公認心理師資格試験 過去問解説 問85 感情及び人格 認知-感情システム理論

公認心理師資格試験 過去問解説 問85 感情及び人格 認知-感情システム理論

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 
 

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【問85】感情及び人格:認知-感情システム理論

問85 パーソナリティの理論について、正しいものを1つ選べ。

① 場理論では、環境とパーソナリティの二者関係をモデル化する。

② 期待−価値理論では、個人が生得的に有する期待、価値の観点からパーソナリティの個人差を考える。

③ 5因子理論では、5つの特性の上位に、行動抑制系、行動賦活系という2つの動機づけシステムを仮定する。

④ 認知−感情システム理論では、個人の中に認知的・感情的ユニットを仮定し、パーソナリティの構造を捉える。

⑤ パーソナル・コンストラクト理論では、個人の中にコンストラクトと呼ばれる単一の認知的枠組みを仮定する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ④

 

④ 認知−感情システム理論では、個人の中に認知的・感情的ユニットを仮定し、パーソナリティの構造を捉える

 

となります。

 
 

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認知-感情システム理論

認知-感情システム理論 cognitive affective processing system:CAPS とは、Mischel ミッシェルと Shoda ショウダ によって提唱された理論で、行動は個人(人)・環境(状況)及び個人と環境の相互作用の包括的な理解によって推測可能というものです。

 

この理論を提唱した Mischel ミッシェル は、「性格に関連した行動はどの状況でも一貫している」といった従来の考え方を否定して、「性格に関連する行動は状況によって変動する」という主張をしたことで、いわゆる、一貫性論争を巻き起こす引き金となった人物です。

 

このモデルでは、1)パーソナリティは機能的に異なる一連の相互に関連するサブ・システム (認知、感情、動機等)から構成され、2)これらのサブ・システムは全体としてコヒアラント(統合的)なシステムを構成する。3)サブ・システムを構成する変数は個人ごとにIf-Then というプロダクションに基づく領域特定的、文脈依存的な性質をもち、4)通状況的・領域的にみれば、そこには個人を特徴づけるユニークな状況一行動のパターン (行動指紋と呼ばれる)が存在する、と考える。

出典:堀毛和也(2000) . 相互作用に基づく動態的・文脈的パーソナリティ検査法の開発

 

認知-感情システム理論を簡単に説明すると、環境(状況)に対する解釈の違いを『認知的・感情的ユニットと設定して、パーソナリティとは、いくつかの認知的・感情的ユニット」の利用しやすさやユニット同士の相互作用、状況と認知的・感情的ユニットとの相互作用によって決められると理論化したということになります。

 

よって、選択肢④の記述は正しいといえますね。

 
 



 
 

選択肢の解説

① 場理論では、環境とパーソナリティの二者関係をモデル化する

場理論 field theory とは、ゲシュタルト心理学者である Lewin, K レヴィン が展開した理論です。

彼は、人の行動を起動し方向づける作用をもつ心理的事象の総体を一種の場と見なし、生活空間とよんだ。生活空間は相互作用する二つの領域、すなわち人と環境からなっており、人とは相互作用する諸々の心的機能の階層的集合である。また、環境とは、たんなる物理的環境ではなく、人の状態(存在する動機の性質、知識の有無など)によって構造の異なる心理的・行動的環境である。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

場理論の基本的な主張は、

行動(Behavior:B)=全体的な事態(Whole situation:S)の関数、あるいは、心理学的人(Psychological Person:P)と心理学的環境(Psychological Environment:E)の関数として示すことができる

というものです。

 

この心理学的人(P)と心理学的環境(E)を含んだ全体的な事態(S)を生活空間(≒場)と呼んでいます。

 

もともと「場」の概念は物理学的な概念であり、心理的事象を物理学的(数学的)に説明しようとしたことが発端とされています。

 

つまり、個人の特性や環境、それぞれのさまざまな条件が相互作用的に展開することで人の行動が説明される、ということを説明した理論になりますね。

 

よって、選択肢①「場理論では、環境とパーソナリティの二者関係をモデル化する」は適切とは言い難く、解答としては不適切といえます。

 

② 期待−価値理論では、個人が生得的に有する期待、価値の観点からパーソナリティの個人差を考える

期待-価値理論 expectancy-value theoryは、「行動」は「目標達成への期待」と「目標の価値」との関数で説明可能という理論全体を示す用語になります。

 

代表的な例としては、Atkinson アトキンソンの達成動機づけのモデルなどが挙げられます。

 

達成動機に関しては以下のページを参考にしてくださいね💁🏻

 

 

ここでいう「目標達成への期待」とは、個人が自分の状況を踏まえて、複数の行動のなかから目標が達成できる可能性の高・低を検討することを意味するため、生得的(≒生まれもった)とはいえませんね。

 

そのため、選択肢②「期待−価値理論では、個人が生得的に有する期待、価値の観点からパーソナリティの個人差を考える」は正しい記載とはいえません。

 

③ 5因子理論では、5つの特性の上位に、行動抑制系、行動賦活系という2つの動機づけシステムを仮定する

5因子理論 Five Factor Model とは、性格特性が5つの基本特性因子から成るという理論です。

 

この5つの基本特性因子は通称ビッグファイブ Big Five と呼ばれており、一般的には以下の因子が該当します。

  • 経験への開放性 Openness
  • 誠実性 Conscientiousness
  • 外向性 Extraversion
  • 協調性 Agreauleness
  • 神経症傾向 Neuroticism

 

この5因子から性格特性を把握するための心理検査として、NEO-PI-R という人格検査がありますね。

NEO-FFI/NEO-PI-R|サクセス・ベル株式会社

 

5因子モデルでは、既に説明した5つの基本特性因子の下位に因子を設定することはあっても、上位に因子を設定することはありません。

 

よって、選択肢③「5因子理論では、5つの特性の上位に、行動抑制系、行動賦活系という2つの動機づけシステムを仮定する」は不適切な解答とわかりますね。

 

ちなみに、行動抑制系・行動賦活系とは、Gray グレイ の気質モデルのなかで出てくる動機づけシステムの用語なので、あわせて押さえておきましょう。

 

⑤ パーソナル・コンストラクト理論では、個人の中にコンストラクトと呼ばれる単一の認知的枠組みを仮定する

パーソナル・コンストラクト理論 personal construct theory とは、Kelly ケリー によって提唱されたパーソナリティ理論です。

 

ここで説明されるコンストラクトとは以下のように定義されています。

コンストラクトとは「現実を眺める透明なパターンあるいは眼鏡のようなもの」で、構成体と訳されることもある。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

簡単に理解しようとすると、コンストラクト=個人のもつ認知的な枠組みとなります。

 

つまり、人は認知的な枠組みによってさまざまな事象を解釈したり予測しているため、パーソナリティを把握するためには、個人のもつ認知的枠組み(=コンストラクト)の構造や内容を知る必要があることを論じたというわけになります。

 

このコンストラクトが複数集まることによってその個人のパーソナリティが構成されていくことになります。

 

そのため、パーソナル・コンストラクト理論は、後に認知的複雑性 cognitive complexity といった概念の研究にも大きく影響を与えています。

 

よって、選択肢⑤「パーソナル・コンストラクト理論では、個人の中にコンストラクトと呼ばれる単一の認知的枠組みを仮定する」はコンストラクトは単一なものではないため不適切といえますね。

 



 
 

まとめ

第3回公認心理師資格試験の問85は、感情及び人格 認知-感情システム理論に関する問題でした❗️

 

キーワードは以下の通りです。

 

キーワード認知-感情システム理論 ー ミッシェル
場理論 ー レヴィン
期待-価値理論
5因子理論:開放性・誠実性・外向性・協調性・神経症傾向
パーソナル・コンストラクト理論 ー ケリー