公認心理師資格試験 過去問解説 問15 ケース・アドボカシー(権利擁護)
- 2021.03.28
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問15】ケース・アドボカシー(権利擁護)
問15 ケース・アドボカシーの説明として、正しいものを1つ選べ。
① 患者が、医療側の説明を理解し、同意し、選択すること
② 医療側が、患者に対して行おうとしている治療について十分な説明を行うこと
③ 障害のある子どもと障害のない子どもを分けずに、特別な教育的ニーズを持つ子どもを支援すること
④ ある個人や家族がサービスの利用に際して不利益を被らないように、法的に保障された権利を代弁・擁護すること
⑤ 障害者が社会の中で差別を受けることなく、権利の平等性を基盤にして、一般社会の中に正当に受け入れられていくこと
④ ある個人や家族がサービスの利用に際して不利益を被らないように、法的に保障された権利を代弁・擁護すること
となります。
アドボカシー(advocacy)
アドボカシーとは、「擁護・代弁」などの意味をもつ英単語で、「当事者の声を聴いて当事者の権利を守る」ことをさします。
日本においてカタカナ表記で用いられるときには、大きく以下の2つがあります。
- システム・アドボカシー ⇨ 特定の問題に対して政治的な提言を行うこと
- ケース・アドボカシー ⇨ 自ら自分の権利を充分に行使できない当事者の声を聴き、権利の代弁や擁護をすること
説明の一例として、1946年に設立したイギリスの知的障害児者の親・当事者・支援者の組織であるMENCAP(メンキャップ)のパンフレットを引用してみた内容を見てみましょう。
(メンキャップ)
Advocacy アドボカシー
▷Advocacy is when someone supports you to speak up and say what you want. アドボカシーとは、だれかがあなたが発言することやあなたが自分のほしいものを自分でいうことを支援することをいいます
▷ We can help you to speak up about the things that are important to you. わたしたちは、あなたにとって大切なことを、あなたが自分で発言することを助けることができます
▷ We can help you to know about your rights. わたしたちはあなたが自分の権利について知ることを助けることができます
▷ We can speak up for you if you find it hard to say what you think and feel わたしたちはあなたが感じていることや考えていることを、自分でいうことがむずかしいときに、あなたのかわりに発言することができます
“About the support and advice we can give you” より引用出典:武居光(2020). 知的障害者のアドボカシーとは何か?〜イギリス・メンキャップの取り組みから学ぶ. 総合文化研究所年報, 28, 65-80.
福祉の領域を中心に発展してきたものですが、対象となる個人は非常に多岐に渡る考え方といえます。
以上のように、選択肢④「ある個人や家族がサービスの利用に際して不利益を被らないように、法的に保障された権利を代弁・擁護すること」はケース・アドボカシーの説明として適当といえますね。
他の選択肢を見ていきましょう
インフォームド・コンセント(informed consent)
① 患者が、医療側の説明を理解し、同意し、選択すること
② 医療側が、患者に対して行おうとしている治療について十分な説明を行うこと
上の2つの選択肢は、いずれもインフォームド・コンセントに関する説明になります。
インフォームド・コンセントとは一般には「説明と同意」と訳されるが、正しくは「説明を受ける側が納得できるような説明を行ったうえで得られた同意」という意味である。
出典:心理臨床大事典|培風館
つまり、インフォームド・コンセントは「説明をする側と説明を受ける側が十分な情報を伝えた(情報を得た)うえで同意すること」を意味しています。
主に医療領域で使われてきた概念であるため、「医師」と「患者」関係で説明されることが多いです。
a. 医療行為を受ける者(または意志代行者としての家族)が、みずからが受ける医療行為について知る権利(接近権 rights of access)の尊重、b. 情報を得たうえでの、その医療行為の開始の可否を決める権利(自己決定権 rights of self-determination)の保証、c. 医療プロフェッショナル側の伝える義務(還元義務 obligations of discloser)の履行、の3者からなっている。「知る、決める、伝える」のいずれか一つが不十分であっても、インフォームド・コンセントは成立しない。
出典:心理臨床大事典|培風館
インフォームド・コンセントといわれると、「説明する側」に重きが置かれがちですが、「説明を受ける側」にも重きが置かれるべき概念です。以下を押さえておきましょう。
- 接近権(説明を受ける側):みずからが受ける医療・支援行為について知る権利
- 自己決定権(説明を受ける側):情報を得たうえで医療・支援行為を受けるかどうか決める権利
- 還元義務(説明する側):医療者・支援者側が情報を伝える義務
このように見ると、選択肢「① 患者が、医療側の説明を理解し、同意し、選択すること」は自己決定権を指し、「② 医療側が、患者に対して行おうとしている治療について十分な説明を行うこと」は還元義務を指しますね。
どちらの選択肢もインフォームド・コンセントの説明に合致していますので、今回の回答としては不適になります。
ノーマライゼーション(normalization)、共生社会
⑤ 障害者が社会の中で差別を受けることなく、権利の平等性を基盤にして、一般社会の中に正当に受け入れられていくこと
上の選択肢⑤は、ノーマライゼーションや共生社会に関する説明になります。
障害のある者も障害のない者も同じように社会の一員として社会活動に参加し、自立して生活することのできる社会を目指すという理念
「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。
なかなか違いがわかりにくい概念ではありますが、
- ノーマライゼーション=「障害のある人もない人も同じように、教育を受け、生活をし、就労や活動をする社会が普通の社会である」
- 共生社会=「障害のある人もない人も、お互いの個性を認めて尊重し、身近な地域のなかでそれぞれの役割と責任を持って生活できる」
という違いがあります。
また、近しい考え方としてインクルージョンという概念もあります。
インクルージョンは、障害の有無という枠組みのみでなく、他の何らかの理由によって社会活動から離れることになっている人たち全般を含む概念になっています。
インクルーシブ教育システム(inclusive education system)
障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。
インクルーシブ教育について、ざっくりと説明すると、「障害のある・ないで子どもをわけることなく、ひとりひとりの子どもの能力や困りごとを考慮して、すべての子どもに同じような教育を」というものです。
日本においても、障害のある子どもひとりひとりの教育的ニーズに沿った教育である「特別支援教育」が平成19年(2007年)から本格的に開始されました。
「特別な教育的なニーズ」とは、障害のある・なしに関わらず、明確な理由のわからない学習の遅れなど、学習に困難のあるすべての子どもが対象となると考えられています。
以上のことから、選択肢③「 障害のある子どもと障害のない子どもを分けずに、特別な教育的ニーズを持つ子どもを支援すること」は、インクルーシブ教育の説明と考えられるため、回答としては不適当です。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問15は、ケース・アドボカシーを問う問題でしたが、それ以外にも多様な概念に関する知識が問われる問題でした。
以下のキーワードはおさえておきましょう。
キーワード
・アドボカシー
・インフォームド・コンセント
・ノーマライゼーション、共生社会、インクルージョン
・インクルーシブ教育
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