公認心理師資格試験 過去問解説 問54 心的外傷後ストレス障害
- 2021.06.23
- 資格試験
- PTSD, トラウマ, 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問54】心的外傷後ストレス障害
問54 トラウマや心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉に関連するものとして、適切なものを2つ選べ。
① PTSDの生涯有病率は、男性の方が高い。
② PTSD関連症状に、薬物療法は無効である。
③ 心的外傷的出来事による身体的影響は少ない。
④ 治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである。
⑤ 複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す。
④治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである
⑤複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す
となります。
心的外傷後ストレス障害
PTSDは、生命や身体に脅威を感じるようなトラウマ(心的外傷)体験により発症する精神疾患で、DSM-5では「心的外傷およびストレス因関連障害群」に含まれています。
PTSDの元となるトラウマ的な出来事としては、災害・戦争・交通事故・犯罪・虐待などが代表的です。
DSM-5の診断基準を簡単に確認してみましょう❗️
- A 心的外傷的体験 実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受けるような出来事 :直接体験する、目撃する、近親者や親しい友人の話を聞く、職業上これらの出来事の詳細に繰り返し触れる
- B 再体験・侵入症状 繰り返し記憶を想起する、悪夢、フラッシュバックなど
- C 回避症状 苦痛な記憶を想起させる人・場所・物を回避する
- D 認知/気分の陰性変化、麻痺 解離性健忘、自分・他者・世界に対する否定的な信念、ネガティブな感情、活動性の低下、孤立感、ポジティブな感情を感じられない
- E 過覚醒 イライラと怒り、過度の警戒心、集中困難、睡眠障害
特に、「再体験・侵入症状」「回避・麻痺症状」「過覚醒症状」の3つは中核症状と呼ばれます。
治療としては、環境の調整(安全確保・現実の問題解決の支援)、薬物療法、精神療法が行われます。
選択肢の解説
① PTSDの生涯有病率は、男性の方が高い
PTSDの疫学に関する選択肢となっています。
日本の疫学研究では、
PTSDの生涯有病率は約1.3%
(アメリカでは約8%)
とされています。
また、何らかのトラウマ体験を有する人の2〜8%がPTSDを発症するといわれています。
また男女の差に関してですが、
PTSDの頻度は、一般に男性より女性の方が高い傾向にあります。
と、男性 < 女性 の割合となっているようです。
以上のことから、選択肢①「PTSDの生涯有病率は、男性の方が高い」は、「女性の方が高い」が正しいことから不適切な記述といえます。
② PTSD関連症状に、薬物療法は無効である
PTSDに対する薬物療法の意義として以下のものが挙げられています。
PTSDに対する薬物療法においては、①中核症状の緩和・軽減、②抑うつ症状などの合併症の緩和・軽減、 ③生活の質(QOL)の改善、のほかに、④トラウマに焦点を当てた精神療法を行いやすくする、⑤再発予防、 といった効果が期待できます 。
PTSDの薬物療法の第一選択肢は、選択的セロトニン再取り込み薬(SSRI)とされています。
具体的には、セルトラリンやパロキセチンが第一選択となるようです。
SSRIはPTSDの中核症状にも一定の効果を示しますが、併存する症状にも効果が示されています。
PTSDの併存症状として代表的なものは以下のものがあります。
- 抑うつ症状 認知や気分の陰性変化
- 不安
- 睡眠障害 過覚醒症状による入眠困難・中途覚醒や侵入症状による悪夢など
- 精神病症状 侵入症状や解離症状による幻覚・妄想など
睡眠障害に対して睡眠薬が投与されることや、精神病症状に対して抗精神病薬が用いられることもあります。
以上のことから、選択肢②「 PTSD関連症状に、薬物療法は無効である」は、適切な記述とはいえません。
③ 心的外傷的出来事による身体的影響は少ない
そもそも心的外傷的出来事によって身体的な外傷を負っている場合も少なくないと考えられます。
また、
外傷的出来事の体験者およびPTSD 患者では、高血圧、呼吸困難、消化性潰瘍、筋骨格系疾患などの広汎な身体疾患の発生率が増加し(Davidson ら、1991;Boscarino、1997)、医療機関の利用が増大することが多くの研究で報告されている(Amaya-Jackson ら、1999)。
とあるように、心的外傷的出来事の体験者には身体疾患や自律神経症状・不定愁訴・慢性疼痛などの身体症状が伴うことが多いことが示されています。
公認心理師資格試験 過去問解説 問18 健康・医療に関する心理学「心身症」
近年では身体とトラウマの関連性を示す研究報告がいくつかなされているように、トラウマと身体は切り離せない関係となっています。
よって、選択肢③「 心的外傷的出来事による身体的影響は少ない」は、適切な記述とはいえず、問題の回答として不適切となります。
④ 治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである
心的外傷的出来事を体験した方は、日常生活の困難や問題を抱えていることが多く、治療開始の最優先は本人の「安全確保」になります。
現実的な問題や現在の安全が確保されていない状況では薬物療法や精神療法の効果は限定的でうまくいかない場合が多いでしょう。
差し迫る現実の問題に対して具体的な解決に繋がるように支援していくことが必要となります。
必要に応じて関係機関との調整も重要になりますね。
よって選択肢④「 治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである」は、適切な記述といえます。
⑤ 複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す
複雑性PTSD(complex post traumatic stress disorder:CPTSD)は、従来より指摘されていた概念ではありますが、国際疾患分類第11改訂版(ICD-11)で初めて診断基準として正式に採用されました。
概要は以下の通りです。
複雑性心的外傷後ストレス障害(複雑性PTSD)は、イベントの性質として、持続性の、逃げるのが困難なストレス経験(例:虐待、拷問)の後に、上記のPTSDの中核症状に加えて、以下の特徴的症状を伴う状態像を指す 。
認知面の変化として、持続的な空虚感、無力感や無価値観、パーソナリティの変化として、人間関係上の困難(不信感、孤立、ひきこもり、パラノイアなど)、感情制御上の困難(怒りや暴力の爆発、危険行為や自傷行為など)といった症状を備えた場合に、複雑性PTSDと診断することが提案されている。
出典:鈴木友里子(2013). ICD 分類の改訂に向けて ― ストレス関連障害の動向―, 精神経誌, 115(1), 69-75.
従来のPTSDとの最も明確な差異は、「持続的で回避することが難しい心的外傷的出来事に繰り返しさらされること」です。
PTSDの中核症状に追加して、慢性的な抑うつ症状、感情制御の困難、対人関係上の困難など、従来は境界性人格障害と診断されていたような状態像を示します。
トラウマに対する心理療法であるEMDRの文脈では、通常のPTSDのようなトラウマ体験を単回性、複雑性PTSDのようなトラウマ体験を複雑性、といって区別していますね。
以上のことから、複雑性PTSDでは単回性のトラウマと異なり、何度も繰り返し複数のトラウマ体験にさらされること、中核症状の他に慢性的な抑うつ症状、感情制御の困難、対人関係上の困難など、広い範囲の症状を呈す状態であることがわかります。
そのため、選択肢⑤「複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す」は正しい記述といえます。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問54は、心的外傷後ストレス障害に関する問題でした❗️
PTSDの診断基準を簡単にまとめると以下の通りです。
- A 心的外傷的体験 実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受けるような出来事 :直接体験する、目撃する、近親者や親しい友人の話を聞く、職業上これらの出来事の詳細に繰り返し触れる
- B 再体験・侵入症状 繰り返し記憶を想起する、悪夢、フラッシュバックなど
- C 回避症状 苦痛な記憶を想起させる人・場所・物を回避する
- D 認知/気分の陰性変化、麻痺 解離性健忘、自分・他者・世界に対する否定的な信念、ネガティブな感情、活動性の低下、孤立感、ポジティブな感情を感じられない
- E 過覚醒 イライラと怒り、過度の警戒心、集中困難、睡眠障害
また関連症状は以下のようになっています。
- 抑うつ症状 認知や気分の陰性変化
- 不安
- 睡眠障害 過覚醒症状による入眠困難・中途覚醒や侵入症状による悪夢など
- 精神病症状 侵入症状や解離症状による幻覚・妄想など
治療の大前提としては、環境調整(安全確保・現実の問題を解決するための支援)が最も重要で、環境が整った上で薬物療法や精神療法が行われます。
近年では、トラウマと身体の関連性が示されているため、その点も知識として得ておくことが重要でしょう❗️
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