公認心理師資格試験 過去問解説 第5回 午前 問62|相談意欲が乏しい大学生への初期対応

公認心理師過去問第5回62 公認心理師試験

第5回公認心理師試験・午前問62は、本人に相談意欲や問題意識が乏しい段階で、支援者がどのように関わるかを問う事例問題です。正答は①です。すぐに行動目標を設定したりゲームを制限したりする前に、本人の体験と感情に触れ、本人自身が現在の状態を考えられるようにすることが重要です。

問題

20歳の大学2年生が単位を取得できず留年することになり、母親に連れられて学生相談室を訪れました。大学では孤立し、授業参加が少なく、サークルやアルバイトもせず、外出が減り、昼夜逆転気味で自室でゲームをして過ごすことが多い一方、本人は「困っていない」「相談する理由が分からない」と述べています。ただし相談継続には渋々同意しています。

選択肢の要点

  1. 情緒面に触れながら問題への気づきを徐々に促す。
  2. ゲーム機を片付けるなど刺激のコントロールを促す。
  3. 改善目標と優先順位を検討させる。
  4. 価値観や自分の言動が周囲に与える影響を考えさせる。
  5. 授業に出たことを肯定的にフィードバックして強化する。

正答

①

最初に見るべきは問題認識のズレ

留年、孤立、欠席、生活リズムの乱れなど、客観的には複数の困難があります。しかし本人は「何も困っていない」と述べ、相談へ連れてこられたことにも不満を表しています。支援者が考える問題と本人が認識する問題が一致していないため、この時点で行動目標を押しつけると面接自体が成立しにくくなります。

選択肢①が適切な理由

①では、本人の情緒的側面に触れながら、問題への気づきを徐々に促します。本人の体験を理解し、相談場面への参加を支えつつ、問題認識を形成していく初期対応です。「留年が決まったときどう感じたか」「母親に連れてこられたことをどう思うか」など、本人の主観から面接を始めます。

正論で説得しない

周囲から見ると「授業に出た方がよい」「ゲームを減らした方がよい」と思える場面でも、本人が困り感を持っていなければ、正論による説得は対立を強めることがあります。初期面接では、変化を迫るより、本人の認識と現実とのズレを本人自身が考えられるよう支えます。

選択肢② 刺激統制を急がない

ゲーム機を片付けるなどの刺激統制は行動変容の方法として使われることがあります。しかし本事例では、本人がゲームを問題だと認識しておらず、相談への納得も十分ではありません。初期段階でゲームだけを直接標的にすると、相談に来たら好きなものを取り上げられるという印象を生み、関係形成を妨げる可能性があります。

選択肢③ 目標設定には準備が必要

目標設定と優先順位づけは、本人が変えたいことをある程度認識し、支援へ参加する準備が整ってから有効になります。現段階では、本人は問題の存在自体に納得していません。問題認識が十分でない時点で目標を決めても、支援者や家族だけの目標になりやすくなります。

選択肢④ 価値観の検討を急がない

価値観を扱うこと自体は不適切ではありませんが、初期段階で「自分の言動が周囲にどう影響しているか」を考えさせると、説教や責任追及として受け取られる可能性があります。まずは本人が安全に話せる関係をつくり、自分の体験や感情を言葉にできることが先です。

選択肢⑤ 行動強化はまだ早い

授業に出た行動を肯定的にフィードバックして強化することは、行動療法としては理解できます。しかし本事例では「授業に出ること」が本人と共有された目標になっていません。目標が共有されないまま特定の行動だけを強化すると、本人の主体性を損ねる可能性があります。

初期対応の目標は関係形成

相談意欲が低い人との初期面接では、大きな行動変容をすぐに起こすことより、相談関係を成立させることが重要です。本人が「ここなら自分の話をしてもよい」と感じられることが、その後のアセスメントや支援につながります。

「困っていない」をそのまま受け取らない

本人が困っていないと言っていても、生活機能上の困難がないとは限りません。本事例では留年、授業不参加、孤立、外出の減少、昼夜逆転が示されています。一方で、支援者が「あなたは困っている」と決めつけてもいけません。客観的状況と本人の主観を両方扱います。

動機づけ面接から学べる視点

本問は動機づけ面接の定義問題ではありませんが、相談意欲が乏しい人への関わりを考える上では関連します。動機づけ面接では、変化への両価性を異常な抵抗とみなさず、自然なものとして扱います。支援者が一方的に変化を主張すると、本人が変わらない理由をより強く主張する関係になりやすいため、自律性を尊重します。

OARSの基本

動機づけ面接では、開かれた質問、是認、反映的傾聴、要約をOARSと呼びます。これらは本人の話を引き出し、相談関係を築くための基本的なスキルです。ただし、本問ではOARSという用語ではなく、①の「情緒面に触れながら、問題への気づきを徐々に促す」という事例判断を優先します。

本人の自律性を尊重する

20歳の大学生は成人です。母親が相談を希望していても、支援の中心は本人になります。本人の意思を無視して、母親と支援者だけで目標を決めることは避けます。本人が選べる部分を明確にし、相談を続けるか、何を話すかについて自己決定を支えます。

母親からの情報も重要

一方で、家族からの情報は生活状況や経過を理解する上で重要です。本人の同意や秘密保持に配慮しながら、家族の観察と本人の語りを統合します。家族の困り感をそのまま本人の困り感とみなさないことも大切です。

診断を急がない

外出減少、昼夜逆転、ゲーム、孤立などが示されていますが、これだけでひきこもり、ゲーム行動症、うつ病、自閉スペクトラム症などを診断することはできません。睡眠、気分、不安、発達歴、対人関係、身体状態、大学での適応、ゲームの機能などを丁寧に確認します。

ゲームは原因とは限らない

ゲームが全ての問題の原因とは限りません。大学での孤立や失敗体験から離れるための対処になっている可能性もあれば、単に楽しみとして続けている可能性もあります。機能を理解せずに禁止するより、「ゲーム中はどんな感じか」「他の時間はどう過ごすか」と生活全体を理解します。

情緒的側面に触れるとは

「留年してつらいでしょう」と感情を決めつけるのではなく、「留年が決まったと聞いたときはどうでしたか」「相談に来ることになってどんな気持ちですか」と、本人が表現できる余地を残して尋ねます。怒りや不満が出るなら、その感情も面接の重要な材料です。

問題への気づきは説得ではない

気づきを促すとは、「あなたには問題がある」と納得させることではありません。本人が、自分の生活、望んでいる将来、現在の状態を見比べ、自分なりに考えられるよう支えることです。支援者が結論を与えるのではなく、本人が言葉にする過程を重視します。

継続同意は小さな手掛かり

本人は渋々ではあるものの、相談を継続することには同意しています。完全な拒否ではありません。この小さな合意を尊重し、面接を本人にとって意味のある場にしていくことが初期対応のポイントです。

連れてこられた相談での契約づくり

第三者の勧めで来談した場合、「誰が何を問題だと思っているのか」と「本人は何を話したいのか」を分けて整理します。面接の目的、秘密保持の範囲、本人が選べることを明確にすることで、強制された場面から本人自身の相談へ変えていきやすくなります。

リスク評価も忘れない

関係形成を重視していても、自傷他害、著しい抑うつ、重度の睡眠障害、栄養状態、急激な機能低下など、安全に関わる情報は確認します。相談意欲が低いことを理由に、必要なリスク評価まで先送りしてはいけません。

試験での見分け方

本人が「困っていない」「来たくなかった」と述べる初期場面では、行動変容を直接求める選択肢より、本人の体験を理解し、問題認識や相談意欲を少しずつ形成する選択肢を優先します。目標設定、刺激統制、行動強化は、その後に本人と目標を共有してから検討します。

本人の言葉から小さなテーマを探す

本人が大きな問題を認めていなくても、「昼夜逆転で朝がしんどい」「母親に連れてこられて腹が立つ」「大学には居場所がない」など、本人が少しでも負担に感じるテーマが見つかることがあります。その小さなテーマから面接を始めると、支援者が設定した大きな問題を押しつけずに対話を続けやすくなります。

変化の準備性に合わせる

変化の必要性をまだ感じていない段階では、具体的な行動計画より、現状のメリットとデメリット、本人が大切にしていること、将来どうなりたいかを探索する方が適しています。気づきが高まり、本人自身が変えたい点を言葉にできた後に、目標を小さく具体化していきます。

過去問学習での使い方

この問題は正答だけを暗記するより、各選択肢がどの概念や支援段階に対応しているかを説明できるようにすると定着します。正答を隠し、事例の条件から優先順位を言葉にする練習をすると、類似する事例問題にも対応しやすくなります。

本人が感じるメリットとデメリットを整理する

現状を変えることには、本人にとってメリットとデメリットの両方があります。大学へ戻れば単位取得につながる一方、人間関係や授業への不安が増えるかもしれません。ゲームを減らせば生活リズムは整いやすくなる一方、唯一の楽しみや安心できる時間を失うかもしれません。こうした両面を丁寧に扱うことで、支援者が「変わるべき」と押しつけずに、本人が自分の状態を考える材料を増やせます。

小さな変化の言葉を拾う

本人が全面的に問題を認めていなくても、「留年は少し面倒」「昼夜逆転は直せるなら直したい」「母親に言われるのは嫌だ」など、現状への小さな違和感を話すことがあります。こうした言葉は、本人自身が変化を考える入口になります。支援者がすぐに解決策を提示するより、本人の言葉を反映し、詳しく話してもらう方が初期段階には適しています。

初回面接で確認しておきたい範囲

関係形成を優先しつつ、睡眠、食事、大学への出席、対人関係、気分、自傷念慮、アルコールや薬物使用など、安全や機能低下に関わる項目は必要な範囲で確認します。詳しい診断面接を一度に終えることより、本人が次回も来られる関係を保ちながら、重要情報を少しずつ集めることが現実的です。

この段階では、本人と支援者が同じ方向を見るための準備が中心です。

まとめ

第5回午前問62の正答は①です。客観的な困難があっても本人の問題意識が乏しい場合、最初からゲーム制限、目標設定、価値観の修正、行動強化へ進むのではなく、本人の感情や体験に触れながら問題への気づきを徐々に促します。支援者が変化を押しつけず、本人の自律性を尊重して相談関係をつくることが初期対応の中心です。

参考資料

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