公認理師資格試験 過去問解説 問87 社会的アイデンティティ理論
- 2021.11.02
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- 社会及び集団に関する心理学, 第3回公認心理師試験
第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。
第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!
【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!
【問87】社会的アイデンティティ理論
問87 社会的排斥の原因を説明する理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① 衡平理論
② バランス理論
③ 社会的交換理論
④ 社会的インパクト理論
⑤ 社会的アイデンティティ理論
⑤ 社会的アイデンティティ理論
となります。
社会的アイデンティティ理論
社会的アイデンティティ理論 social identity theory とは、タジフェル Tajfel と ターナー Turnerによって提唱された集団葛藤の生起過程を説明するための理論です。
人は一般に明確な自己同一性(アイデンティティ)を確立し、他者との比較を通して望ましい自己評価を行うように動機づけられていると考えられる。ところが内集団(人種・性別・職業などの社会的なカテゴリーも含む)における自己の所属性が強く意識される場面では、内集団・外集団間の境界を明確にし、前者を後者よりも高く評価することによってこの動機を満たすことができる。
出典:心理学辞典|有斐閣
ここでいう内集団とは、自分が所属している集団のことを意味します。
つまり、社会的アイデンティティ理論では、自分の所属している集団への所属意識が強くなるほど、自分が所属している集団とそうでない集団との違いを明確にして、所属集団を高く評価することで望ましい自己評価を行うことがあると論じています。
さらに、
こうした集団間社会的比較過程が集団間の差別や内集団びいきを引き起こし、集団間の偏見・葛藤へ至ると説明される。
出典:心理学辞典|有斐閣
というように、社会的アイデンティティ理論で説明される内集団と外集団とを比較していくプロセスが、差別・偏見・葛藤に繋がっていくことも説明しています。
社会的排斥とは、「集団や個人からの仲間はずれ」を意味しているため、社会的アイデンティティ理論によって社会的排斥が説明されると考えて良さそうです。
よって、社会的アイデンティティ理論がこの問題の正答となります。
選択肢の解説
① 衡平理論
衡平理論 equity theory とは、アダムス Adams が提唱した理論で、人は他者と比較して自分の投入(努力)と成果(報酬)の比率が相手のそれと等しいときに公平であると考えるというものです。
詳細に関しては以下の記事をご参照ください。
② バランス理論
バランス理論 balance theory とは、ハイダー Heider が提唱した対人関係に関する理論で、p-o-x理論とも呼ばれています。
理論に関する説明を見てみましょう。
人間はバランス状態を好む傾向があり、もしインバランス(imbalance)が存在したならば、不快な緊張状態に陥り、インバランス解消とバランス追求の力が生じると仮定する。バランスとは、pとoとxの相互関係の符号(正、負)によって定義され、関係には心情関係(sentiment relation)と単位関係(unit relation)がある。
出典:心理学辞典|有斐閣
簡単に理解しようとすると、対人関係を「自己p」 「他者o」「事物x」という3つをそれぞれの関係性で捉えて、2つの間の関係を肯定的な正と否定的な負で表現し、符号を掛け算したときに、正となっていればバランス状態、負となっていればインバランス状態と定義したということです。
3つの関係性のインバランスは、どれか1つの関係の符号が変化することで解消されるとしています。
③ 社会的交換理論
社会的交換理論 social exchange theory とは、人同士の相互作用、やりとりを意味する社会的交換に関する理論の総称です。
社会的交換には以下のものが含まれます。
- 日常会話
- 人との交渉・取引き
- 報酬の分配
- 対人魅力
考え方は難しいですが、社会的交換理論では、「人は基本的に利己的であり対人的な相互作用とは物(財)の交換である」という立場を取っています。
代表的な理論としては、
- 衡平理論
- 社会的浸透理論
- 返報生の規範
などが挙げられます。
④ 社会的インパクト理論
社会的インパクト理論 social impact theory とは、ラタネ Latane による理論で、他者の存在が個人の行動に与える影響を定式化しようとするものです。
簡単に説明すると、ある状況下で人が他者から受ける影響の大きさ(=社会的インパクトsocial impact)は、「人の数(number)」「その他者の影響の強さ(strength)」「近接性(immediacy):空間的・時間的な近さ」で決まると論じている理論になります。
と定式化されています。
対人緊張・援助行動・社会的手抜きなどさまざまな社会心理学の知見から導き出された理論となっています。
個人が遂行する行動に関する他者の影響を説明する理論であるため、社会的排斥の説明にはならず、選択肢④は不適切といえますね。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問87は、社会的アイデンティティ理論に関する問題でした❗️
キーワードは以下の通りです。
キーワード社会的アイデンティティ理論:内集団の所属意識が高いとき、外集団と比較することで、肯定的な自己評価を得る
衡平理論:分配的公正
バランス理論:対人関係を「自己p」「他者o」「事物x」の三者関係で示す
社会的交換理論:対人相互作用を財の交換として捉える
社会的インパクト理論:個人の行動に他者が与える影響
-
前の記事
公認理師資格試験 過去問解説 問86 サーカディアンリズム 2021.11.01
-
次の記事
公認理師資格試験 過去問解説 問1 公認心理師法(登録・登録取り消し) 2021.11.03
コメントを書く