第5回公認心理師試験・午前問60は、乳児の視覚認知を調べる馴化・脱馴化法の読み取り問題です。正答は⑤です。
ポイントは、同じ刺激を繰り返すと注視時間が短くなる「馴化」と、馴化後に新しい刺激を出したとき注視時間が回復する「脱馴化」を区別することです。注視時間が回復すれば、乳児が新しい刺激を以前の刺激とは異なるものとして弁別したと解釈できます。
- 問題
- 選択肢の要点
- 正答
- まず「馴化」を押さえる
- 次に「脱馴化」を押さえる
- 図形Cで注視時間が回復しなかった意味
- 選択肢①が不適切な理由
- 選択肢②が不適切な理由
- 選択肢③が不適切な理由
- 選択肢④が不適切な理由
- 選択肢⑤が適切な理由
- 馴化法で分かること
- 選好注視法との違い
- 「長く見る=好き」とは限らない
- 実験デザインから読み取れる範囲
- 試験での見分け方
- なぜ「注視時間が半減」を基準にするのか
- 別の乳児群を使っている点が重要
- 弁別できることと意味を理解することは別
- 新奇性選好と親近性選好
- 研究法の問題で注意すること
- 「脱馴化しない」をどう表現するか
- 注視時間という指標の長所と限界
- 馴化・脱馴化法を一文で整理する
- 発達心理学では実験の論理を読む
- 関連する過去問
- 短く図式化する
- まとめ
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
- 公認心理師試験の過去問解説を続けて読む
問題
実験1では、乳児50名に図形Aを繰り返し提示し、注視時間が半分程度まで低下した後に図形Bを提示すると、注視時間が再び長くなりました。実験2では、別の乳児50名に同じように図形Aを繰り返し提示した後、図形Cを提示しても注視時間は回復しませんでした。この結果から、乳児の視覚認知について何が言えるかを選ぶ問題です。
選択肢の要点
- 乳児はCよりBを好んで見る。
- Bには馴化し、Cには脱馴化する。
- BよりCへの親近性選好が強い。
- Aの後にはCよりBが現れると期待する。
- AとBは区別するが、AとCは区別しない。
正答
⑤ 図形Aと図形Bは区別するが、図形Aと図形Cは区別しない。
まず「馴化」を押さえる
馴化とは、同じ刺激が繰り返し提示されると、その刺激に対する反応が次第に弱くなる現象です。乳児研究では、同じ図形や顔などを繰り返し見せたときに注視時間が徐々に短くなることを利用します。
本問では、図形Aを繰り返し提示すると注視時間が減少し、半分程度になっています。この段階で、乳児はAに対して馴化したと考えます。重要なのは、馴化の対象はAであることです。
次に「脱馴化」を押さえる
馴化した後に、乳児が以前とは異なる刺激を提示され、それを新しいものとして検出すると、いったん低下した注視時間が回復することがあります。これが脱馴化、あるいはvisual recoveryと呼ばれる反応です。
実験1では、Aへの馴化後にBを提示すると注視時間が回復しました。したがって、乳児はBをAとは異なる刺激として検出したと考えられます。つまり、AとBを弁別できたことを示します。
図形Cで注視時間が回復しなかった意味
実験2では、Aへの馴化後にCを提示しても注視時間は回復しませんでした。この結果からは、少なくともこの実験条件では、乳児がCをAとは十分に異なる刺激として検出したという証拠は得られていません。
試験問題としては「AとCを区別しない」と整理します。ただし研究の実際では、反応が回復しなかったからといって、あらゆる条件で絶対に弁別できないと断定するわけではありません。刺激差の大きさ、提示時間、乳児の状態、馴化基準などによって結果は変わるためです。
選択肢①が不適切な理由
実験では、ある乳児群はAの後にBを見て、別の乳児群はAの後にCを見ています。BとCを同じ乳児に並べて直接比較していないため、「CよりBを選好注視する」とは結論できません。比較していないもの同士を比較したことにしないのがポイントです。
選択肢②が不適切な理由
馴化が起きたのは図形Aです。その後にBを提示したとき注視時間が回復したので、Bに対して起きたのは脱馴化です。Cでは注視時間が回復していないので、Cに脱馴化が起きたともいえません。馴化と脱馴化の向きが完全に逆になっています。
選択肢③が不適切な理由
親近性選好とは、見慣れた刺激や親しみのある刺激をより長く見る傾向を指す文脈で用いられます。しかし本問の主たる操作は、Aに馴化させた後に新しい刺激への反応が回復するかどうかです。さらにBとCは直接比較されていないため、「BよりCに強い親近性選好」とする根拠はありません。
選択肢④が不適切な理由
本実験から分かるのは、AとB、AとCの視覚的弁別に関することです。「Aの後にBが現れると期待している」といった予測や系列学習までは測定していません。実験で操作・測定していない心理過程を付け加えないことが重要です。
選択肢⑤が適切な理由
Aへの馴化後、Bでは注視時間が回復したため、AとBは弁別されています。一方、Cでは注視時間が回復しなかったため、AとCを異なる刺激として弁別した証拠は得られません。この2つをそのまま組み合わせた⑤が最も適切です。
馴化法で分かること
乳児は言葉で「違う」と答えることができません。そのため発達心理学では、注視時間、吸啜、心拍などの行動・生理反応を指標として、乳児が刺激を区別しているかを推定します。馴化・脱馴化法は、その代表的な研究法です。
同じ刺激への反応低下は、単なる疲労だけでなく、刺激の記憶や処理が進んだ結果として解釈されます。その後に新しい刺激で反応が回復すれば、乳児が刺激差を検出できたと考えます。
選好注視法との違い
選好注視法では、2つの刺激を同時または一定の手続で比較し、どちらを長く見るかを指標にします。馴化・脱馴化法では、まず特定の刺激への反応を低下させた後に、新刺激への反応回復をみます。両者は乳児の視覚認知を調べる点で関連しますが、同じ手続ではありません。
「長く見る=好き」とは限らない
乳児がある刺激を長く見たからといって、常に「好き」「好み」と解釈するのは危険です。長い注視は、新奇性、処理の難しさ、驚き、注意の引きつけなど複数の要因で起こります。本問では、Bへの注視回復を「AとBを区別した」と読むのが適切で、「Bが好き」とまでは言いません。
実験デザインから読み取れる範囲
- A→B群とA→C群は別の乳児群である。
- BとCを直接比較する試行はない。
- 測定しているのは主に注視時間の変化である。
- 注視回復はAとの弁別を支持する。
- 期待、好み、カテゴリー概念などは追加の実験なしには断定できない。
試験での見分け方
文章が長くても、まず「何に馴化したか」を確認します。次に、新刺激で反応が回復したかを見ます。回復したなら元の刺激と区別できた、回復しなければ区別した証拠がない、と整理すると選択肢を素早く判定できます。
なぜ「注視時間が半減」を基準にするのか
馴化研究では、乳児ごとに刺激処理の速さが異なるため、一定回数だけ見せるのではなく、注視時間が初期より一定程度低下したことを馴化到達の基準にすることがあります。本問の「半減」は、その乳児がAに十分慣れた段階を示す目印です。Aへの反応がまだ高いままでは、新刺激に対する回復を評価しにくくなります。
別の乳児群を使っている点が重要
A→Bの実験とA→Cの実験では、同じ乳児がBとCの両方を見ているわけではありません。そのため、Bへの注視時間とCへの注視時間を直接比較して「Bの方を好む」「Cの方が親しみやすい」と結論することはできません。各実験で判断できるのは、BまたはCがAと区別されたかどうかです。
弁別できることと意味を理解することは別
脱馴化が起きたときに示されるのは、乳児が刺激の違いを検出したということです。そこから直ちに、刺激の意味を大人と同じように理解している、カテゴリー概念を持っている、因果関係を理解している、とまでは言えません。発達研究では、行動指標から推論できる範囲を限定することが重要です。
新奇性選好と親近性選好
乳児はしばしば新しい刺激を長く見るため、長い注視は新奇性選好として利用されます。一方、条件によっては見慣れた刺激を長く見る親近性選好が現れることもあります。どちらが現れるかは刺激の複雑さや提示時間、乳児の月齢などに左右されます。本問ではこの一般論より、Aへの馴化後に反応が回復したかという操作を優先して読みます。
研究法の問題で注意すること
研究法の選択肢では、「測定したこと」と「測定していないこと」を分けるのが基本です。本問で測定したのは注視時間です。BとCの好み、次に何が出るかという期待、情動的な好感度は直接測定していません。選択肢にもっともらしい心理概念が書かれていても、実験デザインがその結論を支えるかを確認しましょう。
「脱馴化しない」をどう表現するか
試験では「AとCを区別しない」が正答ですが、研究の厳密な表現では「AとCの弁別を示す注視時間の回復が得られなかった」とする方が慎重です。行動反応が出なかった理由には、差を検出できなかった場合だけでなく、刺激差が十分に目立たなかった場合や注意状態の影響もあり得るためです。
注視時間という指標の長所と限界
注視時間は、言語報告ができない乳児でも測定できる点が大きな長所です。一方、乳児が長く見る理由は一つではありません。眠気、空腹、周囲の音、刺激の複雑さなどでも変化します。そのため研究では、提示順序を統制したり、複数の試行を平均したり、多数の乳児を対象にしたりして偶然の影響を小さくします。本問でも、注視時間の変化を「心の中を直接読んだ」と考えるのではなく、弁別の行動指標として解釈します。
馴化・脱馴化法を一文で整理する
試験対策としては、同じ刺激で反応が下がる=馴化、新しい刺激で反応が戻る=脱馴化、戻れば元の刺激と区別できたと一文で覚えると便利です。さらに「戻らなかった場合は弁別を示す証拠が得られない」と補足しておけば、本問のようなA・B・C型の問題にも対応できます。
発達心理学では実験の論理を読む
発達心理学の問題では、用語の定義だけでなく、どの操作がどの結論を支えるかを読むことが重要です。本問は「Aを見慣れさせる」「BまたはCを提示する」「注視時間の回復を見る」という三段階です。この順番を図式化してから選択肢を読むと、余計な推論を避けやすくなります。
関連する過去問
乳児期の馴化・脱馴化をさらに整理したい場合は、乳児の認知発達に関する過去問解説も合わせて確認すると、研究法と発達心理学の基本がつながりやすくなります。
短く図式化する
Aを繰り返す→注視低下、Bを出す→注視回復、Cを出す→回復なし、と矢印で書くだけでも正答に到達できます。
まとめ
第5回午前問60の正答は⑤です。Aへの馴化後にBで注視時間が回復したことから、乳児はAとBを弁別しています。一方、Cでは注視時間が回復しなかったため、AとCを弁別した証拠は得られません。BとCを直接比較していない点や、選好・期待まで推論できない点にも注意しましょう。


コメント