公認心理師資格試験 過去問解説 問69 事例問題:摂食障害への対応
- 2021.07.15
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- 摂食障害, 第3回公認心理師試験
第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。
第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!
公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!
【問69】事例問題:摂食障害への対応
問69 16 歳の女子 A、高校1生。A は、食欲不振、るい痩のため1週間前から入院中である。高校に入学し、陸上部に入部した後から食事摂取量を減らすようになった。さらに、毎朝6時から走り込みを始めたところ、4か月前から月経がなくなり、1か月前から倦怠感を強く自覚するようになった。入院後も食事摂取量は少なく、「太ると良い記録が出せない」と食事を摂ることへの不安を訴える。中学校までは適応上の問題は特になく、学業成績も良好であった。自己誘発嘔吐や下剤の乱用はない。身長は 159 cm、体重は 30 kg、BMI は 11.9 である。
公認心理師の A への支援として、不適切なものを1つ選べ。① 食事へのこだわりを外在化する。
② A の家族に治療への参加を促す。
③ 部活動への葛藤について傾聴する。
④ 栄養士の助力を得て食事日記を付けることを勧める。
⑤ 点滴を受けて、栄養状態を速やかに改善するように勧める。
⑤ 点滴を受けて、栄養状態を速やかに改善するように勧める
となります。
本問題の事例に関してまとめてみましょう✔️
16歳 高校1年生 女子 身長159cm 体重30kg BMI=11.9
中学校時代は、学業成績も良好で、適応上の問題はこれまでみられなかった。
高校入学後、陸上部に入部したことをきっかけに食事摂取量を減らすようになり、徐々に体重が減少した。加えて、毎朝6時からの走り込みを始めたところ、4ヵ月経過後に月経が来なくなり、1ヵ月前に倦怠感を訴えるようになった。
食欲不振とるいそうのため1週間前より入院。入院後も食事摂取量は少ないままで、「太ると良い記録が出せない」と食事摂取への不安を訴えている。自己誘発嘔吐や下剤の乱用はない。
まず最も注目すべきなのは、BMI=11.9であり、るいそうが認められるなど低体重状態にあるにも関わらず、「太ると良い記録が出せない」と食事摂取への不安を訴えて食事摂取量が増えていかない、という記載になります。
こちらは、「肥満恐怖」と呼ばれる摂食障害のなかでも神経性やせ症と神経性過食症に代表的な症状となります。
低体重状態であること、肥満恐怖があること、自己誘発嘔吐や下剤乱用がなく運動のみで体重を減らしていたことを総合すると、
Aの現在の状態としてDSM-5でいうところの『神経性やせ症 摂食制限型 AN-R』が該当すると考えられます。
【摂食障害】摂食障害とはどんな病気?:摂食障害の種類や症状を理解しましょう。
選択肢の解説
解説に移る前に以下の事項を押さえておきましょう。
今回の問題の選択肢は、入院治療によって栄養状態への治療が行われている前提で、並行して公認心理師ができる対応方法を考えるものと捉える観点が必要ですね。
摂食障害(AN、BN、 BED)に対してエビデンスの示されている心理療法
① 食事へのこだわりを外在化する
“問題の外在化”(externalization of the problem)とは、①本人や関係者にとって耐えがたい問題を対象化または人格化し、②本人および関係者から切り離して、その外側に位置させ、③みんなで一意団結して対応することを勇気づける、治療的アプローチである(ホワイト & エプストン,1992)
出典:中原・相川(2006). ”問題の外在化”を用いたいじめ防止プログラムの試み : 小学校低学年における授業を通して, 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 57, 71-81.
外在化とは、ナラティブセラピー・ブリーフセラピー・家族療法などで使用されるテクニックのひとつで、「問題を対象化・人格化して本人や家族から切り離す」というものです。
公認心理師資格試験 過去問解説 問44 「ナラティブ・アプローチ」
摂食障害を個人の性格や努力の問題とせずに外在化して、本人・関係者全員が協力してその症状を治療するという文脈にもっていくことは、摂食障害の心理療法や家族への理解を得るために非常に重要な過程と考えられています。
摂食障害にエビデンスが示されている心理療法である神経性やせ症に対する家族療法(Family Based Treatment:FBT)でも、治療の中核的な立ち位置を占めるアプローチといえますね。
よって、選択肢①「食事へのこだわりを外在化する」は摂食障害への対応として適切と考えられるため、問題の解答としては不適切となります。
② A の家族に治療への参加を促す
選択肢①の解説の際も触れましたが、摂食障害、特に神経性やせ症に対する強いエビデンスが示された心理療法のひとつに、神経性やせ症に対する家族療法(Family Based Treatment:FBT)があります。
FBTは、神経性やせ症を抱えるクライエントの家族が積極的に構造化された関わりをすることが、摂食障害の症状に対して効果的であるという大前提にのっとりマニュアル化された心理療法となります。
そのため、選択肢②「A の家族に治療への参加を促す」は、摂食障害に対する対応として適切と考えられますね。
③ 部活動への葛藤について傾聴する
Aの事例に関して確認してみると、陸上部に在籍してストイックに練習を積んでいたことが症状の発症のきっかけであることや、現在でも“「太ると良い記録が出せない」”と話すなど、部活動に対して重く価値を置いていることが読み取れます。
そのため、栄養状態を回復させるなどの治療は、Aにとって部活動での成績不振に繋がる方法をとることになり、本人にとっては自分の価値と反する苦痛で恐怖を感じる状況となります。
摂食障害への対応として、本人の動機づけを保つことは非常に重要な要素であり、本人が価値を置いている事象について扱うことも治療の大切な構成要素とされています。
以上のことから、「部活動への葛藤について傾聴する」は誤った対応ではないと考えられます。
④ 栄養士の助力を得て食事日記を付けることを勧める
詳細な食事日記を付けることは、摂食障害に対する認知行動療法でよく用いられる方法のひとつです。
摂食障害に対してエビデンスの示されている摂食障害に対する認知行動療法(CBT-E)でも、食事記録を付けることが推奨されています。
また、その際に、栄養士の協力を得て、対象者に必要な適切なカロリーや栄養バランスを考えながら食事記録を付けることは、摂食障害当事者の食事へのこだわりを修正するためにも重要と考えられていますね。
よって、選択肢④「栄養士の助力を得て食事日記を付けることを勧める」は摂食障害に対する適切な対応と考えられます。
⑤ 点滴を受けて、栄養状態を速やかに改善するように勧める
Aは現状、BMI=11.9と重度の低栄養状態であるため、点滴などの対応が必要に感じるかもしれませんが、低栄養状態に対して急激な栄養補給を行うとリフィーディング症候群 refeeding syndromeが引き起こされるリスクがあります。
リフィーディング症候群 refeeding syndrome とは
このリフィーディング症候群は、経口・経管のいずれでも生じる可能性があるため、慎重な計画を立てたうえで栄養補給が必要とされます。
以上のことから、「点滴を受けて、栄養状態を速やかに改善するように勧める」は、栄養状態を速やかに改善するようにの部分が不適切と言えます。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問69は、事例問題:摂食障害への対応に関する問題でした❗️
摂食障害のなかでも神経性やせ症 AN-Rに対する基本的な知識と、エビデンスの示されている心理療法に関する基本的な知識が必要な問題といえます。
摂食障害の心理療法
- 神経性やせ症に対する家族療法(Family Based Treatment:FBT)
- 摂食障害に対する認知行動療法(CBT-E)
摂食障害(AN、BN、 BED)に対してエビデンスの示されている心理療法
また、リフィーディング症候群に関しても確認しておきましょう。
-
前の記事
公認心理師資格試験 過去問解説 問68 事例問題:身体的疾患の疑い 2021.07.14
-
次の記事
公認心理師資格試験 過去問解説 問70 事例問題:高血圧症と認知症 2021.07.23
コメントを書く