公認心理師資格試験 過去問解説 問76 事例問題:児童養護施設での対応

公認心理師資格試験 過去問解説 問76 事例問題:児童養護施設での対応

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

Advertisement

 

【問76】事例問題:児童養護施設での対応

問76 5歳の男児 A。A は、実父からの身体的虐待が理由で、1か月前に児童養護施設に入所した。A は、担当スタッフの勧めで同施設内に勤務する公認心理師 B の面談に訪れた。担当スタッフによると、A は、入所時から衝動性・攻撃性ともに高かった。施設内では、コップの水を他児 C にかけたり、他児 D を椅子で殴ろうとしたりするなど、A の暴力が問題となっていた。また寝つきが悪く、食欲にむらが見られた。B との面談で A は暴力の理由を「いつも僕が使っているコップを C が勝手に使ったから」「D が僕の手首を急に掴んだから」と語った。また、「夜眠れない」と訴えた。
B が初期に行う支援として、適切なものを2つ選べ。

① 遊戯療法を速やかに導入し、A に心的外傷体験への直面化を促す。

② 受容的態度で A の暴力を受け入れるよう、担当スタッフに助言する。

③ コップ等の食器は共用であるというルールを指導するよう、担当スタッフに助言する。

④ A の様子を観察し、A が安心して眠れる方法を工夫するよう、担当スタッフに助言する。

⑤ 衝動性や攻撃性が高まる契機となる刺激ができるだけ生じないように、担当スタッフと生活環境の調整を検討する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ④と⑤

 

④ A の様子を観察し、A が安心して眠れる方法を工夫するよう、担当スタッフに助言する

⑤ 衝動性や攻撃性が高まる契機となる刺激ができるだけ生じないように、担当スタッフと生活環境の調整を検討する

となります。

 

ここで事例Aをまとめてみましょう❗️

5歳 男児 相談者:養護施設職員

主訴:Aの衝動性の高さと暴力行為

Aは実父からの身体的虐待を理由として、1ヵ月前より児童養護施設に入所。

他児に対してコップの水をかける、椅子で殴ろうとするなど粗暴的な様子が見られている。

Aの発言から、思い通りにならない場合や被害的に感じた場合に粗暴行為を行おうとしている様子が窺われる。

その他:不眠症状(寝つきが悪い)、食欲のむら

 

社会的養護に関する基本事項はこちら

 



選択肢の解説

児童養護施設に入所して1ヵ月後のAに対する初期対応として適切なものを選ぶ問題になっています。

 

この時点で重要なのは、Aが今の環境に対して安全感を持つことができていないという部分でしょう。

 

① 遊戯療法を速やかに導入し、A に心的外傷体験への直面化を促す

心的外傷体験に向き合うためには、基本的な安全感を有していることが最も重要な因子となります。

 

Aの被害的な言動や不眠・食欲のムラなどの基本的な生活リズムが確立されていない現段階では、トラウマ的な治療に踏み込むことは非常にリスクの高いことと考えられます。

 

また、他児に対する暴力のおそれがあり早期に介入が必要とされる現状で、即効的な効果が見込みにくい遊戯療法による心的外傷体験への直面化は初期の対応としては選択肢に入らないでしょう。

 

暴力に対する対応としては以下の論文が参考になります❗️

佐々木大樹(2019). 児童福祉施設における暴力の防止と解決への実践の検討, 京都大学大学院教育学研究紀要, 65, 81-94.

 

よって、選択肢①「遊戯療法を速やかに導入し、A に心的外傷体験への直面化を促す」は問題の解答として不適切といえます。

 

② 受容的態度で A の暴力を受け入れるよう、担当スタッフに助言する

施設であってもどの場所であっても同様ですが、暴力に関して受容的な態度で受け入れることは選択肢にあがりません

 

そのため、選択肢②「受容的態度で A の暴力を受け入れるよう、担当スタッフに助言する」は問題の解答として不適切といえます。

 

③ コップ等の食器は共用であるというルールを指導するよう、担当スタッフに助言する

Aが穏やかで落ち着いているときに「コップ等の食器は共用である」というルールを伝えておくことは重要です。

 

しかし、現状では共通のルールを理解していたとしても、感情が強く出てしまい暴力を抑えることが難しい可能性が高いと考えられます。

 

よって、選択肢③「コップ等の食器は共用であるというルールを指導するよう、担当スタッフに助言する」は間違った選択肢ではありませんが、初期対応としては誤った選択肢となりそうです。

 

④ A の様子を観察し、A が安心して眠れる方法を工夫するよう、担当スタッフに助言する

Aには睡眠と食欲など生理的な部分のリズムが乱れています。

 

睡眠や食欲などが不安定であると、誰しも易怒的となり得ます。

 

 

また、睡眠の問題に関しては比較的介入の方向性が見えやすい部分といえるでしょう。

 

以上のことから、選択肢④「A の様子を観察し、A が安心して眠れる方法を工夫するよう、担当スタッフに助言する」は選択肢として適切になります。

 

⑤ 衝動性や攻撃性が高まる契機となる刺激ができるだけ生じないように、担当スタッフと生活環境の調整を検討する

Aが安心感・安全感を持つことができるように、衝動性や攻撃性が高まりにくい環境を整えてあげることは非常に重要な観点です。

 

加えて、公認心理師ではなく、日常的に対応している施設職員こそできる対応ともいえるでしょう。

 

本問題では公認心理師の対応ではなく、施設職員に対するコンサルテーションがメインとなりますので、こちらの選択肢も重要な内容といえるでしょう。

 

よって、選択肢⑤「衝動性や攻撃性が高まる契機となる刺激ができるだけ生じないように、担当スタッフと生活環境の調整を検討する」は正しい記述といえます。

 



 

まとめ

第3回公認心理師資格試験の問76は、事例問題:児童養護施設での対応に関する問題でした❗️

 

今回の問題の解答としては、

  • 環境調整
  • 暴力以外の精神的な症状の軽減

となっています。

 

公認心理師が直接対応するというよりは、施設職員に対して上記を整えるようにコンサルテーションを行うことが、本問題の主眼となりますね。