公認心理師資格試験 過去問解説 問44 「ナラティブ・アプローチ」
- 2021.06.01
- 資格試験
- 心理療法, 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問44】ナラティブ・アプローチ
問44 ナラティブ・アプローチに基づく質問として、最も適切なものを1つ選べ。
① その出来事が起こったとき、どのような考えが頭をよぎりましたか。
② 今話されていたことですが、それを今ここで感じることはできますか。
③ その罪悪感は、どのようにお母さんとの関係を邪魔しているのですか。
④ 寝ている間に問題が全て解決したとしたら、どのように目覚めると思いますか。
③ その罪悪感は、どのようにお母さんとの関係を邪魔しているのですか
となります。
ナラティブ・アプローチ
ナラティブ narrative は、出来事と出来事の間を繋いで筋道を立てることで体験を意味づける過程のことを意味します❗️
ざっくりと理解すると、出来事について何らかの意味ある形でつなぎ合わせたものともいえます。
以下の記述を見てみましょう。
ナラティヴは過去を振り返っての「自分物語」とでもいえよう。自分で振り返るのだから脚色もあるだろうし事実とは微妙にずれているかもしれない。しかし、ナラティヴの理論的支柱である社会構成主義の立場からすれば、社会的真実などというものは世の中には存在しないのであって、それぞれの物語で社会は構成されているということになる。つまりは、こころの臨床において、当人が物事をどのように経験したかということのほうが、どのような物事があったかより重要という立場がナラティヴの基本的な立場といえる 。
つまり、ナラティブアプローチとは、たとえ客観的な事実と違っていたとしても、クライエント自身の物語で社会的が構成されているという立場から、主観的に体験している物語≒意味づけを捉えていく技法といえるでしょう。
物語といっても、人生上の全ての出来事を網羅するわけではなく、クライエント自身のナラティブ[筋道や意味づけ]に沿った出来事が時系列に沿って選択的に語られることがほとんどです。
そのため、ナラティブに沿っていない出来事は背景に追いやられてしまうことが多く、こうして作られた物語が過去のみでなく、現在や未来に対する枠組みとなり継続的に影響を与えてしまいます。
自己物語によってその人の人生が生きにくくなっているときには、 今まで支配的だった自己物語とは何かしら異なる形で自己を語れるように援助することが、ナラティヴ・セラピーにおけるセラピストの仕事だとされる。
出典:早川正祐(2009). ナラティヴ・セラピーとケア : 当事者の物語の重視とは何か, 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部哲学研究室応用倫理・哲学論集, 4, 83-97.
ナラティブ・アプローチの際に重要な姿勢として、無知の姿勢が挙げられます。
無知の姿勢の定義はさまざまですが、簡潔に説明すると、『専門的知識や経験も挟まず、相手の世界観のことも何もわからない』といった態度で話に耳を傾けて、『クライエントの物語を理解しようとする』ことをさします。
分析や解釈、正解や一般論ではなく、ナラティブを通して相手の物語を共有するように努めることが重要といえるでしょう。
選択肢の解説
この問題の選択肢はいずれも何らかの技法に基づく質問方法となりますね。
① その出来事が起こったとき、どのような考えが頭をよぎりましたか。
この質問は、認知行動療法・認知療法などにおいて自動思考を同定する際に行う質問と考えられます。
自動思考とは、『何か出来事が起きた際に自動的・無意識的に生じてくる考え』のことをさしています。
認知行動療法・認知療法の広い文脈では、出来事が気分を害させるのではなく、出来事に関する認知[≒思考]が気分を左右するという考え方であるため、最初の段階として自動思考を意識化していくことが目標とされます。
よって、選択肢①「その出来事が起こったとき、どのような考えが頭をよぎりましたか」は、出来事から自然に生じてくる思考を問うているため、ナラティブ・アプローチに基づく質問とはいえず、問題の回答としては不適切となります。
② 今話されていたことですが、それを今ここで感じることはできますか。
この質問では、『今、ここでの体験』に焦点が当てられているため、『気づき』や『体験過程』を扱うゲシュタルト心理療法などの人間性心理学に属する理論・心理療法に基づく質問と考えられます。
物語を重視するというよりも、語られた内容を今ここで体験する過程に焦点が当たっている質問ですね。
よって、選択肢②「今話されていたことですが、それを今ここで感じることはできますか」は問題の回答としては不適切となります。
③ その罪悪感は、どのようにお母さんとの関係を邪魔しているのですか。
この質問は、「罪悪感」と「お母さん」というキーワードをどのような筋道で意味づけをしていくかを問うている質問と考えられるため、ナラティブ・アプローチに基づく質問といえるでしょう。
ナラティブ・アプローチにおける質問は以下のように整理されることがあるようです(中川, 2010)。
リニア:いつ、どこで、誰が、何を、など原因-結果の直接的な関係性を探索するための質問
サーキュラー:円環的因果律を広く探索するような質問
ストラテジック:原因-結果の直接的な関係を誘導するための質問
リフレクティブ:新しい物語へのきっかけを作る質問
円環的因果律とはお互いが原因でも結果でもあり循環しているという関係性を示す用語です。
よって、選択肢③「その罪悪感は、どのようにお母さんとの関係を邪魔しているのですか」は、円環的因果律を広く探索的に問うているサーキュラークエスチョンと考えられるため、問題の回答として適切といえます。
④ 寝ている間に問題が全て解決したとしたら、どのように目覚めると思いますか。
この質問は、ソリューション・フォーカスト・アプローチ[解決志向アプローチ]のミラクルクエスチョンの導入時に行う質問と考えられます。
ミラクル・クエスチョンは奇跡によって問題が解決した時を想像してもらい、解決前との違いや解決時の状況を詳細に尋ね、そこに近づくためにClができること、目標を明らかにしていく質問である。
出典:伊藤拓(2017). ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピーの質問の用い方のポイント-熟練したセラピストへの面接調査による質的検討-, 教育心理学研究, 65, 37-51.
クライエントが抱えている問題は、現在や過去に焦点が当たっていることが多いため、ミラクルクエスチョンで未来に焦点を当ててもらうことで、望む未来に向かうための目標を明確化していくというねらいがあります。
よって、選択肢④「寝ている間に問題が全て解決したとしたら、どのように目覚めると思いますか」は、物語でなく望む未来に関して問うているため、問題の回答としては不適切となります。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問44は、ナラティヴ・アプローチに関する問題でした❗️
ナラティブアプローチ
その他にも、認知行動療法や人間性心理学に基づく心理療法、解決志向アプローチなどさまざまな心理療法に関する基本的な質問の仕方が問われる問題です。
以下のキーワードは押さえておきましょう。
キーワード・自動思考
・人間性心理学
・リニアクエスチョン、サーキュラークエスチョン、ストラテジッククエスチョン、リフレクティングクエスチョン
・ミラクルクエスチョン
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