公認心理師資格試験 過去問解説 問67 事例問題:保護監察官による処遇

公認心理師資格試験 過去問解説 問67 事例問題:保護監察官による処遇

第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

 

 

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【問67】事例問題:保護観察官が行う処遇

問67 21 歳の男性 A。A は実母 B と二人暮らしであった。ひきこもりがちの無職生活を送っていたが、インターネットで知り合った人物から覚醒剤を購入し、使用したことが発覚して有罪判決となった。初犯であり、B が A を支える旨を陳述したことから保護観察付執行猶予となった。
保護観察官が A に対して行う処遇の在り方として、最も適切なものを1つ選べ。

① 自助の責任を踏まえつつ、A への補導援護を行う。

② B に面接を行うことにより、A の行状の把握に努める。

③ A が一般遵守事項や特別遵守事項を遵守するよう、B に指導監督を依頼する。

④ 改善更生の在り方に問題があっても、A に対する特別遵守事項を変更することはできない。

⑤ 就労・覚醒剤に関する特別遵守事項が遵守されない場合、A への補導援護を行うことはできない。

出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

 

正答は ①

 

① 自助の責任を踏まえつつ、A への補導援護を行う

となります。

 

保護観察

保護観察について簡単に確認していきましょう❗️

保護観察の目的と方法

保護観察は、我が国における社会内処遇の根幹をなす制度であり、遵守事項を守るよう対象者を指導監督し、また、その者に本来自助の責任があることを前提に補導援護することによって、その改善更生を図ることを目的とする。それはまた、本人の社会復帰を助け、再犯を防止することによって、社会の安全を守るということでもある。

出典:平成16年版 犯罪白書 第5編 第5章 第1節

 

保護観察は、犯罪を犯した人・非行少年が社会の中で改善更生するように、「保護観察官」「保護司」による指導・支援を行うもので、いわゆる社会内処遇と呼ばれています。

 

保護観察の対象者には、以下の4種類があります。

  • 保護観察処分少年
  • 少年院仮退院者
  • 仮釈放者
  • 保護観察付執行猶予者

 

保護観察では、主に指導(指導監督)」「支援(補導援護)が行われます。

 

法務省:保護観察所のホームページによると指導・支援は以下の内容が含まれていることがわかります。

 

【指導(指導監督)】

  • 行状の把握:対象者と面接を行い生活状況等を把握する
  • 指示・措置遵守事項を守って生活するように必要な指示や措置をする
  • 専門的処遇:特定の犯罪傾向を改善するために専門的な処遇を行う

 

【支援(補導支援)】

  • 住居・宿泊場所
  • 医療・療養
  • 職業補導・就職援助
  • 教養訓練の援助
  • 生活環境の改善・調整
  • 生活指導



保護観察官

保護観察官は、一定の地域を包括的に担当しており、担当地域内に居住する者が保護観察となった場合、まず、面接調査、指導等の導入手続を行い、問題点を明らかにして処遇計画を立てる。次いで、その者に適した保護司を選んで担当を依頼し、依頼を受けた保護司は、その後定期的に本人と面接しながら、処遇計画に沿って指導・援助を行っていく。特に配慮を要する事案については保護観察官が直接に担当するなど、保護観察官が積極的に関与することもある。このように我が国の保護観察は、保護観察官の専門性と保護司の地域性・民間性を車の両輪のように組み合わせることによって、一方だけでは実現できない処遇効果を生むように工夫されている。
そのほか、更生保護施設に入所する保護観察対象者については、更生保護施設を担当する保護観察官が導入手続を行った後、保護司を兼ねる更生保護施設職員が、保護観察官と連携しながら指導・援助を行うこととなる。

出典:平成16年版 犯罪白書 第5編 第5章 第1節

 

保護観察官は心理学・教育学・社会学の専門的知識を持つ国家公務員です。

 

以下に主な仕事を載せておきます。

 

保護観察官

  • 保護観察の実施計画の策定
  • 対象者の遵守事項違反、再犯その他危機場面での措置
  • 担当保護司に対する助言や方針の協議
  • 専門的処遇プログラムの実施  等 

 

また、保護観察に関しては更生保護法に準拠していますので、確認しておくといいでしょう。



選択肢の解説

① 自助の責任を踏まえつつ、A への補導援護を行う

こちらの選択肢を検討するために、更生保護法第58条の「補導援護の方法」の部分に注目してみましょう。

第五十八条

保護観察における補導援護は、保護観察対象者が自立した生活を営むことができるようにするため、その自助の責任を踏まえつつ、次に掲げる方法によって行うものとする。
一 適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること。
二 医療及び療養を受けることを助けること。
三 職業を補導し、及び就職を助けること。
四 教養訓練の手段を得ることを助けること。
五 生活環境を改善し、及び調整すること。
六 社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うこと。
七 前各号に掲げるもののほか、保護観察対象者が健全な社会生活を営むために必要な助言その他の措置をとること。

出典:更生保護法|e-Gov法令検索

 

“保護観察における補導援護は、(中略)、その自助の責任を踏まえつつ、次に掲げる方法によって行うものとする”とあります。

 

この第58条の記載と、選択肢①「自助の責任を踏まえつつ、Aへの補導援護を行う」は矛盾しませんね。

 

保護観察官の行う処遇として、「指導(指導監督)」「支援(補導援護)」があるのは既に確認した通りです。

 

そのため、選択肢①は適切な記述といえますね。

 

② B に面接を行うことにより、A の行状の把握に努める

こちらの選択肢は、「指導(指導監督)」における行状の把握に関する記述で、更生保護法第57条に規定があります。

 

第五十七条
保護観察における指導監督は、次に掲げる方法によって行うものとする。
一 面接その他の適当な方法により保護観察対象者と接触を保ち、その行状を把握すること。

出典:更生保護法|e-Gov法令検索

とあります。

 

母親であるBとの面接は、その他の適当な方法に含まれるかもしれませんが、“保護観察対象者と接触を保ち、その行状を把握すること”とあります。

 

つまり、母親Bとの面接のみでは不適切であり、Aとの直接の面接によってAの行状把握をするべきでしょう。

 

よって、選択肢②「Bに面接を行うことにより、Aの行状の把握に努める」は正しい記述とはいえず、解答として不適切になります。

 

③ A が一般遵守事項や特別遵守事項を遵守するよう、B に指導監督を依頼する

遵守事項 = 守らなければならない決まり事

 

遵守事項には以下の2種類があります。

  • 一般遵守事項保護観察対象者全員に課せられる遵守事項
  • 特別遵守事項事件の内容・経緯を踏まえて個別に課せられる遵守事項

 

さて、本問題ではこの遵守事項の指導監督を母親であるBに依頼することが適切であるか否かという話になりますね。

 

これまで確認してきたように、「指導監督」は保護観察官が行う処遇であり、更生保護法第57条の2には以下のように記載されています。

第五十七条
二 保護観察対象者が一般遵守事項及び特別遵守事項(以下「遵守事項」という。)を遵守し、並びに生活行動指針に即して生活し、及び行動するよう、必要な指示その他の措置をとること。

出典:更生保護法|e-Gov法令検索

 

このように、法律上でも「指導監督」は保護観察官の行う処遇とされており、母親であるBにサポートを依頼することはあるかもしれませんが、指導監督そのものを依頼することは不適切といえます。

 

そのため、選択肢③「A が一般遵守事項や特別遵守事項を遵守するよう、B に指導監督を依頼する」は不適当といえます。

 

④ 改善更生の在り方に問題があっても、A に対する特別遵守事項を変更することはできない

特別遵守事項の設定と変更に関しては、更生保護法第52条に規定されています。

 

例外もありますが、基本的には、保護観察所の長の申し出によって変更することが可能です。

 

そのため、選択肢④「改善更生の在り方に問題があっても、A に対する特別遵守事項を変更することはできない」は、更生保護法第52条の規定から変更が可能な場合もあるため、不適切な記述といえますね。

 

⑤ 就労・覚醒剤に関する特別遵守事項が遵守されない場合、A への補導援護を行うことはできない

遵守事項を守らないと
保護観察官から面接調査などが行われ、違反に対する措置が検討されます。場合によっては、保護観察官が身柄を拘束し、刑務所や少年院に収容するための手続をとることがあります。
出典: 法務省:保護観察所

遵守事項を遵守できないと、違反に対する措置が検討され、場合によっては刑務所や少年院に収容されることもあります。

 

このように遵守事項に対する違反への措置が最優先となるでしょうが、「補導援護」は医療を受けることへの支援や就労に向けた支援も含まれるため、「補導援護」が行うことができないというわけではないでしょう。

 

最後に特別遵守事項に関する規定がされている更生保護法第51条を確認しておきましょう。

第五十一条
保護観察対象者は、一般遵守事項のほか、遵守すべき特別の事項(以下「特別遵守事項」という。)が定められたときは、これを遵守しなければならない。
2 特別遵守事項は、次条に定める場合を除き、第五十二条の定めるところにより、これに違反した場合に第七十二条第一項、刑法第二十六条の二、第二十七条の五及び第二十九条第一項並びに少年法第二十六条の四第一項に規定する処分がされることがあることを踏まえ、次に掲げる事項について、保護観察対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内において、具体的に定めるものとする。
一 犯罪性のある者との交際、いかがわしい場所への出入り、遊興による浪費、過度の飲酒その他の犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしてはならないこと。
二 労働に従事すること、通学することその他の再び犯罪をすることがなく又は非行のない健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行し、又は継続すること。
三 七日未満の旅行、離職、身分関係の異動その他の指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について、緊急の場合を除き、あらかじめ、保護観察官又は保護司に申告すること。
四 医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること。
五 法務大臣が指定する施設、保護観察対象者を監護すべき者の居宅その他の改善更生のために適当と認められる特定の場所であって、宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること。
六 善良な社会の一員としての意識の涵かん養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと。
七 その他指導監督を行うため特に必要な事項

出典:更生保護法|e-Gov法令検索

 

以上より、選択肢⑤「就労・覚醒剤に関する特別遵守事項が遵守されない場合、A への補導援護を行うことはできない」は不適切な記述と考えられます。



まとめ

第3回公認心理師資格試験の問67は、事例問題:保護観察官による処遇に関する問題でした❗️

 

以下のキーワードを押さえておきましょう。

 

保護観察に関する法律 = 更生保護法

 

保護観察の対象者

  • 保護観察処分少年
  • 少年院仮退院者
  • 仮釈放者
  • 保護観察付執行猶予者

 

保護観察官の処遇

【指導(指導監督)】

  • 行状の把握:対象者と面接を行い生活状況等を把握する
  • 指示・措置遵守事項を守って生活するように必要な指示や措置をする
  • 専門的処遇:特定の犯罪傾向を改善するために専門的な処遇を行う

【支援(補導支援)】

  • 住居・宿泊場所
  • 医療・療養
  • 職業補導・就職援助
  • 教養訓練の援助
  • 生活環境の改善・調整
  • 生活指導

遵守事項 = 守らなければならない決まり事

  • 一般遵守事項保護観察対象者全員に課せられる遵守事項
  • 特別遵守事項事件の内容・経緯を踏まえて個別に課せられる遵守事項