公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問71|Hirschiの社会的絆理論と非行抑制

第5回公認心理師試験 午前問71 Hirschiの社会的絆理論と非行抑制の解説図 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問71は、友人から窃盗へ誘われた15歳男子が、高校進学や家族への影響を考えて非行に加担しなかった理由を、非行理論から説明する問題です。正答は ⑤ T. Hirschi〈ハーシ〉の社会的絆理論 です。

この事例では、Aは「盗みはできない性格だから」と単純に説明しているのではありません。

  • 推薦で決まった高校進学を失いたくない
  • 親に迷惑をかけたくない
  • 友人にも「やめた方がいい」と伝えて帰宅した

という、既存の社会生活や重要な他者とのつながりを失うことへの意識が、非行へのブレーキとして働いています。

これは、社会との絆が強いほど逸脱行動が抑制されると考えるHirschiの社会的絆理論とよく一致します。

問題

問題の要旨: 15歳男子Aは、高校への推薦進学が決まっています。友人Bから、置き忘れられた財布を盗んで遊ぼうと誘われますが、Aは「進学できなくなる」「親に迷惑をかける」と考え、Bにやめるよう伝えて帰宅しました。Aが非行に加担しなかった理由を最もよく説明する理論を選びます。

  1. A. K. Cohenの非行下位文化理論
  2. E. H. Sutherlandの分化的接触理論
  3. H. S. Beckerのラベリング理論
  4. R. K. Mertonの緊張理論
  5. T. Hirschiの社会的絆理論

正答は ⑤ T. Hirschiの社会的絆理論 です。

正答は⑤|Hirschiの社会的絆理論

Hirschiの社会的絆理論〈social bond theory / social control theory〉は、

「なぜ人は非行をするのか」だけでなく、「なぜ多くの人は非行をしないのか」

という方向から逸脱行動を説明します。

Hirschiは、個人と社会との結びつきが弱まると、非行や逸脱を抑制する力も弱くなると考えました。

反対に、

  • 家族との関係
  • 学校への所属
  • 将来の目標
  • 社会的ルールへの信頼

などの社会的な絆が強ければ、それを失いたくないため、逸脱行動を避けやすくなります。

本事例のAは、まさにこの構造です。

Aの「高校進学を失いたくない」はコミットメント

社会的絆理論を理解するうえで最も重要なのが、4つの要素です。

まずAは、

「窃盗に加担したら推薦で決まった高校へ進学できなくなる」

と考えています。

これは、Hirschiのいうコミットメント〈commitment〉と強く関係します。

コミットメントとは、

  • 学業
  • 進学
  • 就職
  • 社会的評価
  • 将来の目標

など、すでに積み上げてきた通常の社会生活への投資です。

非行によって、それまで積み上げてきたものを失うリスクが大きいほど、非行への抑制が働きやすくなります。

Aにとって高校推薦は、まさに「失いたくない社会的投資」です。

Aの「親に迷惑をかけたくない」はアタッチメント

Aは、

「親にも迷惑をかける」

と考えています。

これはアタッチメント〈attachment〉の側面と関連づけて理解できます。

アタッチメントは、

  • 親
  • 家族
  • 教師
  • 重要な他者

などとの情緒的な結びつきです。

大切な人からどう思われるかを気にかけ、その期待を裏切りたくないという気持ちが、社会的規範を守る方向に働きます。

社会的絆を構成する4要素

Hirschiは社会的絆を4つの要素で整理しました。

1. Attachment|アタッチメント

重要な他者との情緒的な結びつきです。

例:

  • 親との関係
  • 教師への信頼
  • 友人との関係

他者の期待を大切にするほど、規範から逸脱しにくくなります。

2. Commitment|コミットメント

社会的に承認された目標や活動へ、どれだけ投資しているかです。

例:

  • 学業
  • 進学
  • キャリア
  • 信頼
  • 評価

非行によって失うものが大きいほど、非行を避ける理由になります。

本問では特にここが強い決め手です。

3. Involvement|インボルブメント

通常の社会活動に時間やエネルギーを使っていることです。

例:

  • 学校活動
  • 部活動
  • 勉強
  • 家族との活動

社会的な活動に十分関与していれば、逸脱行動に関わる機会が減るという考えです。

4. Belief|ビリーフ

社会の規範やルールを正当なものとして信じることです。

例:

  • 人の物を盗んではいけない
  • 法律は守るべきだ
  • 他者を傷つけるべきではない

という規範意識です。

4要素の覚え方

試験では英語も一緒に覚えると整理しやすくなります。

A-C-I-B

  • Attachment
  • Commitment
  • Involvement
  • Belief

です。

日本語では、

愛着・投資・参加・信念

くらいのイメージで整理しておくとよいでしょう。

本事例では複数の社会的絆が働いている

Aの行動を一つの要素だけで説明する必要はありません。

  • 高校進学を失いたくない → Commitment
  • 親に迷惑をかけたくない → Attachment
  • 窃盗をやめるよう友人に伝えた → Beliefも関連

というように、複数の社会的絆が非行を抑制していると理解できます。

ただし試験で最も分かりやすい決め手は、

「進学という将来への投資を失いたくない」

というCommitmentです。

① Cohenの非行下位文化理論が違う理由

A. K. Cohenの非行下位文化理論は、非行集団の中で独自の価値観や規範が形成されることに注目する理論です。

社会の主流的価値から外れた集団の中で、通常とは異なる価値体系が生まれ、それが非行行動を支えると考えます。

本問では、Aが非行的な下位文化へ同一化した結果行動したのではありません。

むしろAは、通常の進学や家族との関係を守ろうとして非行を避けています。

そのため①ではありません。

② Sutherlandの分化的接触理論が違う理由

E. H. Sutherlandの分化的接触理論〈differential association theory〉では、犯罪・非行行動も他の行動と同じように、他者との接触の中で学習されると考えます。

非行を肯定する定義や価値観との接触が、非行に影響するという考えです。

本事例ではAは実際に非行へ誘うBと接触しています。

そのため一見②にも見えます。

しかし問題が問うのは、

「なぜ誘われても加担しなかったのか」

です。

Aが将来や家族という社会的絆を失いたくないと考えた点から、⑤がより適切です。

③ Beckerのラベリング理論が違う理由

H. S. Beckerのラベリング理論では、ある行動が社会によって「逸脱」と定義され、本人が「逸脱者」というラベルを与えられることが、その後の逸脱行動や自己認識へ影響すると考えます。

本問のAはまだ非行者としてラベリングされておらず、ラベルによって非行が促進・固定化された事例でもありません。

したがって③ではありません。

④ Mertonの緊張理論が違う理由

R. K. Mertonの緊張理論〈strain theory〉では、社会的に望ましい目標と、それを達成するための合法的手段の間に不一致があるとき、緊張が生まれ、逸脱行動につながると考えます。

たとえば、社会的成功を求めても正規の手段では達成できないと感じると、非合法な手段へ向かう可能性があるという考えです。

本問では、Aは進学という目標をすでに通常の方法で達成しつつあり、その目標を守るために非行を避けています。

したがって④ではありません。

第3回問141「漂流理論」と比較する

Ig Knowledgeの既存記事では、第3回問141でD. Matzaの漂流理論を扱っています。

漂流理論では、少年は規範を完全に拒否しているのではなく、通常の規範と逸脱の間を漂流し、逸脱を正当化する「中和の技術」によって一時的に非行へ進みやすくなると考えます。

第3回問141の事例では、

  • 「友達に誘われた」
  • 「みんなやっている」
  • 「誰にも迷惑をかけていない」

といった合理化がポイントでした。

一方、今回のAは、

非行によって失う社会的絆を意識して、逸脱を踏みとどまっています。

この違いを押さえると、非行理論を横断的に理解できます。

非行理論を比較する

試験では名称だけでなく「何を原因としている理論か」を整理します。

Cohen

非行下位文化理論
→ 非行集団の価値観・下位文化

Sutherland

分化的接触理論
→ 他者との接触を通じた非行の学習

Becker

ラベリング理論
→ 社会から逸脱者として定義されること

Merton

緊張理論
→ 社会的目標と合法的手段の不一致

Hirschi

社会的絆理論
→ 社会との絆が非行を抑制する

この「中心語」を一つずつ持っておくと見分けやすくなります。

「非行をする理由」より「非行をしない理由」

Hirschiの理論の特徴はここです。

多くの非行理論が、

「なぜ人は犯罪・非行へ向かうのか」

を説明しようとします。

一方Hirschiは、

「人は逸脱する可能性があるのに、なぜ多くの人は踏みとどまるのか」

に注目します。

その答えが、家族、学校、将来目標、規範といった社会との絆です。

本問のAは、この理論を理解する非常に典型的な事例です。

試験での見分け方

Hirschiの社会的絆理論を選ぶポイントは、

  • 親や教師とのつながり
  • 学校や進学を失いたくない
  • 将来への投資
  • 社会的活動への参加
  • 規範を信じる

といった情報です。

特に、

「これまで築いてきたものを失いたくないから非行をしない」

という記述はCommitmentを強く示します。

まとめ

第5回公認心理師試験・午前問71の正答は ⑤ T. Hirschiの社会的絆理論 です。

Aは友人から窃盗へ誘われても、

  • 推薦で決まった高校進学を失いたくない
  • 親に迷惑をかけたくない

と考えて踏みとどまりました。

これは、社会との絆が逸脱を抑制するというHirschiの考えに一致します。

試験では、

Attachment・Commitment・Involvement・Belief

の4要素を必ず押さえておきましょう。

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参考資料

  • 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第5回公認心理師試験 午前問題・正答
  • Hirschi T. Causes of Delinquency. University of California Press. 1969.
  • Office of Juvenile Justice and Delinquency Prevention|Social Bond / Social Control Theory resources.

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