公認心理師資格試験 過去問解説 問17 心理状態の観察及び結果の分析「適切な記録等」

公認心理師資格試験 過去問解説 問17 心理状態の観察及び結果の分析「適切な記録等」

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

公認心理師試験の勉強方法はこちら💁‍♀️

【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!

 

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【問17】心理状態の観察及び結果の分析「適切な記録、報告、振り返り等」

問17 公認心理師が心理相談での記録や報告を行う際に留意することとして、最も適切なものを1つ選べ。

① 病院からの紹介状への返事は、クライエントには見せない。

② 守秘義務があるため、面接内容は自身の上司には報告しない。

③ 録音は、クライエントを刺激しないために気づかれないように行う。

④ 心理検査の報告は、検査を依頼した職種にかかわらず専門用語を使って書く。

⑤ インテーク面接の記録には、観察事項に基づいた面接時の印象も併せて記録する。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ⑤

 

⑤ インテーク面接の記録には、観察事項に基づいた面接時の印象も併せて記録する。

となります。

 

インテーク面接について

インテーク面接とは、「クライエントに対して初めに行われ、クライエントがどのような問題を抱えているかを把握して、それに対してどのような援助が最適であるかを判断するために行う面接」のことをいいます。

 

インテーク面接の解説はこちらにもあります💁🏻

 

インテーク面接時の聴取事項に関しては以下の点が挙げられます。

インテーク面接者の行う仕事としては、第1にクライエントから受けるイメージ(臨床像)がどうであるか、またそのクライエントに会って、面接者がもつ感情や体感などの非言語的コミュニケーションによって生じる資料を得る。

(中略)

第2に視覚的な仕事として、クライエントの服装や表情や動作などの資料を得る

(中略)

第3に聴取により資料を得ることである。

出典:インテーク面接|心理臨床大事典|培風館

このようにインテーク面接では、非言語的なコミュニケーションや服装・表情・動作などの観察可能な所見をもとにアセスメントを行うことが非常に重要視されています。

 

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残りの選択肢も見ていきましょう!

診療記録の開示について

① 病院からの紹介状への返事は、クライエントには見せない。

この選択肢を検討するために、診療情報の提供等に関する指針|第1回 医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会|厚生労働省を見ていきましょう。

 

「診療記録」とは、診療録、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約その他の診療の過程で患者の身体状況、病状、治療等について作成、記録又は保存された書類、画像等の記録をいう。

出典:診療情報の提供等に関する指針|第1回 医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会|厚生労働省

まず紹介状の位置づけについてですが、診療記録に含まれます。

 

そのため、「診療記録」の扱い方に沿った対応を行うことが適切でしょう。

7 診療記録の開示

(1) 診療記録の開示に関する原則

⚪︎医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならない。

⚪︎診療記録の開示の際、患者等が補足的な説明を求めたときは、医療従事者等は、できる限り速やかにこれに応じなければならない。この場合にあっては、担当の医師等が説明を行うことが望ましい。

出典:診療情報の提供等に関する指針|第1回 医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会|厚生労働省

「病院からの紹介状への返事」が厳密に診療記録に含まれるかは不明瞭ではありますが、基本的には診療記録と同等の扱いをして差し支えはないでしょう。

 

つまり、「病院からの紹介状への返事」でもクライエントから開示することを求められた場合は、原則として開示する必要があると考えられます。

 

とはいっても、例外状況もあるため、こちらもおさえておきましょう。

8 診療情報の提供を拒み得る場合

⚪︎医療従事者等は、診療情報の提供が次に掲げる事由に該当する場合は、診療情報の提供の全部又は一部を提供しないことができる。

(1) 診療情報の提供が、第三者の利益を害するおそれがあるとき

(2) 診療情報の提供が、患者本人の心身の状況を著しく損なうおそれがあるとき

<(1)に該当することが想定され得る事例>

患者の状況等について、家族や患者の関係者が医療従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、患者と家族や患者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合

<(2)に該当することが想定され得る事例>

症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合

※個々の事例への適用については個別具体的に慎重に判断することが必要である

出典:診療情報の提供等に関する指針|第1回 医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会|厚生労働省

 

診療情報を開示することによって「第三者の利益を害するおそれ」や「クライエント本人の心身の状況を著しく損なうおそれ」がある場合は、開示を部分的にあるいは全面的に制限することができます。

 

ただし、この場合においても、なんの説明もなく開示の要求を拒否するのではなく、理由を述べるなど丁寧な対応が必要でしょう。

 

以上から、選択肢①「病院からの紹介状への返事は、クライエントには見せない」は、原則的には要求があれば見せるため、不適当となります。

 

守秘義務について

② 守秘義務があるため、面接内容は自身の上司には報告しない。

 

守秘義務には報告が許容される例外状況がいくつかあります。

  • 「自傷他害」の可能性が明らかであり、命の危険性がある場合
  • 虐待の疑い
  • 専門家同士の話し合い
  • 法律上で認められている
  • クライエント本人による意思表示がある

 

このような「守秘義務の例外状況」に該当した場合は、面接内容を上司に報告することも起こり得ます。

 

守秘義務に関する詳細はこちらの記事をどうぞ💁🏻

 

またスクールカウンセラーなど多職種間での連携が必須とされる職域に関しては、守秘義務は以下のように集団守秘義務として理解されることもあります。

文部科学省『生徒指導提要』(2010)では、 教育相談やスクールカウンセリングでの守秘義務は、病院やクリニックなどの治療機関における守秘義務とは 異なる部分があり、守秘義務を盾に教育的関わりの内容や児童生徒についての情報が閉じられてしまうと、学校としての働きかけに矛盾や混乱が生じてしまい、結果的 に児童生徒やその保護者を混乱に巻き込むことになり かねないため、「学校における守秘義務は、情報を『校外に洩らさない』という意味にとらえるべき」(105 頁) としている。
出典:神内聡(2021). 「チームとしての学校」の理念が抱える法的問題の検討 -養護教諭の法的責任とスクールカウンセラーの守秘義務に関して-, 兵庫教育大学研究紀要, 58, 47-55.

 

もちろん「守秘義務の例外状況」「集団守秘義務」に該当したとしても、クライエントの同意なくむやみやたらに上司に報告することは避けられるべきです(*法的に必要とされる場合は除きます)。

 

「守秘義務」によって面接経過を上司に一切報告しないというわけではないため、選択肢②「守秘義務があるため、面接内容は自身の上司には報告しない」は不適当となります。

 

③ 録音は、クライエントを刺激しないために気づかれないように行う。

こちらは特に根拠を提示しなくとも、一般常識的に考えれば回答可能な問題かもしれません。

 

あえて根拠を示すために、一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領の記載を紹介します。

3 テープ等の記録
面接や心理査定場面等をテープやビデオ等に記録する場合は、対象者の了解を得た上で行うこと。

出典:第2条 秘密保持|一般社団法人日本臨床心理士会倫理綱領

 

このように録音・録画などはクライエントの了解を得て行うことがスタンダードであると倫理面からも決められています。

 

したがって、この選択肢は不適当となります。

 

心理検査の報告について

④ 心理検査の報告は、検査を依頼した職種にかかわらず専門用語を使って書く。

こちらも深く考えなくとも直感的に回答可能な選択肢となっています。

 

平易なことばは、複雑な専門用語より常に望ましい(Kamphaus, 1993)。

出典:エッセンシャルズ 心理アセスメントレポートの書き方|日本文化科学社

 

上に引用したように、基本的に心理検査の結果報告では専門用語ではなく、他職種や検査を受けたクライエント本人も理解できるようなわかりやすい文章で記載する必要があります。

 

そのため、選択肢④「心理検査の報告は、検査を依頼した職種にかかわらず専門用語を使って書く」は不適当となります。

 

これ以外にも、心理検査の結果報告には伝統的なお作法的なものが存在しますので、検査所見を書くまえに一度確認しておく必要があるでしょう。

 

心理検査の所見に関してオススメの書籍です📚

 

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まとめ

第3回公認心理師資格試験の問17は、心理状態の観察及び結果の分析から「適切な記録・報告等」に関する問題でした。

 

少し考えれば回答可能な問題ではありますが、こういった適切な記録・報告の方法などを根拠をもって説明できるようになっておくと良いでしょう。

 

  • インテーク面接では観察所見も含めたアセスメントを行う。
  • 診療情報はクライエントからの求めがあれば原則開示するが、例外として開示しない場合もある。
  • 守秘義務には例外状況がいくつかある。
  • 検査結果は専門職でなくともわかるような文言で記載する。