公認心理師資格試験 過去問解説 問36 乳児期の認知発達「馴化/脱馴化」
- 2021.05.09
- 資格試験
- 発達, 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問36】馴化・脱馴化法
問36 乳児期の認知発達に関する研究手法である馴化・脱馴化法について、不適切なものを1つ選べ。
① 乳児の弁別能力の発達を調べることができる。
② 吸てつ〈sucking〉反応の変化を指標とすることができる。
③ 刺激に対する注視時間の回復を指標とすることができる。
④ 乳児の再認記憶の有無を確かめるために使うことができる。
⑤ 実験手法の1つとして、乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる。
⑤ 実験手法の1つとして、乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる
となります。
馴化・脱馴化
生活体は、何らかの刺激が与えられると注意が喚起され、顔をそちらに向けるなどの反応を起こす。これらの刺激を、強化を伴わない状態で繰り返し呈示すると、刺激に対する反応は相対的に減少してゆく。
出典:心理学辞典|有斐閣
馴化(habituation)とは、「ある刺激が繰り返されることによってその刺激に対する反応(注意を向けるなど)がみられなくなること」、すなわち、慣れを意味する概念です。
「馴化が生じた後で馴化が生じた刺激と異なる刺激が与えられたときに新たな刺激に対して反応が再び生じるようになること」を脱馴化(dishabituation)と呼びます。
馴化と脱馴化は、一般的に、新しい刺激に対する反応、つまり定位反応(orienting response:OR)の文脈で扱われます。
定位反応は、パヴロフの見出した現象で、「新しい刺激が呈示されたときに、そちらの方向に注意を向けるような行動をとる」ことをさします。
発見当初は「何だろう反射(”What is it? reflex”)」と呼ばれた探索的な反射行動のひとつです。
定位反応は視覚・聴覚など複数の感覚で生じます。
乳児を対象とした発達研究
言語反応の測定や眼球運動の測定などが難しい乳児を対象とした発達初期の認知機能の研究のなかに、心理学者のFantz(ファンツ)によって発見された「乳児は目新しい刺激を好んで選ぶ傾向がある」ことを活用した実験方法があります。
以下がその代表的な実験方法になります。
- 選好注視法(preferential looking method)
- 系列的馴化−脱馴化法 (serial habituation dishabituation method )
これらの方法は、主に乳児の「知覚的弁別」「記憶」「カテゴリー化」などの研究で用いられてきました。
選好注視法
乳児の興味の方向や視覚的能力を明らかにするための方法です。
典型的な選好注視法は、「知覚的弁別」の研究で用いられ、
乳児の眼の前のパネルに2枚の刺激図形を並べて呈示し、乳児がどちらの図形を長く注視するかを実験者がパネルののぞき穴から観察し記録するという手続きが用いられる。
出典:心理学辞典|有斐閣
といった方法となります。
研究の種類によって方法は異なってきますが、「複数の刺激を対呈示して、乳児の注視時間の長さを測定する」ことは共通しています。
系列的馴化−脱馴化法
馴化−脱馴化法では、先ほど説明した馴化・脱馴化の理論を活用した実験方法です。
「標的とされる刺激をひとつずつ繰り返し呈示して、馴化が達成できたことを確認した後で、新しい刺激をひとつずつ呈示していきます。その新しい刺激に対して、脱馴化、すなわち注意が回復すれば刺激間の違いを弁別できていると考える」わけです。
馴化の基準としては、最初に呈示した刺激の注視時間を基準として注視時間が半分に減少したときや、刺激の提示時間と提示回数を決めておいて、注視時間の有意な減少があるかで判断されることが多いようです。
注視時間以外にも吸啜反応の変化や心拍数・心拍速度などが評価で用いられることがあります。
選択肢の解説
① 乳児の弁別能力の発達を調べることができる。
④ 乳児の再認記憶の有無を確かめるために使うことができる。
こちらの2つの選択肢は、馴化・脱馴化法による研究で対象とできる認知的な発達の領域に関してです。
「知覚的弁別」「記憶」「カテゴリー化」などが該当します。
再認(recognition)は記憶の領域に関するワードなので、弁別も再認も馴化・脱馴化で測定できる領域になりますね。
そのため、選択肢①と④はいずれも正しい記述といえ、問題の選択肢としては不適切となります。
② 吸てつ〈sucking〉反応の変化を指標とすることができる。
吸啜反応とは、「生後5〜6ヶ月くらいの乳児にみられる姿勢反射のひとつで、口の中に指をいれると規則的に吸いつく」というものです。
認知機能や運動の発達の指標として吸啜反応の変化が用いられることもあり、馴化・脱馴化法でも測度として使用されることがあります。
そのため選択肢②は正しい記述といえ、問題の選択肢としては不適切となります。
③ 刺激に対する注視時間の回復を指標とすることができる。
馴化・脱馴化法では、一度馴化を起こさせた後、脱馴化の程度を指標とする方法でした。
脱馴化というのは、馴化によって減少した新しい刺激に対して注意を向けるという定位反応が再度回復してくる現象をさしています。
すなわち、一度減少した注視時間が回復することが脱馴化の基準となります。
よって選択肢③正しい記述といえ、問題の選択肢としては不適切となります。
⑤ 実験手法の1つとして、乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる。
馴化・脱馴化法の基本的な手続きに関する選択肢ですね。
手続きとしては、
でした。
2つの刺激を同時に対呈示する手続きは、選好注視法の基本的な手続きです。
そのため選択肢⑤「実験手法の1つとして、乳児に対して2つの刺激を同時に対呈示することができる」は馴化・脱馴化法の手続きに関する記述としては不適切であり、問題の正答といえます。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問36は、乳児期の認知発達「馴化/脱馴化」に関する問題でした。
以下のキーワードをおさえておきましょう❗️
キーワード「馴化・脱馴化法」「選好注視法」「定位反応」
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