公認理師資格試験 過去問解説 問104 神経性やせ症の病態
- 2022.08.27
- 公認心理師(第3回) 資格試験
- 保健医療領域, 摂食障害, 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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問104 神経性やせ症/神経性無食欲症の病態や治療について、正しいものを1つ選べ。
① うつ病が合併することは少ない。
② 未治療時は、しばしば頻脈を呈する。
③ 無月経にならないことが特徴である。
④ 心理社会的要因に加え、遺伝的要因も発症に関与する。
⑤ 未治療時に、しばしばリフィーディング症候群を発症する。
出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
となります。
選択肢の解説
① うつ病が合併することは少ない
では、こちらの問題文を検討するために、以下の記載をみてみましょう。
精神疾患の合併症については、神経性やせ症のうつ病の合併率は25〜75%、強迫性障害は15〜79%と言われている。
出典:平出(2019). 摂食障害の治療, 女性心身医学, 24(2), 144-148.
神経性やせ症ではうつ病の合併率はおおよそ25〜75%と非常に高いことがわかりますね。
臨床の場面においても、うつ病・強迫性障害の合併率がかなり高いです。
そのため、「うつ病が合併することは少ない」という記述は不適切といえるため、問1は選択肢から除外されることとなります。
② 未治療時は、しばしば頻脈を呈する
頻脈とは正式には「頻脈性不整脈」といい、脈が速くなる状態を指します。
やせや栄養不足による症状として、無月経・便秘・低血圧・徐脈・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛密生・毛髪脱落・柑皮症・浮腫などがあります。
出典:摂食障害:神経性食欲不振症と神経性過食症|e-ヘルスネット
上の記述にあるように、やせや栄養不足による身体症状としては、「徐脈」が認められることが多いです。
ちなみに「徐脈」とは、脈が遅くなる不整脈を指しており、頻脈とは逆の症状を示しますね。
身体は栄養が足りなくなると、省エネモードになることをイメージしてもらうと覚えやすいかもしれません。少ないエネルギーで如何に活動することができるかという変化をするので、脈は遅くなります。
よって、問題文の記述は不適切といえます。
③ 無月経にならないことが特徴である
こちらも選択肢②と同様に、やせや栄養不足による身体症状を考えれば簡単に理解できます。
個人差はありますが、体重が低下して栄養状態が悪くなると、無月経となることは非常に多い問題です。
神経性やせ症に罹患している方々は、積極的に精神科に受診をしない方が多いのですが、臨床の現場的には、「無月経」を主訴に婦人科に受診し、そこから精神科にリファーされることも少なくはありません。
④ 心理社会的要因に加え、遺伝的要因も発症に関与する
神経性やせ症の原因に関する選択肢となっています。以下の記載をみてみましょう。
神経性やせ症は一つの原因で発症する病気ではありません。文化社会的要因、心理的要因、生物学的要因(遺伝素因、脳機能の変化)が複雑に相互に関連しあって発症する多次元モデルが想定されています。
出典:神経性やせ症|一般の皆様へ|日本内分泌学会
日本内分泌学会のホームページには、それぞれの要因を以下のようにまとめています。
- 文化社会的要因:女性の社会進出
- 心理的要因:性格(完璧主義、内向的、強迫的、良心的、自己中心的で未熟)、自立・自己葛藤、低い自尊心、身体像の障害、不適切な学習、認知の歪み、家族間の問題、偏った養育態度
- 生物学的要因:遺伝素因、視床下部-下垂体系の神経内分泌学的異常、これを調節する神経伝達物質やニューロペプチドの異常、脳の形態的および機能的変化
精神疾患ではどの疾患も共通していえることですが、心理的要因のみでなく、生物学的要因も大きく影響を与えており、摂食障害も例外ではないということになります。
さて、遺伝的要因に関してフォーカスを当ててみてみましょう。
いくつかの双生児研究の報告からANの遺伝率は58~88%、BNは28~88%と推定されている。ANの遺伝的要因の強さは内科疾患では1型糖尿病、精神神経疾患では統合失調症に匹敵する。
出典:安藤・小牧(2009). 摂食障害の遺伝子研究-候補遺伝子法から全ゲノム相関解析へ-, 日本心身医学会, 49, 47-56.
驚くべきことに、神経性やせ症の遺伝率は58~88%と非常に高いようです。
よって、選択肢④「心理社会的要因に加え、遺伝的要因も発症に関与する」は正しく、問題の正答となります。
⑤ 未治療時に、しばしばリフィーディング症候群を発症する
リフィーディング refeeding 症候群とは、簡単に説明すると、一度栄養失調となった人が再度栄養が入る際に、心筋の不具合や体内の電解質などの異常を引き起こし、場合によっては死亡するケースもみられる疾患です。
神経性やせ症の治療(主に、栄養療法)開始に伴って、再栄養によって生じる可能性が高いといえます。
神経性やせ症の方は未治療時には栄養状態が悪い状態ですので、未治療時ではなく治療開始時がリフィーディング症候群のハイリスクとなります。
よって、選択肢の記載は不適切といえます。
詳細に関しては、以下の論文が参考になります。
まとめ
第3回公認心理師資格試験 問104は「神経性やせ症の治療と病態」に関してでした。
- うつ病の合併率:25~75%
- 強迫性障害の合併率:15~79%
- 神経性やせ症の身体症状:無月経・徐脈・便秘・低血圧・脱水・末梢循環障害・低体温・産毛が生える・毛が抜ける・浮腫
- 文化社会的要因:女性の社会進出
- 心理的要因:性格(完璧主義、内向的、強迫的、良心的、自己中心的で未熟)、自立・自己葛藤、低い自尊心、身体像の障害、不適切な学習、認知の歪み、家族間の問題、偏った養育態度
- 生物学的要因:遺伝素因、視床下部-下垂体系の神経内分泌学的異常、これを調節する神経伝達物質やニューロペプチドの異常、脳の形態的および機能的変化
- リフィーディング症候群:再栄養時に心筋や電解質の異常をきたす疾患
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