第6回公認心理師試験・午前問45は、精神障害の労災認定において、心理的負荷による精神障害の認定基準の対象から除外されるものを見分ける問題です。正答は ⑤ アルコールや薬物による障害 です。
この問題のポイントは、「精神科で扱われる疾患かどうか」ではなく、精神障害の労災認定基準がどの疾病群を対象としているかを理解することです。
厚生労働省の認定基準では、ICD-10第V章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害を基本としつつ、
- F0:器質性精神障害
- F1:精神作用物質使用による精神及び行動の障害
は、心理的負荷による精神障害の認定基準の対象から除外されます。
したがって、アルコールや薬物による障害に該当する⑤が誤りです。
問題
精神障害の労災認定において、認定基準の対象となる精神障害について、誤っているものを選びます。
- 気分障害
- 適応障害
- 統合失調症
- 身体表現性障害
- アルコールや薬物による障害
正答は ⑤ アルコールや薬物による障害 です。
正答は⑤|アルコールや薬物による障害はF1として除外
精神障害の労災認定では、業務による強い心理的負荷によって精神障害を発病したかどうかを評価します。
認定基準では、対象疾病についてICD-10第V章「精神及び行動の障害」を基礎に整理しています。
その中で、
F0:器質性精神障害
F1:精神作用物質使用による精神及び行動の障害
は、心理的負荷による精神障害の認定基準から除外されます。
アルコール依存や薬物使用による精神・行動障害はF1に分類されるため、本問では⑤が誤りです。
「除外=労災にならない」ではない
ここは非常に重要です。
F0やF1が「心理的負荷による精神障害の認定基準」の対象外だからといって、
あらゆる状況で労災認定されない
という意味ではありません。
たとえば、
- 業務上の頭部外傷に伴う器質性精神障害
- 業務での化学物質曝露に伴う障害
などは、別の業務上疾病として認められるかどうかを個別に判断することがあります。
試験では、
この精神障害認定基準の対象外
と
労災として絶対に認められない
を区別します。
認定基準で中心となるF2〜F4
厚生労働省の認定基準では、業務に関連して発病する可能性のある精神障害は、主としてICD-10のF2〜F4に分類されるものとされています。
F2
統合失調症、統合失調症型障害、妄想性障害など
F3
気分[感情]障害
代表例:
- うつ病
- 双極性障害等
F4
神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害
代表例:
- 適応障害
- PTSD
- 急性ストレス反応
- 身体表現性障害
したがって、選択肢①〜④はいずれも対象疾病となり得る範囲に含まれます。
① 気分障害は対象となる
気分障害はICD-10のF3に分類されます。
精神障害の労災認定で代表的に問題となる疾患の一つが、うつ病などの気分障害です。
ただし、
「仕事でストレスがあった+うつ病になった=自動的に労災」
ではありません。
認定には、後述する認定要件を満たす必要があります。
したがって①は適切です。
② 適応障害は対象となる
適応障害はICD-10ではF4のストレス関連障害に分類されます。
明確なストレス因と関連して情緒面・行動面の症状が生じる疾患であり、業務上の強い心理的負荷との関連が検討される場合があります。
第4回午前問14では、DSM-5における適応障害の診断群が問われています。
今回の問45では、その適応障害が労災認定基準の対象疾病になり得ることを確認します。
したがって②は適切です。
③ 統合失調症も対象疾病の範囲
統合失調症はICD-10のF2に分類されます。
精神障害の労災認定では、対象疾病のうち業務との関連が問題となり得るものとしてF2〜F4が挙げられています。
ただし、統合失調症の発病には複数の要因が関与すると考えられているため、個別事例では業務による心理的負荷、業務外要因、個体側要因などを慎重に評価します。
「統合失調症だから労災にならない」という理解は誤りです。
④ 身体表現性障害は対象となる
身体表現性障害はICD-10のF4に含まれます。
そのため、選択肢④も認定基準の対象範囲に含まれます。
ここで注意したいのは、身体表現性障害と心身症は別という点です。
厚生労働省の認定基準では、心身症はこの「精神障害の認定基準」における精神障害には含まれないと整理されています。
一方、本問の「身体表現性障害」はF4に含まれるため対象になり得ます。
⑤ アルコールや薬物による障害が除外される理由
アルコールや薬物による障害はICD-10のF1「精神作用物質使用による精神及び行動の障害」に分類されます。
F1は、心理的負荷による精神障害の認定基準から除外される疾病群です。
そのため⑤が誤りです。
ただし、業務に関連した化学物質曝露など別の原因がある場合は、別の認定枠組みで判断される可能性があります。
労災認定の3つの基本要件
精神障害の労災認定では、対象疾病であることだけでは不十分です。
基本的には、次の要件を満たすかどうかを判断します。
1. 対象疾病を発病している
まず認定基準の対象となる精神障害を発病している必要があります。
2. 発病前おおむね6か月以内に、業務による強い心理的負荷がある
仕事上の出来事について、
- 事故
- ハラスメント
- 仕事内容や仕事量の大きな変化
- 対人関係
- 過重な責任
- 長時間労働
などを具体的に確認し、心理的負荷の強度を評価します。
3. 業務外の心理的負荷や個体側要因だけで発病したとは認められない
家庭問題や個人の既往歴など、業務以外の要因も確認します。
重要なのは、
仕事上のストレスがあったかどうかだけでなく、発病との関係を総合的に評価する
ということです。
心理的負荷評価表
精神障害の労災認定では、業務上の具体的な出来事を「心理的負荷評価表」に照らして評価します。
たとえば、
- 上司等からのパワーハラスメント
- 顧客等からの著しい迷惑行為
- セクシュアルハラスメント
- 長時間労働
- 仕事内容・仕事量の大きな変化
- 重大な事故や災害の体験
などが評価対象になります。
出来事だけでなく、その後の状況や継続期間なども含めて総合評価されます。
2023年の認定基準改正
精神障害の労災認定基準は2023年に改正されました。
改正では、近年の職場環境を踏まえて心理的負荷評価表が見直され、
- 顧客や取引先等からの著しい迷惑行為
- 感染症等の病気や事故に関する出来事
- ハラスメント等
の評価が整理されています。
ただし、本問で必要なのは細かな改正点よりも、
対象疾病の基本範囲とF0・F1の除外
を確実に理解することです。
公認心理師が知っておく意味
労災認定そのものを最終判断するのは、労働基準監督署等です。
公認心理師が認定可否を独自に決定するわけではありません。
しかし産業領域で働く場合、
- どのような精神障害が認定対象になり得るか
- 業務上の心理的負荷をどう整理するか
- 本人にどの制度を案内するか
- 産業医や人事労務、外部機関とどう連携するか
という基礎知識は重要です。
「診断」と「労災認定」は別
精神科医が精神障害を診断することと、その障害が労災として認定されることは別です。
診断では、
その人がどの精神障害を発症しているか
を判断します。
労災認定では、
その精神障害が業務によって生じたものと認められるか
を制度上の基準に沿って判断します。
この2段階を混同しないことが重要です。
第4回問14「適応障害」とつなげる
第4回午前問14では、DSM-5で適応障害が「心的外傷およびストレス因関連障害群」に含まれることが問われました。
今回の問45では、その適応障害が労災認定基準でも対象疾病となり得ることが分かります。
診断分類の知識と、労働・産業領域の制度知識をつなげて覚えると効率的です。
第3回問27「職場のメンタルヘルス」とつなげる
第3回問27では、職場のメンタルヘルスケアにおける労働者や事業場の役割が問われています。
精神障害の労災認定は、メンタルヘルス対策の中でも「発病後の補償」に関わる制度です。
一方、ストレスチェックや職場環境改善は発病予防を目的とします。
試験では、
- 予防
- 早期発見・支援
- 治療と就労支援
- 労災補償
という流れで産業領域の制度を整理すると理解しやすくなります。
試験での見分け方
本問ではICD-10のコードを覚えておくと速く解けます。
- F0:器質性 → 除外
- F1:アルコール・薬物等 → 除外
- F2:統合失調症等 → 対象になり得る
- F3:気分障害 → 対象になり得る
- F4:神経症性・ストレス関連・身体表現性 → 対象になり得る
選択肢⑤だけがF1です。
まとめ
第6回公認心理師試験・午前問45の正答は ⑤ アルコールや薬物による障害 です。
精神障害の労災認定基準では、ICD-10第V章の精神障害を基本としつつ、F0の器質性精神障害とF1の精神作用物質使用による障害は除外されます。
試験では、
F2〜F4が中心、F0・F1は除外
という大枠を押さえておきましょう。
※本記事は公認心理師試験の学習用解説です。個別事例の労災認定可否は、実際の診断、業務上の出来事、心理的負荷、業務外要因等を踏まえて所管機関が判断します。
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参考資料
- 一般財団法人 公認心理師試験研修センター|第6回公認心理師試験 午前問題・正答
- 厚生労働省|心理的負荷による精神障害の認定基準
- 厚生労働省|精神障害の労災認定

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