのではなく、「最終的に講義形式群と協同学習群を比較する」という横方向の比較に注目します。統計手法は、研究に含まれるすべての測定値ではなく、研究仮説に対応する比較単位から選びます。
標準偏差は何を表しているか
事後テストでは平均値とともに標準偏差も示されています。標準偏差は、各群の得点が平均値の周りにどの程度ばらついているかを表す指標です。t検定では、平均値差だけでなく、群内のばらつきや標本数も踏まえて差の大きさを評価します。
したがって、「76点と67点だから差がある」と平均値だけで結論づけるのではなく、その差が標本変動としてどの程度起こり得るかを統計的に検討するのがt検定です。公認心理師試験では数式計算より、どの研究デザインにどの分析法を対応させるかが中心になります。
研究目的から統計手法を選ぶ
統計手法の選択では、問題文に登場する測定回数や数値の種類より、最終的に何を比較したいかを優先します。本問は「学習方法による事後成績の差」が目的です。したがって、独立2群の平均値差という構造を最初に見抜けば、余分な情報に惑わされにくくなります。
このように、研究デザインを図にして「40名の群A」と「別の40名の群B」を横に並べると、対応のない比較であることが視覚的にも理解しやすくなります。
なお、事前テストと事後テストがあること自体は、対応のある分析を必ず選ぶ理由にはなりません。比較単位を最後まで確認しましょう。
平均値差を問うのか、相関を問うのかを必ず区別します。
まとめ
第5回午前問59の正答は②です。講義形式群と協同学習群は別々の生徒から構成される独立2群であり、比較したいのは事後テストの平均値です。そのため、対応のないt検定が適切です。
「事前・事後」という語があるだけで対応ありと判断せず、実際に比較する2つのデータが同じ人から得られているかを確認することが最大のポイントです。


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