公認心理師資格試験 過去問解説 問7 心理学統計①「統計的仮説検定(t検定、相関係数)」

公認心理師資格試験 過去問解説 問7 心理学統計①「統計的仮説検定(t検定、相関係数)」

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【問7】心理学統計①「t検定、相関係数」

問7 統計的仮説検定の説明として、正しいものを1つ選べ。

① t検定では、自由度が大きいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。

② 2つの条件の平均に有意な差が認められない場合、それらの平均には差がないといえる。

③ K. Pearsonの相関係数が0.1%水準で有意であった場合、2つの変数間に強い相関があるといえる。

④ 対応のない2群のt検定では、各群の標準偏差が大きいほど、有意な差があるという結果が生じやすい。

⑤ K. Pearsonの相関係数の有意性検定では、サンプルサイズが小さいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

問7は「統計的仮説検定」についての問題になります。基礎心理学の領域のひとつである心理統計学(統計学)の知識が必要となりますね。  

正答は 

 

① t検定では、自由度が大きいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。

  となります。  

 

そもそも統計的仮説検定(testing statistical hypothesis)とは?

実際に我々が手にするデータである標本をもとにして検定統計量を計算し、母集団に関する各種の仮説に関する適否の判断を行うもので、ピアソンによって定式化された。

出典:心理学辞典|有斐閣

 

 
標本❓ 母集団❓ 
 

 

母集団(population)は、“興味の対象となったり、統計的推測の及ぶ範囲となる集合全体”を意味しており、標本(sample)“母集団から母集団の特性についての知識を得るために何らかの方法で選びを出された要素や部分集合”をさします。  

 

わかりやすいように図で示してみました! 母集団と標本の関係  

この図のように、調査対象である母集団全体から選ばれた標本から得られたデータをもとにして検定統計量を計算することで、母集団の特性に関する「仮説」の適・不適を判断すること統計的仮説検定と呼びます。

 

統計的仮説検定

調査対象となる集団(母集団)のもつ特徴に対して、何らかの「仮説」を立てて、通常は母集団から選ばれた標本のデータを収集し、算出された検定統計量と実際のデータを見比べながら「仮説」を検証していくこと

 

この辺りの詳細は別記事でまとめようと思いますので、

統計的仮説検定 = 「標本分布という確率分布」「得られたデータの統計量」を比べることで仮説を検証する

と簡単に覚えていただければOKです。

 

統計的仮説検定の「仮説」とは

仮説には以下の2つの種類があります。

  • H 0 検定仮説 = 帰無仮説
  • H 1 対立仮説

 

検定仮説は、検定を行う前に立てる仮説で、この仮説をもとに検定が行われていきます。

 

多くの場合「研究者が否定したい仮説」が割り当てられるため、“仮説を無に帰する”という意味から帰無仮説(null hypothesis)とも呼ばれています。

 

たとえば、介入の有効性を検討したい場合、検定仮説では「〇〇の介入は効果がない」と記されることになります。

 

反対に、対立仮説では検定仮説(帰無仮説)と正反対の「研究者が証明したい仮説」が割り当てられます。

 

つまり、検定では、検定仮説(帰無仮説)を棄却(正しくないと判断)して対立仮説を採択(正しいと判断)することが研究者の得たい結果に繋がることが多いといえます。

 

統計的検定では、この検定仮説(帰無仮説)が成り立つものとして標本分布(確率分布)を算出し、実際に得られたデータの統計量がその分布に従っているかどうかについて判断します。

 

そして、「実際に得られたデータの統計量」が「標本分布」上の「確率が極めて低い数値」を取る場合、その結果は検定仮説(帰無仮説)が正しいもとでは極めて起こりにくい、と判断されます。= 検定仮説(帰無仮説)が棄却される

 

この「確率が極めて低い」の基準を有意水準(α)といい、心理学では伝統的に5%水準あるいは1%水準が使われることが多いです。

 

では、選択肢の解説に戻りましょう。

① t検定では、自由度が大きいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。

 

t検定とは、「t分布という確率分布」と「得られたデータの統計量(t値)」を比較する統計的仮説検定と考えてください。

 

自由度(degree of freedom:df)は、「自由に値を決められる数値」で通常サンプル数(n)ー1で表されます。

 

t分布は自由度によってグラフが異なってきます。

 

それでは5%水準(両側検定)のt分布表を見てみましょう。

 

t分布表とは、それぞれの有意水準におけるt値の基準を示しており、表に記載された数値よりもt値が大きい場合は、分布上の「極めて低い確率」で生じるとみなされ、検定仮説が棄却されることになります。

 

自由度(df) t値
1 12.706
2 4.3072
3 3.1825
4 2.7764
5 2.5706
6 2.4469
7 2.3646
8 2.3060
9 2.2622

 

この表を見ると、自由度が大きくなるとともにt値は低くなっていきます。

 

そのため、選択肢①「t検定では、自由度が大きいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。」は正しいといえます。

 

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残りの選択肢を見てみましょう

t検定に関する選択肢について

② 2つの条件の平均に有意な差が認められない場合、それらの平均には差がないといえる。

2つの平均値の差があるか否かを検定する場合の問題です。

 

ここで「仮説」に関して再確認しましょう。

 

  • H 0 検定仮説 = 帰無仮説
  • H 1 対立仮説

 

2つの条件の平均の差を検定する場合、検定仮説(帰無仮説)は通常では「2つの条件の平均には差がない(等しくない)」となります。

 

検定の結果、検定仮説(帰無仮説)が棄却されると「2つの条件の平均には差がないとはいえない」=「差がある」となります。この状態が「有意差」が認められると表現されます。

 

イラストでいうと、標本分布の中の緑の丸で囲んだ部分に検定統計量が位置する場合になります。

 

この選択肢では、「有意な差が認められない」つまり、検定仮説(帰無仮説)が棄却されなかった場合を問うています。

 

イラストでいえば、標本分布の中の緑の丸で囲んだ箇所以外の部分のどこかに検定統計量の数値が位置する場合をさします。つまり非常に幅広い確率をとることになります。

 

標本分布はあくまで確率の分布であるため、「有意な差が認められない」は検定仮説(帰無仮説)の言葉をそのまま採択するというわけではなく、「検定仮説が成り立つ可能性が高い」=「平均には差がない可能性が高いという曖昧な解釈が妥当になります。

 

そのため、選択肢②「2つの条件の平均に有意な差が認められない場合、それらの平均には差がないといえる。」は、「平均には差がない可能性が高いといえる」とが正しく、回答としては不適切となります。

 

④ 対応のない2群のt検定では、各群の標準偏差が大きいほど、有意な差があるという結果が生じやすい。

続いて、同じくt検定に関連する選択肢である④について解説します。

 

この選択肢を理解するためには、

  • 検定力(power)
  • 効果量(effect size)

の知識があるといいです。

 

検定力(power)とは、有意差を正しく検出できる確率のことをいい、効果量(effect size)は差の大きさをデータの単位に左右されないように標準化したものです。

 

「検定力が高い=有意な差が出やすい」というわけではないですが、検定力が高いほど有意差を正しく検出できる可能性が高いため、有意な差があるという結果が生じやすいといえます。

 

検定力と効果量との関係性として、

  • 効果量が増加すると検定力が高くなる
  • サンプル数が増加すると検定力が高くなる

があります。

 

t検定の効果量(d)は、

で計算されます。

 

標準偏差が計算式の分母にあるため、標準偏差が大きいほど効果量は小さくなることがわかります。

 

つまり、「標準偏差が大きいと、効果量が小さくなり、検定力も小さくなる」という関係性があります。そのため、標準偏差が大きいと検定力が小さくなり有意な差を正しく検出できる可能性が低くなるといえます。

 

また、t値が大きいほど「有意」となる確率が高くなります

 

t値の計算式を見ると、

と表されます。

 

ここでは不偏分散の細かい説明は割愛しますが、標準偏差は分散の2乗であるため、t値が大きくなるためには、

  • 標本平均の差が大きい
  • 分散(標準偏差)が小さい
  • サンプル数が大きい

ことが必要になります。

 

こちらでも標準偏差が大きいほどt値が低くなるため、「有意な差」があるという結果になりにくいことがわかります。

 

以上のことから、選択肢④「対応のない2群のt検定では、各群の標準偏差が大きいほど、有意な差があるという結果が生じやすい。」は不適切で、「標準偏差が小さい」方が有意な差があるという結果が生じやすいことがわかります。

 

Pearsonの相関係数に関連する選択肢について

 

相関係数は2つの変数間の関係性を示す指標で、−1から+1までの値を取ります。

 

③ K. Pearsonの相関係数が0.1%水準で有意であった場合、2つの変数間に強い相関があるといえる。

 

相関係数はそれ自体が効果量(r)で表現されるため、相関係数(r)の大きさ自体が関係性の強さを示します。

 

相関係数にも有意性の検定がありますが、こちらは検定仮説(帰無仮説)を「相関係数が0である」とするため、「無相関の検定」ともいわれます。

 

つまり、相関係数が有意であった場合にいえることは、「相関係数が0ではない」ということのみです。

 

そのため、選択肢③「K. Pearsonの相関係数が0.1%水準で有意であった場合、2つの変数間に強い相関があるといえる。」は不適当となります。

 

⑤ K. Pearsonの相関係数の有意性検定では、サンプルサイズが小さいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。

 

先ほど説明した相関係数の有意性検定、つまり無相関の検定に関する選択肢です。

 

「無相関の検定」は、正規分布による検定t分布による検定(t検定)が用いられます。

 

そのため、これまで説明してきたルールを理解していれば回答が可能でしょう。

 

自由度(サンプルサイズ−1)が大きくなると、上側確率に基づく棄却の限界値が小さくなり有意となりやすい

 

自由度はサンプルサイズが大きくなるほど大きくなるため、棄却の限界値が小さくなります。

 

以上のことから、選択肢⑤「K. Pearsonの相関係数の有意性検定では、サンプルサイズが小さいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。」は不適当で、「サンプルサイズが大きいほど、帰無仮説の上側確率に基づく棄却の限界値は小さい。」が正しくなります。

 

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まとめ

第3回公認心理師資格試験の問7は「心理学統計①「統計的仮説検定(t検定、相関係数)」に関する知識が問われる問題でした。   統計の問題は難しいですが、しっかりと理解しておくのがいいでしょう。

 

  • 統計的仮説検定
  • t検定
  • 相関関係