公認心理師資格試験 過去問解説 問34 支援者のメンタルヘルス「感情労働」
- 2021.05.05
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- メンタルヘルスケア, 第3回公認心理師試験, 若手心理職・大学院生
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問34】支援者のメンタルヘルス「感情労働」
問34 対人援助職のセルフケアと自己点検において重要な感情労働について、不適切なものを1つ選べ。
① 感情労働は第三の労働形態である。
② 感情労働は、A.Hochschildによって定義された概念である。
③ 感情労働とは、職業上、自己の感情をコントロールすることが要求される労働のことである。
④ 感情労働における深層演技とは、クライエントの感情を無意識的に自分の感情として感じることである。
⑤ 感情労働における表層演技は、自らの感情とは不一致でも他者に表出する感情を望ましいものにしようとすることである。
④ 感情労働における深層演技とは、クライエントの感情を無意識的に自分の感情として感じることである。
となります。
感情労働
感情労働(emotion labor)とは、1983年アメリカの社会学者であるA.Hochschild(ホックシールド)が『The Managed Heart ― Commercialization of Human Feeling』という著書によって提唱した概念です。
「感情労働」の定義を簡略化して示すと、「労働者が労働場面において、その職業や状況にふさわしい言動が求められ、常に自己の感情の管理を余儀なくされる労働形態」を指し、「肉体労働」「知的労働」に次ぐ「第三の労働」ともいわれる。
出典:山本・岡島(2019). 我が国における感情労働研究と課題 ―― CiNii 登録文献の分析をもとに ――, 鳴門教育大学研究紀要, 34, 237-251.
感情労働の定義は研究によってさまざまなようですが、「表情・声・などの観察可能な態度で、職務として適切な感情の表出を演出・管理する必要がある労働」という部分は共通しています。
さらに感情労働を他の労働と区別する要素として、①対面あるいは声による顧客との接触がある ②感情労働者は、他人の中に何らかの感情変化 ― 感謝の念や恐怖心等 ― を起こさせる ③そのような職種における雇用者は、研修や管理体制を通じて労働者の感情活動をある程度支配している という3点をあげている。
出典:山本・岡島(2019). 我が国における感情労働研究と課題 ―― CiNii 登録文献の分析をもとに ――, 鳴門教育大学研究紀要, 34, 237-251.
感情労働の特徴をざっくりまとめると、
①「対人関係」:対人的な関わりがある
②「感情変化」:他者に何らかの感情変化を起こさせる
③「感情の操作」:職業的な感情表現や管理方法がある程度決められている
となります。
感情労働に該当する職業は対人援助職含めたサービス業に従事する労働者になりますね❗️
感情労働には以下のサブ概念があります。
- 感情管理(emotion management):感情をコントロールすること
- 感情作業(emotion work):場面に合わせて感情の管理をすること
こちらの2つは、「結婚式など楽しい場面では楽しそうな表情をする」「葬儀場など悲しい場面では悲しい表情をする」など、日常生活で誰しもが行っていることを意味します。
- 感情規則(feeling rules):職業的に決められている適切な感情や感情の表現方法
- 表層演技(surface acting):言動・表情・態度など観察可能な部分での感情表現を意識的に変化させる
- 深層演技(deep acting):適切な感情を自分の内面に働きかけて自分の内面から感情表現をする
これらの概念は、感情労働において感情を管理する際に用いられるものになります。
感情労働に従事する人は適切なストレスケアを行わないと、自分の本当の感情がわからなくなったり、「バーンアウト」のような状態に陥ることが多いと言われています。
選択肢の解説
問34は先ほど説明した「感情労働」に関する基本的な用語が分かっていれば回答は可能な問題となっています。
感情労働の定義に関する問い
① 感情労働は第三の労働形態である。
「感情労働」は、「肉体労働」や「知的労働」と並んで、第三の労働形態といわれています。
対人援助職含めた「人と関わる仕事」の多くが、この感情労働に該当します。
そのため、選択肢①「感情労働は第三の労働形態である」は、正しい記述といえますので、この問題の回答としては不適となります。
② 感情労働は、A.Hochschildによって定義された概念である。
感情労働は、A.Hochschild(ホックシールド)の著書『The Managed Heart ― Commercialization of Human Feeling』で提唱された概念になります。
そのため、選択肢②「感情労働は、A.Hochschildによって定義された概念である」も正しい記述といえ、問題の回答としては不適となります。
③ 感情労働とは、職業上、自己の感情をコントロールすることが要求される労働のことである。
感情労働とは、以下のような特徴がありました。
①「対人関係」:対人的な関わりがある
②「感情変化」:他者に何らかの感情変化を起こさせる
③「感情の操作」:職業的な感情表現や管理方法がある程度決められている
感情労働は、職業的に規定されている「感情規則」に則り、自分の感情の管理を行う必要がある労働形態の総称を指しています。
そのため、選択肢③「感情労働とは、職業上、自己の感情をコントロールすることが要求される労働のことである」の記述は正しく、問題の回答としては不適となります。
表層演技と深層演技
④ 感情労働における深層演技とは、クライエントの感情を無意識的に自分の感情として感じることである。
⑤ 感情労働における表層演技は、自らの感情とは不一致でも他者に表出する感情を望ましいものにしようとすることである。
まずは「表層演技」と「深層演技」の確認をしましょう!
- 表層演技(surface acting):言動・表情・態度など観察可能な部分での感情表現を意識的に変化させる
- 深層演技(deep acting):適切な感情を自分の内面に働きかけて自分の内面から感情表現をする
ホックシールドはこの2つの概念について、俳優の演技を例示し説明している。表層演技とは、無数の筋肉を操作して外的な振舞いを作り上げるような、うわべ的な表情や身振りであり、深層演技とは、俳優自身の経験から感情を思い起こし、登場人物になりきることであるという。
出典:佐藤・今林(2012). 感情労働の本質に関する試論 ―A. R. Hochschildの所論を中心として―, 川崎医療福祉学会誌, 21, 276-283.
先に選択肢⑤「感情労働における表層演技は、自らの感情とは不一致でも他者に表出する感情を望ましいものにしようとすることである」についてです。
表層演技は、内面上の変化は問われず、自分の本当の感情と一致していなかったとしても感情規則、つまり職業上望ましいと考えられる感情に沿った感情を外見上で表現できていることを意味しています。
そのため、この選択肢⑤は正しい記述といえ、問題の回答としては不適となります。
続いて、選択肢④「感情労働における深層演技とは、クライエントの感情を無意識的に自分の感情として感じることである」ですが、深層演技は「クライエントの感情を無意識的」にではなく、「感情規則」に沿った感情を自分の内面に働きかけることで自分の感情として表現することを意味するため、この記述は不適切といえます。
問34は不適切なものを選ぶ問題であるため、こちらの選択肢④が正解となります。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問34は、支援者のメンタルヘルスから「感情労働」に関する問題でした。
この記事のまとめ「感情労働」 = 日常場面でも行われる「感情管理」と「感情作業」を職業上で求められるような労働
感情労働に従事する人は、職業的に慣習上で決められた「感情規則」に沿って感情を表現することを求められ、「表層演技」や「深層演技」などを用いて感情の管理を行なっていく
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