第6回公認心理師試験・午前問37は、高齢者で薬物による有害事象が増える理由を、加齢に伴う薬物動態の変化から判断する問題です。正答は⑤ 薬物排泄の減少です。
高齢者では、腎血流量、糸球体濾過量、尿細管分泌などが低下しやすく、腎クリアランスが低下します。その結果、腎排泄型の薬物では体内に薬物が残りやすくなり、有害事象のリスクが高まることがあります。
- 問題
- 選択肢の要点
- 正答
- 薬物動態のADME
- なぜ薬物排泄が減少するのか
- クリアランスとは
- 選択肢① 体脂肪率の低下
- 選択肢② 体水分量の増加
- 選択肢③ 薬物吸収の低下
- 選択肢④ 薬物代謝の亢進
- 選択肢⑤ 薬物排泄の減少
- 厚生労働省の整理
- 腎機能は血清クレアチニンだけで判断しない
- 薬物有害事象とは
- 薬物動態と薬力学の違い
- 多剤併用との関係
- 体脂肪率と水分量の変化をどう覚えるか
- 代謝と排泄の変化をどう覚えるか
- 高齢者では個人差が大きい
- 腎排泄型薬物で特に注意する理由
- 公認心理師が薬物療法を理解する意味
- 試験での見分け方
- 関連知識
- 薬物有害事象は一つの機序だけではない
- 加齢変化を方向で覚える
- 心理症状との鑑別にも関係する
- 最短で覚えるなら
- 吸収より排泄が決め手になる理由
- 腎クリアランスを軸にする
- 判断の軸
- まとめ
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
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問題
高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
選択肢の要点
① 体脂肪率の低下
② 体水分量の増加
③ 薬物吸収の低下
④ 薬物代謝の亢進
⑤ 薬物排泄の減少
正答
⑤ 薬物排泄の減少
薬物動態のADME
薬物動態は、吸収〈Absorption〉、分布〈Distribution〉、代謝〈Metabolism〉、排泄〈Excretion〉の4段階で整理され、頭文字を取ってADMEと呼ばれます。高齢者では、これらの各段階に加齢の影響が生じます。
厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」では、とくに代謝と排泄は加齢の影響を受けやすく、薬物クリアランスに関わるため重要とされています。
なぜ薬物排泄が減少するのか
腎臓は多くの薬物やその代謝物を体外へ排泄します。加齢に伴い、腎血流量、糸球体濾過量、尿細管分泌が低下すると、腎クリアランスが低下します。
そのため、同じ量の薬を投与しても体内から消失する速度が遅くなり、薬物への曝露量が増えることがあります。これが高齢者で薬物有害事象が起こりやすくなる理由の一つです。
クリアランスとは
クリアランスは、薬物を体内から除去する能力を表す概念です。肝臓で代謝される薬物では肝クリアランス、腎臓から排泄される薬物では腎クリアランスが重要です。
高齢者では肝機能・腎機能が若年者と同じとは限らず、薬物ごとに消失速度が変わるため、薬剤の選択や投与量には個別評価が必要です。
選択肢① 体脂肪率の低下
①は不適切です。一般に加齢では体脂肪率は増加する方向に変化します。脂溶性薬物では分布容積が増え、血中半減期が延長することがあります。
したがって「体脂肪率の低下」という方向は、高齢者の一般的な生理変化と逆です。
選択肢② 体水分量の増加
②も不適切です。加齢では総体水分量は減少する方向に変化します。そのため、水溶性薬物では分布容積が小さくなり、血中濃度に影響する可能性があります。
体脂肪率の増加と体水分量の減少は、分布の変化としてセットで覚えると整理しやすくなります。
選択肢③ 薬物吸収の低下
③は本問の正答ではありません。加齢により消化管運動や血流、胃内pHなどは変化しますが、吸収の変化は薬物によって異なり、単純に「高齢者では薬物吸収が低下するから有害事象が増える」とは整理できません。
厚生労働省の指針では、加齢による薬物有害事象を考える上で、とくに代謝と排泄、すなわちクリアランスの変化が重要とされています。
選択肢④ 薬物代謝の亢進
④は不適切です。加齢では肝重量、肝血流量、薬物代謝酵素活性などが低下することがあり、肝クリアランスも低下する方向が一般的です。
したがって「代謝の亢進」は典型的な加齢変化と逆です。
選択肢⑤ 薬物排泄の減少
⑤が正答です。腎機能の加齢変化により、腎排泄型薬物のクリアランスが低下し、薬物や代謝物が体内に蓄積しやすくなります。
この結果、薬物への曝露量が増え、有害事象が起こりやすくなることがあります。
厚生労働省の整理
厚生労働省の指針では、加齢による一般的な変化として、体脂肪率増大、体内水分量減少、肝クリアランス低下、腎クリアランス低下などが示されています。
本問の①、②、④はこれらと逆方向であり、⑤だけが加齢変化の方向と一致します。
腎機能は血清クレアチニンだけで判断しない
高齢者では筋肉量が少ないため、腎機能が低下していても血清クレアチニン値が一見正常範囲にあることがあります。そのため、薬物投与時の腎機能評価では、推算クレアチニンクリアランスやeGFRなども参考にします。
ただし、本問は具体的な投与設計を問うものではなく、高齢者での一般的な薬物動態の方向を理解する問題です。
薬物有害事象とは
薬物有害事象には、ふらつき、転倒、意識障害、低血圧、便秘、排尿障害など、薬剤の種類に応じてさまざまなものがあります。高齢者では複数の疾患を抱え、多剤併用となることもあるため、薬物動態の変化だけでなく相互作用や薬力学的変化も影響します。
有害事象が起きたときは、症状を単に加齢や心理状態のせいにせず、服薬の影響も含めて医療チームで評価します。
薬物動態と薬力学の違い
薬物動態〈pharmacokinetics〉は「身体が薬をどう扱うか」で、吸収・分布・代謝・排泄を扱います。一方、薬力学〈pharmacodynamics〉は「薬が身体にどう作用するか」を扱います。
高齢者では血中濃度が変わらなくても薬への感受性が変化する場合があり、薬物有害事象の増加は薬物動態だけでは説明しきれません。
多剤併用との関係
高齢者では複数の慢性疾患を持つことがあり、複数の薬剤が処方される機会も増えます。薬剤数が増えるほど相互作用や重複投与の可能性が高まり、薬物有害事象のリスクも上がります。
本問の正答は⑤ですが、実際の安全管理では腎機能、肝機能、薬剤数、生活状況などを総合的に確認します。
体脂肪率と水分量の変化をどう覚えるか
加齢では「脂肪は増え、水は減る」と整理すると覚えやすくなります。脂溶性薬物では分布容積が増えやすく、水溶性薬物では分布容積が減りやすいという方向につながります。
分布容積の変化は薬物によって意味が異なるため、単純に全ての薬で血中濃度が同じ方向に変わると考えないことも大切です。
代謝と排泄の変化をどう覚えるか
肝臓と腎臓による薬物の消失能力は、加齢で低下する方向を基本に考えます。代謝の亢進、排泄の増加といった選択肢が出た場合は、典型的な方向と逆ではないかを確認します。
特に腎クリアランス低下は高齢者の薬物動態で重要なポイントです。
高齢者では個人差が大きい
加齢に伴う薬物動態の変化には大きな個人差があります。同じ年齢でも、腎機能、肝機能、筋肉量、体水分量、併存疾患、服薬数は異なります。
そのため「高齢者だから全員同じ」と考えることはできず、実務では個々の検査値や薬剤特性を確認します。
腎排泄型薬物で特に注意する理由
腎臓から未変化体や代謝物として排泄される割合が高い薬物では、腎クリアランス低下の影響を受けやすくなります。体内からの消失が遅くなれば、繰り返し投与によって蓄積し、血中濃度が上がる可能性があります。
ただし、どの薬をどの程度調整するかは薬剤ごとに異なり、個別の医療判断が必要です。
公認心理師が薬物療法を理解する意味
公認心理師は処方そのものを行いませんが、医療領域では向精神薬や睡眠薬などを服用している高齢者を支援することがあります。ふらつき、眠気、認知機能の変化などがみられたとき、心理状態だけでなく薬物の影響も考慮し、医師・薬剤師・看護師と連携することが重要です。
服薬内容や身体状態を把握することは、心理アセスメントの解釈を誤らないためにも役立ちます。
試験での見分け方
高齢者の薬物動態では、体脂肪率は増加、体水分量は減少、肝クリアランスは低下、腎クリアランスは低下という基本方向を押さえます。
本問では①、②、④がこの方向と逆で、⑤が正しいと判断できます。③の吸収は変化が一様ではなく、最も適切な説明ではありません。
関連知識
腎排泄型薬物では、腎機能低下に応じた投与量や投与間隔の調整が必要になる場合があります。ただし、具体的な調整は薬剤ごとに異なり、医師・薬剤師が腎機能や薬物特性を踏まえて判断します。
公認心理師が独自に服薬量を変更するものではなく、有害事象が疑われる場合は医療職との連携が必要です。
薬物有害事象は一つの機序だけではない
高齢者の薬物有害事象には、腎排泄低下だけでなく、肝代謝の低下、体組成変化、薬への感受性変化、多剤併用、併存疾患などが関わります。
本問はその中から最も適切な説明を一つ選ぶ形式であり、⑤を選ぶことは「他の要因が存在しない」という意味ではありません。
加齢変化を方向で覚える
細かな数値を覚える前に、体組成とクリアランスの方向を整理します。脂肪は増加、水は減少、肝・腎のクリアランスは低下、という基本を押さえると、選択肢の正誤を素早く判断できます。
数値や個別薬の調整は、別の問題として切り分けます。
心理症状との鑑別にも関係する
眠気、注意力低下、ふらつき、活動性低下などは、心理状態の変化に見えることがあります。高齢者支援では、薬物有害事象や身体疾患の影響を除外せずに心理アセスメントを行うことが重要です。
服薬変更後の変化があれば、医療職と情報を共有します。
最短で覚えるなら
高齢者の薬物動態は「脂肪↑、水↓、代謝↓、排泄↓」を基本方向として整理します。本問では⑤だけがこの方向と一致します。
吸収より排泄が決め手になる理由
加齢で消化管機能は変化しますが、吸収への影響は薬剤ごとに一定ではありません。一方、腎機能低下による腎クリアランス低下は、高齢者の薬物動態で重要な一般則です。そのため本問では⑤が最も適切です。
腎クリアランスを軸にする
薬物排泄の問題では、腎血流量・糸球体濾過量・尿細管分泌の低下から腎クリアランス低下へつなげて考えると整理できます。
判断の軸
高齢者では薬物の消失能力が低下する方向を基本に考えます。
まとめ
第6回午前問37の正答は⑤ 薬物排泄の減少です。高齢者では腎血流量、糸球体濾過量、尿細管分泌などが低下し、腎クリアランスが低下するため、薬物の排泄が遅くなり有害事象のリスクが高まることがあります。試験では、体脂肪率増加、体水分量減少、代謝・排泄の低下という加齢変化の方向をセットで覚えると判断しやすくなります。

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