公認心理師資格試験 過去問解説 問62 事例問題:躁転
- 2021.07.02
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- 気分障害, 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問62】事例問題:躁転
問62 30歳の女性A、会社員。Aは、精神科病院において入院治療を受けている。20代後半より抑うつエピソードを繰り返していたが、医療機関の受診歴はなかった。入院の1か月ほど前から口数が多くなり、卒業後交流のなかった高校時代の友人たちに電話やメールで連絡を取るようになった。衝動的な買い物が増え、職場での尊大な態度が目立つようになった。心配した家族の支援で入院となり、1か月が経過した。症状は改善しつつあるが、依然として口数は多く、睡眠は不安定である。Aは、仕事を休んでいることへの焦りを主治医に訴えている。
この時点での公認心理師のAへの支援として、最も適切なものを1つ選べ。① 障害年金制度について情報を提供する。
② 幼少期の体験に焦点を当てた心理面接を行う。
③ 会社の同僚に対する謝罪の文章をAと一緒に考える。
④ 毎日の行動記録を表に付けさせるなどして、生活リズムの安定を図る。
⑤ A の同意を得て、復職の時期について職場の健康管理スタッフと協議する。
④ 毎日の行動記録を表に付けさせるなどして、生活リズムの安定を図る
となります。
まずはAの経過を簡単にまとめてみましょう。
A 女性 30歳 会社員
20代後半より抑うつエピソードを繰り返しており、入院前1ヶ月頃(29-30歳)に、口数が多くなる(多弁)、交流の少なかった友人に頻繁に連絡を取るようになる(多弁)、衝動的な買い物[浪費行動]の増加(快楽的活動への熱中)、職場での尊大な態度(自尊心の肥大)などが目立ったことから医療機関に受診して入院加療を受けることになった。
入院後1ヶ月経過して、症状は改善しつつあるものの、多弁な傾向や睡眠の不安定さ、復職への焦りを訴えている。
Aの経過を見ると、20代後半から抑うつ状態が反復しており、入院1ヶ月前に、多弁・快楽的活動への熱中・自尊心の肥大などの躁状態を示唆する様子が散見されるようになったことがわかりますね。
この事例問題のキーワードは、躁転、双極性障害に対する公認心理師の支援となるでしょう。
躁転
躁転とは、『うつ状態から何かのきっかけによって躁状態に転じる』ことを意味する用語です。
といってもきっかけが明らかでない場合も多いです。
また、抗うつ薬の副作用として躁転が生じることもあります。
公認心理師資格試験 過去問解説 問41 向精神薬「睡眠薬の副作用」
躁状態 manic state とは、気分が高揚してイライラしたりさまざまな症状が起きることをいい、DSM-5では以下のように定義されます。
躁病エピソード より抜粋
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3)普段よりも多弁であるか、喋り続けようとする心拍
(4)観念奔逸(考えがまとまらず発言がバラバラ)、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5)注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないかまたは関係のない外観刺激によって他に転じる)
(6)目標志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動性の焦燥
(7)まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた商売への投資などに専念すること)出典:DSM-5®︎ 精神疾患の分類と診断の手引
上で引用したような躁病のエピソードが、1週間以上持続する場合を躁状態、4日間持続する場合を軽躁状態といいます。
双極性障害
双極性障害 Bipolar Disorder は、経過のなかでうつ病エピソードと躁病エピソードを繰り返す代表的な気分障害です。
ここではDSM-5の双極性障害および関連障害群 Bipolar and Related Disorders を以下に簡単にまとめています。
双極性障害のⅠ型とⅡ型の違いを見分けるポイントは、躁病エピソード(躁状態)の有無で、1度でも躁病エピソードが存在する場合は、双極性Ⅰ型障害と診断されます。
選択肢の解説
Aさんの事例について確認していきましょう。
Aさんは、20代後半から抑うつエピソードを繰り返してきていますが、
・多弁
・自尊心の肥大
・快楽的活動への熱中
といった躁状態が入院前1ヶ月頃から認められていますね。
実際の症状が診断基準に該当する程度か否かは確認できませんが、双極性障害のような状態像を示していることがわかります。
したがって、公認心理師としては双極性障害を有していることを想定した支援が求められますね。
① 障害年金制度について情報を提供する
双極性障害に対するエビデンスのある心理療法・心理支援のゴールドスタンダードとしては、症状や対策に関する心理教育が挙げられます。
そのため、障害年金制度などの福祉に関する適切な情報の提供は全く間違っているとはいえません。
しかし、問題文から判断すると、Aは現在勤務している会社を休んでいる(あるいは休職中)であることが自明であるため、障害年金制度に関する知識は早計となります。
また、先走って障害年金制度に関する話をすることで、Aの復職への焦りを助長させてしまう可能性もあるでしょう。
よって選択肢①「障害年金制度について情報を提供する」は最も適切とは言い難く、不適切な回答といえます。
② 幼少期の体験に焦点を当てた心理面接を行う
確かに、幼少期の不適切な養育環境やトラウマ的な出来事などによって抑うつ状態が長く続くクライエントさんに対して、幼少期の体験に焦点を当てた心理面接を行うことは有用な場合があります。
しかし、問題文のなかからは、抑うつ状態を繰り返すきっかけとして幼少期の体験が関連している可能性を示唆するような記述は見られず、幼少期の体験に焦点を当てるメリットは少ないでしょう。
加えて、Aさんの場合は、現時点ではうつ病エピソードではなく、躁病エピソードが主体の状態であるため、幼少期の体験とは独立した症状と考えることが妥当です。
以上のことから、選択肢②「幼少期の体験に焦点を当てた心理面接を行う」は不適切な記述といえます。
③ 会社の同僚に対する謝罪の文章をAと一緒に考える
職場での尊大な態度が目立つようになった。
この記述から出されたのだと思われますが、問題文上からは職場で大きな損害を出したとは判断がつかず、現時点でAさんの支援に繋がるとは考えられない選択肢となりますね。
もし今後、Aさんの復職が確定して、会社の同僚に対してAさんの症状に関する理解を得ようとするタイミングがあったとしたら、支援としてはありかもしれませんが…。
選択肢③「会社の同僚に対する謝罪の文章をAと一緒に考える」は不適切な記述といえます。
④ 毎日の行動記録を表に付けさせるなどして、生活リズムの安定を図る
双極性障害などの気分の波があるクライエントさんは、気分にあわせた活動をする傾向が強く、生活のリズムが崩れたり、長期的に症状が継続してしまうという悪循環が生まれることが頻繁にあります。
以上を踏まえたうえで、公認心理師としての支援では、
をベースに置くことが重要です❗️
「気分に左右されない活動量の調整」のためには、まずは現在の状態に気づく必要があります。このことを一般的にはセルフモニタリングといいますね。
現時点ではAさんは躁状態に近しいと考えられるため、このまま放っておくと過活動となってしまい症状が悪化する可能性が高いと想定されます。
そのため、記録表を用いてセルフモニタリングを行うことは、現時点の支援としてとても有用でしょう。
以上のことから、選択肢④「毎日の行動記録を表に付けさせるなどして、生活リズムの安定を図る」は適切な選択肢と考えられます。
⑤ A の同意を得て、復職の時期について職場の健康管理スタッフと協議する
症状は改善しつつあるが、依然として口数は多く、睡眠は不安定である。Aは、仕事を休んでいることへの焦りを主治医に訴えている。
こちらの記述に注目してください。
現時点では、躁病エピソードは安定しつつあり、Aが復職への意志を有していることは確認できますが、「多弁」「睡眠(詳細は不明)」といった症状が遷延している状態です。
この状態で復職を焦ってもいずれ症状が悪くなる可能性が高く、現時点では躁状態の治療が優先されるべきでしょう。
よって、選択肢⑤「A の同意を得て、復職の時期について職場の健康管理スタッフと協議する」は現時点では不適切な選択肢といえます。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問62は、事例問題:躁転に関する問題でした❗️
選択肢のジャンルが大きく別れているため判断が難しい部分もありますが、気分障害や双極性障害に対する支援の方法が頭に入っていれば解答可能な問題といえます。
躁病エピソードや気分障害の対応については確認しておくと良いでしょう。
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