第4回公認心理師試験・午前問76は、心理検査の得点だけで結論を出さず、面接中の様子や家族からの情報と照合して再アセスメントの必要性を判断できるかを問う事例問題です。正答は④です。
この問題の決め手は、IES-RとBDI-IIがいずれも自己記入式の尺度であり、その得点が低かったとしても、観察や家族から得られた情報との食い違いを無視してよいわけではない点です。心理検査は重要な情報源ですが、検査得点だけで診断を確定したり、支援の必要性を否定したりするものではありません。
- 問題
- 選択肢の要点
- 正答
- この問題の核心は「検査結果の統合」にある
- IES-Rとは
- BDI-IIとは
- なぜ再アセスメントが必要なのか
- 選択肢①が不適切な理由
- 選択肢②が不適切な理由
- 選択肢③が不適切な理由
- 選択肢④が適切な理由
- 「自己記入式だから信用できない」ではない
- PTSD評価で確認したい情報
- 試験での見分け方
- 関連知識:スクリーニングと診断の違い
- 検査得点と行動観察が食い違う理由
- 心理検査報告書では何を書くか
- 再アセスメントで確かめる順序
- 構造化面接を使う意味
- 「1か月後」という時間情報にも注目する
- 報告書では断定より「根拠と限界」を示す
- 関連する過去問
- まとめ
- 参考資料
- Yamashun|臨床心理士・公認心理師
- 公認心理師試験の過去問解説を続けて読む
問題
20歳の大学生Aは、約1か月前に親友の交通事故を目撃した後、物音への過敏さ、不眠、いら立ち、集中困難がみられると母親から報告されました。一方、A本人は事故の影響を否定し、診察場面では強い口調で母親や医師の話を遮っています。状態把握のために実施されたBDI-IIは10点、IES-Rは9点でした。この検査結果を心理検査報告書にどう記載するのが最も適切かを選ぶ問題です。
選択肢の要点
- 検査得点、母親の観察、Aの様子からPTSDを推測する。
- 検査得点が低いのでAのPTSD可能性は低く、治療が必要なのは母親だとする。
- 検査得点ではPTSD可能性が高いが、Aが否定するため検査の信頼性に問題があるとする。
- 検査得点上はPTSD可能性が低くみえるが、他の情報と食い違うため再アセスメントが必要とする。
正答
④ 心理検査の得点からはPTSDの可能性は低いが、その他の情報と齟齬があるため、再アセスメントが必要である。
この問題の核心は「検査結果の統合」にある
本問では、単にIES-Rのカットオフ値を知っているだけでは不十分です。重要なのは、心理検査、行動観察、本人の語り、家族など第三者からの情報を統合して理解することです。Aの自己記入式尺度では症状の訴えは強くありませんが、母親からは事故後の過敏、不眠、いら立ち、集中困難が報告され、診察場面でも強い怒りや遮断的な態度が観察されています。こうした不一致自体が追加評価の必要性を示す情報になります。
IES-Rとは
IES-Rは、外傷的出来事後のストレス反応を把握するために用いられる自己記入式尺度です。侵入的な体験、回避、過覚醒に関連する症状を尋ねます。得点が高いほど心的外傷後ストレス反応が強いことを示しますが、尺度単独でPTSD診断を確定するものではありません。
また、研究や対象集団によってスクリーニングに用いられる閾値は異なります。そのため「何点以上なら必ずPTSD」「何点以下なら絶対にPTSDではない」と固定的に理解するのは危険です。本問では9点という低い自己申告と、周辺情報との不一致に注目します。
BDI-IIとは
BDI-IIは、抑うつ症状の程度を自己記入で評価する尺度です。21項目からなり、気分、自己評価、睡眠、疲労、集中など抑うつに関連する症状の強さを把握します。本問の10点は強い抑うつ症状を示す得点ではありませんが、ここでも「得点が低い=問題がない」とは限りません。
自己記入式尺度は、受検者が自分の状態をどのように認識し、どの程度回答に表すかに影響されます。症状への気づきが乏しい場合、否認が強い場合、急いで記入した場合などには、臨床場面で観察される状態と得点が一致しないことがあります。
なぜ再アセスメントが必要なのか
アセスメントの基本は、1つの情報源に依存しないことです。Aの場合、少なくとも①本人の自己報告、②心理検査、③母親からの情報、④診察・面接中の行動観察、⑤事故からの時間経過という複数の情報があります。これらを並べたとき、自己記入式検査だけが他の情報と一致していません。
このようなときは、どの情報を「正しい」と決めつけるのではなく、症状の有無や頻度、持続時間、生活上の支障、事故との関連、回避や再体験の有無などを改めて丁寧に確認します。必要に応じて構造化面接や追加尺度を用いることも考えられます。
選択肢①が不適切な理由
母親の情報やAの態度にはPTSDを疑わせる要素がありますが、IES-Rは低得点であり、問題文の情報だけからPTSDと推測して報告書に記載するのは早計です。診断には症状群、持続期間、機能障害、鑑別などを含む総合評価が必要です。
選択肢②が不適切な理由
検査得点が低いという理由だけでAへの支援を不要とし、母親だけを治療対象とする根拠はありません。母親の報告は、Aの状態を理解するための重要な付加情報です。本人と家族の認識が異なるときこそ、どちらか一方を切り捨てずに事実関係を整理する必要があります。
選択肢③が不適切な理由
IES-R 9点という結果から「PTSDの可能性が高い」と読むこと自体が逆です。また、本人が症状を否定しているからといって、直ちに検査そのものの信頼性に問題があると判断することもできません。検査の信頼性と、個人の回答内容の臨床的解釈は分けて考えます。
選択肢④が適切な理由
④は、検査得点を過大評価も過小評価もせず、他の情報との不一致を明確に捉えています。心理検査報告書では、得点を記載するだけでなく、その得点が面接・観察・生活状況などとどう整合するかを検討することが重要です。本問では、その統合判断として「再アセスメントが必要」が最も妥当です。
「自己記入式だから信用できない」ではない
試験では、自己記入式尺度の限界を「信用できない検査」と誤解しないことが大切です。自己記入式には、本人にしか分からない主観的苦痛を把握しやすいという長所があります。一方で、回答態度、病識、記憶、社会的望ましさなどの影響を受けるため、他の情報と組み合わせて読む必要があります。
PTSD評価で確認したい情報
- 外傷出来事への曝露と、その出来事との時間的関係
- 侵入症状、回避、認知・気分の変化、覚醒反応
- 症状の持続期間と日常生活・学業への影響
- 抑うつ、不安、睡眠問題、物質使用などの併存症状
- 本人の自己報告と家族・医療者の観察の一致/不一致
試験での見分け方
「心理検査の点数」と「面接・観察・家族情報」が食い違う事例では、検査得点だけで診断を確定したり、本人や家族のどちらかを誤りと決めつけたりする選択肢は慎重に検討します。公認心理師に求められるのは、複数の情報を統合し、不確実性が残る場合は追加アセスメントにつなげる姿勢です。
関連知識:スクリーニングと診断の違い
スクリーニングは、ある問題の可能性が高い人を効率よく拾い上げるための手続です。診断は、基準に基づき症状、期間、機能障害、鑑別を総合して判断します。IES-Rのような尺度は有用な情報を与えますが、得点だけで診断を完結させるものではありません。
検査得点と行動観察が食い違う理由
心理検査と行動観察が一致しないことは珍しくありません。本人が症状を軽く捉えている場合、援助を求めることへの抵抗がある場合、質問文の意味を自分なりに狭く解釈した場合、その日の状態だけを基準に答えた場合など、さまざまな要因が考えられます。だからこそ、不一致を「どちらかが間違っている」と処理するのではなく、なぜ差が生じたのかを次の面接で確かめる必要があります。
心理検査報告書では何を書くか
心理検査報告書では、得点を示すだけでなく、その得点が何を意味するか、他の臨床情報とどのような関係にあるか、解釈上どのような留保が必要かを記載します。本問では「低得点だから問題なし」と断定するのではなく、他の情報との齟齬を明示し、追加評価が必要であるという臨床的な意味づけを示すことが重要です。
再アセスメントで確かめる順序
再アセスメントでは、まずAが事故をどのように体験し、現在どのような困りごとを感じているかを本人の言葉で確認します。その上で、睡眠、過敏さ、集中困難、いら立ちなどの頻度と程度、学業や対人関係への影響、事故を思い出す場面や避けていることの有無を具体化します。母親からの情報も参考にしつつ、本人の主体性を保った面接が必要です。
構造化面接を使う意味
PTSD評価では、自己記入式尺度に加えて、臨床家が基準に沿って症状を確認する構造化・半構造化面接が使われることがあります。たとえばCAPSは臨床家が実施するPTSD評価法の一つです。本問は特定の面接法を選ばせる問題ではありませんが、「尺度だけではなく面接で確かめる」という発想を持つと④を選びやすくなります。
「1か月後」という時間情報にも注目する
外傷体験後の反応は時間経過によって変化します。問題文では事故から約1か月という情報が与えられており、単に一時的なショック反応として片づけず、症状の持続や生活への影響を確認する必要があります。ただし、この情報だけでPTSDと確定するのではなく、症状群や機能障害を含めて評価することが必要です。
報告書では断定より「根拠と限界」を示す
心理検査報告書の価値は、診断名を断定することではなく、得られたデータを臨床判断に使える形で整理することにあります。検査得点の意味、観察との整合性、解釈上の限界、追加で確認すべき事項を分けて書くことで、医師など他職種にも判断材料を伝えやすくなります。
関連する過去問
PTSDの症状や評価の基礎を整理したい場合は、PTSDに関する過去問解説も参考になります。また、心理検査の使い方を復習するなら、心理検査に関する過去問解説と合わせて確認すると理解しやすくなります。
まとめ
第4回午前問76の正答は④です。IES-R 9点、BDI-II 10点という自己記入式検査の結果だけを見ると症状の強さは高くありません。しかし、事故後の変化に関する母親の報告や診察場面のAの様子とは一致していません。こうした不一致があるときは、検査得点だけでPTSDを肯定・否定せず、複数の情報源を統合して再アセスメントすることが重要です。


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