公認心理師資格試験 過去問解説 問83 知覚および認知「聴覚」

公認心理師資格試験 過去問解説 問83 知覚および認知「聴覚」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

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【問83】聴覚

問83 ヒトの聴覚について、正しいものを1つ選べ。。

① 蝸牛にある聴覚受容器は、双極細胞と呼ばれる。

② 音源定位には、両耳間時間差と両耳間強度差が用いられる。

③ ピッチ知覚の場所説は、高周波音の知覚の説明が困難である。

④ 聴覚感度は、可聴域内で周波数が高くなるほど単調に減少する。

⑤ 主観的な音の大きさであるラウドネスの単位は、デシベルである。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ②

 

② 音源定位には、両耳間時間差と両耳間強度差が用いられる

 

となります。

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音源定位

心理学の用語で「定位 localization」という言葉は、比較的出現頻度が高い用語なので意味を確認しておきましょう。

 

定位 = 対象の位置・方向・姿勢など

 

音源定位とは、音が聞こえてきたときにどの方向から聞こえてきているのかを特定する力のことを意味しています。

 

何か物体を認識するときや、注意を向けるときに、とても重要な能力になってきますね。

 

音源定位は、音源の位置によって個人の左右の耳に届く聴覚情報の差によって判断され、以下の2つが主な手がかりとされています。

  • 両耳間時間差 Interaural time difference:ITD = 音が耳に到達するまでの左右の耳の時間差
  • 両耳間強度差 Interaural level difference:ILD = 頭で遮蔽されて生じる左右の耳での音の大きさの差

 

低周波の音では「両耳間時間差」を判断に利用することが多く、高周波の音では「両耳間強度差」を利用することが多いとされています。

 

詳しい説明は、以下の論文を読んでみるとわかりやすいですよ💁🏻‍♀️

 



 

選択肢の解説

① 蝸牛にある聴覚受容器は、双極細胞と呼ばれる。

蝸牛 cochlea は、内耳にある聴覚を知覚するために必要な感覚器官のひとつです。

 

蝸牛の内部はリンパ液で満たされており、リンパ液の振動を蝸牛のなかにある有毛細胞が電気信号に変換して、神経系に伝えていくことによって人は聴覚を知覚することができます。

 

ちなみに、双極細胞 bipolar cell視覚に関連する細胞です。

 

よって、選択肢①「蝸牛にある聴覚受容器は、双極細胞と呼ばれる」は、「聴覚受容器=有毛細胞」が正しいため、問題の解答としては不適切になります。

 

③ ピッチ知覚の場所説は、高周波音の知覚の説明が困難である。

ピッチ pitch とは音の高さを意味しており、ピッチ知覚とは簡単に言えば、「音の高さの知覚」です。

 

ピッチという用語は一般に多くの意味に使われていますが、音響学(特に聴覚)の分野ではピッチとは「音の高さ」のことです。「音の高さ」というと単純そうに聞こえますが、実際には多くの問題を含んでおり、「高い–低い」だけの単純なものではありません。

出典:大串健吾(2017). 音のピッチ知覚について-ミッシングファンダメンタル音のピッチを巡って-, 日本音響学会誌, 73(12), 758-764.

 

このピッチ知覚、つまり音の高さの知覚を説明する理論として代表的なものが以下の2つの聴覚理論です。

  • 時間説:音の周期性などの時間情報をもとにしてピッチを知覚する
  • 場所説:内耳の場所によって共鳴する周波数が異なり、その差によってピッチを知覚する

 

もともとは「場所説」が有力な説明理論だったようですが、後に「時間説」が有力となり、現在では両者ともを含めた理論で説明することが多いようです。

 

詳細は難しいので割愛としますが、場所説では「基本波のない音の高さの知覚」の説明が困難であることから、時間説が有力になったという経緯があるようです。

 

よって、選択肢③「ピッチ知覚の場所説は、高周波音の知覚の説明が困難である」は、正しくは「基本波のない音の高さの知覚の説明が困難」となるため、解答としては不適切になります。

 

④ 聴覚感度は、可聴域内で周波数が高くなるほど単調に減少する。

人間が聞き取れる範囲、つまり音と感じることができる範囲のことを可聴領域 Hearing range といいます。この可聴領域を超えている音は超音波と呼ばれています。

 

個人差はあるようですが、一般的な可聴領域は20ヘルツから20000ヘルツの間とされています。

*多くの場合は上限が15000ヘルツのようです。

 

因みに、ヘルツ Hz とは「周波数・振動数の単位」です。

○ Hz = 1秒間に○回の周波数・振動数

 

すなわち、周波数が高いとは、単純にこのHzが高い場合を意味します。

 

さて、今回の選択肢では、「周波数」と聴こえ方の関係性について理解する必要がありますね。

 

そのためにおさえておきたい概念として、等ラウドネス曲線 Equal loudness contour という等しい音の大きさと感じる音圧と周波数を示したグラフがあります。


等ラウドネス曲線

出典:Suzuki, Y., &. Takeshima, H. (2004). Equal-loudness-level contours for pure tones.The Journal of the Acoustical Society of America, 116(2), 918-933.

等ラウドネス曲線では、縦軸に音圧(dB:デシベル)、横軸に周波数(Hz:ヘルツ)、グラフ内に音の大きさ(phon:フォン)が示されています。

 

1000Hzの周波数の音の聞こえ方を基準として、基準と等しく聞こえた音圧・周波数の部分がプロットされて結ばれることでグラフとなっています。

 

曲線の位置が下にあるほど、聞き取りやすいということになります。

 

例えば、1000Hzの周波数で100phonの聞こえ方をするためには音圧が100dBで良いですが、可聴領域の下限である20Hzの周波数を同じように100phon聞くためには、音圧が130dB必要になりますね。

 

今回の選択肢は、このグラフが「右上がりになる=周波数が高くなるほど高い音圧が必要になる(聞き取りづらい)」ことを想定する質問になります。

 

等ラウドネス曲線を見てみると、そもそも低周波数は人間にとって聞き取りづらく、1000Hzの辺りまでは徐々に聞き取りやすくなっています。この時点で、選択肢は不適切とわかります。

 

また、聞き取りやすい(=感度が高い)周波数は3000Hzから4000Hzのあたりがピークで、5000Hz以降は徐々に聞き取りづらくなっていることがわかりますね。

 

以上のことから、選択肢④「聴覚感度は、可聴域内で周波数が高くなるほど単調に減少する」は不適切な解答であるとわかります。

 

⑤ 主観的な音の大きさであるラウドネスの単位は、デシベルである。

主観的な音の大きさについての単位は、選択肢④の解説でもあがったphon(フォン)になります。

 

dB(デシベル)は音圧の単位になりますね。

 

ちなみに、主観的な音の大きさをラウドネスといいますね。

 

よって、選択肢⑤「主観的な音の大きさであるラウドネスの単位は、デシベルである」は不適切な解答といえます。

 



 

まとめ

第3回公認心理師資格試験の問83は、知覚および認知「聴覚」に関する問題でした❗️

 

キーワードは以下の通りです。

 

キーワード音源定位:両耳間時間差、両耳間強度差
ピッチ知覚
可聴域
等ラウドネス曲線

 

範囲としては、神経心理・生理心理的な部分になりますが、人の知覚について理解しておくことで、臨床の幅も広くなるため、確認しておき知覚および認知「聴覚」ましょう。