第5回公認心理師試験・午前問64は、14歳の女子の欠席、朝の起床困難、頭痛、めまい、立ちくらみ、腹痛、倦怠感などから状態を理解する事例問題です。正答は④ 起立性調節障害です。
この問題のポイントは、夕方には友人と遊んだりゲームを楽しめることを「仮病」や「気持ちの問題」と捉えないことです。起立性調節障害では、午前に症状が強く、午後に軽くなりやすい日内変動がみられることがあります。
- 問題
- 選択肢の要点
- 正答
- 起立性調節障害とは
- 本事例で重要な症状の組み合わせ
- 「夕方に遊べる」ことは仮病の証拠ではない
- 選択肢① 不安症
- 選択肢② 統合失調症
- 選択肢③ 過敏性腸症候群
- 選択肢④ 起立性調節障害
- 選択肢⑤ 自閉スペクトラム症
- ODと不登校の関係
- 身体疾患か心理的問題かの二者択一にしない
- 診断では他の疾患の除外も必要
- 起立試験
- 家族の理解が症状に与える影響
- 活動量低下とdeconditioning
- 睡眠リズムとの関係
- 学校での支援
- 心理支援の役割
- 試験での見分け方
- 関連知識
- 治療は一つの方法だけではない
- 不登校という結果だけで診断しない
- 本人の説明を尊重する
- 最短で見抜くなら
- 症状の時間帯を問診する意味
- 試験語としての日内変動
- 判断の軸
- まとめ
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
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問題
14歳・中学2年生の女子Aは、5月の連休明けから頭痛と朝の起床困難が出現し、遅刻が増えました。めまい、腹痛、立ちくらみもあり、6月からはほぼ毎日欠席しています。午後も身体がだるく横になることがありますが、夕方から友人と遊び、ゲームや会話を楽しむこともあります。排便で腹痛は改善しません。この状態の理解として最も適切なものを選ぶ問題です。
選択肢の要点
① 不安症
② 統合失調症
③ 過敏性腸症候群
④ 起立性調節障害
⑤ 自閉スペクトラム症
正答
④ 起立性調節障害
起立性調節障害とは
起立性調節障害〈Orthostatic Dysregulation:OD〉は、起立時の循環調節がうまくいかず、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感、朝の起床困難などがみられる病態です。思春期にみられやすく、学校生活に大きな影響を与えることがあります。
日本小児心身医学会は、ODでは午前に症状が強く、午後に軽減する傾向があること、立位や座位で悪化し、横になると軽減することを説明しています。
本事例で重要な症状の組み合わせ
Aには、朝起きられない、頭痛、めまい、立ちくらみ、倦怠感というODに整合する症状が複数あります。さらに、午前中の学校参加が難しい一方で、夕方には活動できることもあるという時間帯による変化が示されています。
単一の症状ではなく、起立性の症状、朝の悪化、午後からの改善傾向、不登校への影響という組み合わせを見ることが重要です。
「夕方に遊べる」ことは仮病の証拠ではない
朝は起きられず学校を休んでいるのに、夕方には友人と遊べるため、一見すると「学校に行きたくないだけ」に見えるかもしれません。
しかしODには日内変動があり、午後になると症状が軽減することがあります。夕方の活動性だけで朝の症状を否定することはできません。
選択肢① 不安症
不安症でも、身体症状、学校への不安、腹痛や頭痛がみられることがあります。しかし、本事例では立ちくらみ、めまい、朝の起床困難、時間帯による症状変化が前景にあり、ODのパターンによりよく合います。
心理社会的ストレスがOD症状に関与する場合もあるため、「ODなら不安は無関係」と考えるのも誤りです。
選択肢② 統合失調症
統合失調症では、幻覚、妄想、思考のまとまりにくさ、意欲低下などが問題になることがあります。本事例には、そのような精神病症状を示す情報はありません。
欠席が続いているという一点だけから統合失調症を考えるのは不適切です。
選択肢③ 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群〈IBS〉では腹痛と排便の関係、便通異常などが中心となります。本事例では腹痛はありますが、排便で改善しないことが明示されています。また、頭痛、立ちくらみ、めまい、朝の起床困難などODを示す所見がよりまとまって存在します。
腹痛があるからIBSと即断せず、症状全体のパターンを見る必要があります。
選択肢④ 起立性調節障害
④が正答です。Aの年齢、立ちくらみ・めまい、頭痛、朝の起床困難、倦怠感、学校欠席、夕方の活動性という組み合わせがODの特徴と一致します。
選択肢⑤ 自閉スペクトラム症
自閉スペクトラム症〈ASD〉では、社会的コミュニケーションの持続的な困難や、限定的・反復的な行動や興味などを発達歴から評価します。本事例には、その診断を示唆する発達歴や特徴は提示されていません。
不登校やゲームという表面的な情報だけでASDを推測するのは適切ではありません。
ODと不登校の関係
ODは学校生活への支障が大きく、重症になると不登校が長期化することがあります。日本小児心身医学会も、不登校との併存が少なくないことを説明しています。
そのため学校では、「休む=怠け」と評価せず、身体症状の理解と生活・学習上の調整を考える必要があります。
身体疾患か心理的問題かの二者択一にしない
ODは自律神経による循環調節の問題を基盤としますが、心理社会的ストレスや活動量低下などが症状に影響することもあります。身体要因と心理社会要因が相互作用する可能性を考えます。
「身体の病気だから心理面は関係ない」「不登校だから心理的な問題だけだ」という二者択一は避けます。
診断では他の疾患の除外も必要
実臨床では、ODが疑われても、貧血、心疾患、神経疾患、内分泌疾患など他の原因を確認します。試験問題では最も適切な選択肢を選びますが、実際の診療では症状だけで確定診断するわけではありません。
症状の組み合わせと日内変動を手掛かりにしつつ、医療的評価で他の病態を除外する視点が必要です。
起立試験
ODの評価では新起立試験などを用いて、起立直後性低血圧、体位性頻脈症候群〈POTS〉、血管迷走神経性失神などのサブタイプを検討します。
ただし、本問は検査手順ではなく、事例から病態を見分ける問題なので、症状パターンと日内変動の理解が中心です。
家族の理解が症状に与える影響
朝に動けないのに夕方には活動できるという特徴は、家族にとっても理解しづらいことがあります。「夕方に元気なら朝も起きられるはず」と責められると、本人の心理的ストレスが増え、症状が悪化する悪循環につながることがあります。
日内変動が病態の一部であることを共有し、本人の努力不足とみなさないことが重要です。
活動量低下とdeconditioning
欠席や臥床が長く続くと、活動量が低下し、筋力や循環調節機能がさらに低下することがあります。日本小児心身医学会は、このようなdeconditioningがODを悪化させる可能性も挙げています。
そのため、症状に配慮しながら生活リズムや活動性を整える視点も必要です。
睡眠リズムとの関係
ODでは夜に目がさえて寝つきにくくなり、起床時刻が遅れ、悪化すると昼夜逆転のような生活になることがあります。朝の起床困難を単純な睡眠不足と決めつけず、ODの症状と生活リズムの相互作用を考えます。
生活リズムの乱れが続くと学校参加がさらに難しくなるため、医療と学校、家庭で共通理解を作ることが重要です。
学校での支援
学校側がODを理解し、朝の登校困難や体調変動を「意欲不足」と決めつけないことが重要です。必要に応じて、遅刻、別室利用、学習負担の調整、保健室との連携などを検討します。
支援の目標は、無理に一度だけ登校させることではなく、身体状態を踏まえて継続可能な学校生活を組み立てることです。
心理支援の役割
症状が続くことで、本人は「また起きられなかった」「学校に行けない」と自責的になったり、周囲の誤解で傷ついたりすることがあります。公認心理師は身体症状を否定せず、本人の焦りや不安、家族・学校との関係を丁寧に支援します。
身体症状への理解を土台に、本人が自分の状態を説明できるよう支援することも、学校や家庭での誤解を減らす助けになります。
試験での見分け方
思春期の事例で、朝の起床困難+立ちくらみ・めまい+頭痛・倦怠感+午後に軽くなるという組み合わせがあれば、ODを強く疑います。
夕方に活動できるという情報は、ODを否定するのではなく、日内変動を示す手掛かりになる点が本問の重要ポイントです。
関連知識
ODでは、立ちくらみ、失神、気分不良、朝の起床困難、頭痛、腹痛、動悸、午前中の不調と午後の回復など、複数の症状を組み合わせて評価します。
不登校とODは併存することがあるため、学校への支援では「心理か身体か」を決めつけず、医療情報と学校での観察をつなぐことが重要です。
治療は一つの方法だけではない
ODの対応では、疾病教育、生活上の工夫、学校との連携、環境調整、必要に応じた薬物療法や心理療法などを組み合わせます。身体的重症度や心理社会的関与を踏まえて対応を選ぶため、「薬だけ」「心理療法だけ」と単純化しないことが大切です。
実際の治療内容は医療機関で個別に判断されるため、試験知識をそのまま自己診断や自己治療に使うものではありません。
不登校という結果だけで診断しない
本事例では欠席が目立ちますが、不登校は診断名ではなく、さまざまな身体的・心理的・環境的要因から生じ得る状態です。試験では欠席という結果より、その前後にある頭痛、立ちくらみ、朝の起床困難、日内変動という情報を重視します。
学校に行けないという一点だけで不安症や発達症を選ばないことがポイントです。
本人の説明を尊重する
朝のつらさは外見から分かりにくいため、本人の訴えが軽視されることがあります。支援者は症状を否定せず、いつ、どの姿勢で、どの程度つらいのかを具体的に確認します。
症状の時間帯や体位との関係は、ODを理解するうえでも有用な情報です。
最短で見抜くなら
朝起きられない、立ちくらみ・めまい、頭痛、午後に軽くなるという並びがあればODを第一候補として考えます。夕方に活動できることは、むしろ日内変動の手掛かりです。
症状の時間帯を問診する意味
ODを疑うときは、症状があるかどうかだけでなく、朝・昼・夕方のどの時間帯に強いか、立位で悪化するか、横になると軽くなるかを確認します。時間帯と体位の情報を合わせることで、症状のパターンをより具体的に捉えられます。
試験語としての日内変動
「午前に悪く午後に改善」はODを示す重要な識別語です。
判断の軸
欠席の有無ではなく、起立性症状と朝優位の日内変動を軸に判断します。
まとめ
第5回午前問64の正答は④ 起立性調節障害です。Aには、朝の起床困難、頭痛、めまい、立ちくらみ、倦怠感、学校欠席というODに典型的な特徴がまとまってみられます。特に、朝に強く夕方には活動できることもあるという日内変動が重要な手掛かりです。夕方の活動性だけで仮病や意欲不足と判断せず、身体症状と心理社会的要因の両方を理解することが大切です。


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