公認心理師資格試験 過去問解説 第4回 午前 問68|アクティブ・ラーニング

公認心理師過去問第4回68 公認心理師試験

第4回公認心理師試験・午前問68は、小学校のスクールカウンセラーが、児童同士の関係改善と相互理解を目的とした授業で、アクティブ・ラーニングの視点に合う指導法を選ぶ問題です。正答は⑤ 具体的に理解できるように、例話の登場人物のセリフを考えさせるです。試験では、教師が一方向に説明するのではなく、児童自身が考え、他者とのやり取りを通して理解を深める活動になっているかを見分けます。

実際の問題文

問68 45歳の男性A、小学校に勤務しているスクールカウンセラー。Aが勤務する小学校では、「ともに学び、ともに育つ」という教育目標のもとで、「支え合う学級集団づくり」に取り組んでいた。Aは、5年生の担任教師からクラスの児童同士の人間関係の改善や児童相互の理解を豊かにするための授業を実施してほしいと依頼を受けた。そこで、Aは児童がより主体的・対話的で深い学びができるように、アクティブラーニングを取り入れた授業を行うことにした。

Aが行うアクティブラーニングの視点を用いた指導法として、最も適切なものを1つ選べ。

① 児童の個性に合うように、複数の方法で教える。
② 学習内容が定着するように、内容を数回に分けて行う。
③ 全員が同じ内容を理解できるように、一斉に授業を行う。
④ 全員が正しく理解できるように、原理を積極的に解説する。
⑤ 具体的に理解できるように、例話の登場人物のセリフを考えさせる。

問題文の読み解き

問題文には「主体的・対話的で深い学び」という重要語が明示されています。文部科学省は、アクティブ・ラーニングの視点から授業を改善する際、問題発見・解決を念頭に置いた深い学び、他者との協働や相互作用を通して考えを広げ深める対話的な学び、見通しを持って粘り強く取り組み振り返る主体的な学びを重視しています。

したがって、単に教材を分かりやすくする、一斉に正解を教える、反復するというだけでは不十分です。児童自身が考える余地があり、その考えを表現し、他者と比較・対話しながら理解を再構成できる活動が最も合致します。

正答は⑤ 例話の登場人物のセリフを考えさせる

例話の登場人物のセリフを児童自身に考えさせる活動では、登場人物の立場、感情、意図、関係性を推測し、それを言葉にする必要があります。さらに、児童同士で異なるセリフ案を共有すれば、「なぜそう考えたのか」を説明し合うことができます。

本問の目的は「児童同士の人間関係の改善や児童相互の理解を豊かにする」ことです。登場人物の視点を考える活動は、相手の立場を想像し、自分とは異なる解釈に触れる契機になります。そのため、主体的・対話的な学びを組み込みやすい⑤が最も適切です。

アクティブ・ラーニングとは何か

主体的な学び

主体的な学びでは、学習者が課題に意味を見いだし、見通しを持って取り組み、学習の過程を振り返ります。教師の説明を受け身で聞くだけではなく、「自分ならどう考えるか」「どのような根拠があるか」といった問いを持つことが重要です。

対話的な学び

対話的な学びは、児童同士、教師、教材、地域の人々などとの相互作用を通して、自分の考えを広げたり修正したりする学びです。単にグループに分けること自体が目的ではありません。対話を通じて見方や考え方が変化することが重要です。

深い学び

深い学びでは、既に知っていることと新しい情報を結びつけ、知識を活用しながら問題を考えます。正解だけを覚えるのではなく、概念や原理を使って考え、別の場面にも応用できる理解を目指します。

アクティブ・ラーニングは「形式」ではない

アクティブ・ラーニングというと、グループワーク、ディスカッション、ロールプレイなど特定の形式を連想しやすいですが、本質は授業形式ではありません。文部科学省の整理でも、学習・指導方法を不断に改善するための「視点」として位置づけられています。

たとえばグループワークをしていても、教師が用意した正解を確認するだけで児童が考えていなければ、主体的・対話的で深い学びとは言いにくくなります。一方、個人で考える時間であっても、自ら問いを立て、後に他者と共有し、考えを深めるプロセスにつながっていれば重要な学習過程になります。

選択肢ごとの検討

① 児童の個性に合うように、複数の方法で教える

不正解です。児童の個性に応じて複数の教え方を用意することは、個別最適な学びや指導上の工夫として重要です。しかし、この選択肢だけでは児童自身が課題へ主体的に関わることや、対話を通して理解を深める活動が示されていません。アクティブ・ラーニングの視点を直接表すものとしては⑤が優先されます。

② 学習内容が定着するように、内容を数回に分けて行う

不正解です。内容を分散して反復することは、記憶の定着を促す教授上の工夫になり得ます。しかし、問題文が求めているのは「主体的・対話的で深い学び」の視点です。反復するだけでは、児童が自分で考え、他者と相互作用して理解を深める要素は明示されていません。

③ 全員が同じ内容を理解できるように、一斉に授業を行う

不正解です。一斉授業それ自体が悪いわけではありませんが、選択肢では教師から児童へ同じ内容を一方向に伝える構造が強調されています。本問の目的である児童相互の理解や対話的な学びを最もよく実現する選択肢ではありません。

④ 全員が正しく理解できるように、原理を積極的に解説する

不正解です。原理を教師が説明することは必要な場面がありますが、教師が「積極的に解説する」だけでは児童の思考活動や対話が中心になりません。正しい理解を教師が与えることと、児童が考えを形成して深めることは区別します。

⑤ 具体的に理解できるように、例話の登場人物のセリフを考えさせる

正答です。児童が登場人物の立場や感情を自分で考え、その考えを言語化する活動になっています。さらに他の児童と共有すれば、複数の見方を比較しながら相互理解を深められます。問題文にある学級集団づくりの目的とも整合します。

スクールカウンセラーが授業を行う意味

スクールカウンセラーの活動は個別面接だけではありません。学校全体の予防的・開発的支援として、ストレスマネジメント、対人関係、援助要請、感情理解などを扱う心理教育的授業に関わることがあります。本問は、そのような授業で心理職が「正解を教える人」になるのではなく、児童が自ら考える学習過程を設計できるかを問うています。

ただし、実際の学校では授業の目的や内容を担任、管理職、教育課程との関係で調整する必要があります。心理教育を行う場合も、学校全体の教育活動の中で位置づけ、児童の発達段階やクラス状況に応じて負荷を調整します。

人間関係を扱う授業での注意点

対人関係や相互理解を扱う授業では、児童に私的な経験を無理に開示させないことが重要です。例話や架空場面を用いると、自分の体験を直接話さなくても、登場人物を通して考えることができます。これは心理的安全性を保ちながら対話を促すうえで有効な設計です。

また、児童同士で異なる意見が出た場合に、教師や心理職が一つの「正しい気持ち」に収束させるのではなく、複数の見方があり得ることを扱うことで、他者理解の学習につながります。

試験での見分け方

アクティブ・ラーニングの問題では、「教師が何を教えるか」だけでなく「学習者が何をするか」に注目します。自ら考える、説明する、比較する、協働する、振り返るなど、学習者側の認知・対話活動が含まれている選択肢を探します。

反対に、「教師が説明する」「一斉に理解させる」「反復させる」だけの選択肢は、他の教授上の価値があっても、主体的・対話的で深い学びを最も直接表す選択肢ではありません。

「考えさせる」だけで終わらせない授業設計

児童にセリフを考えさせる活動も、単に一人で答えを書いて終わるだけでは対話的な学びにはなりません。個人で考えた後にペアや小集団で理由を共有し、異なる案を比較し、最後に自分の考えを振り返るという流れを作ることで、主体的・対話的で深い学びにつながります。

また、スクールカウンセラーが対人関係を扱う場合、特定の児童や実際のトラブルを教材化するより、架空の例話を用いて心理的安全性を確保する方が適切です。授業後に気持ちが揺れた児童が相談できる導線を用意するなど、授業と個別支援をつなぐ視点も重要です。

授業で扱う「相互理解」と心理教育

児童同士の相互理解を促す授業では、単に「仲良くしましょう」と伝えるだけでは学習が深まりにくくなります。例えば同じ場面でも、登場人物Aは不安、Bは怒り、Cは戸惑いを感じている可能性があります。児童が複数の解釈を出し、その根拠を話し合うことで、「相手の気持ちは一つに決めつけられない」「同じ出来事でも受け止め方は違う」と学べます。

スクールカウンセラーが関与する場合は、心理学的知識を一方向に説明するだけでなく、児童が自分で考え、言葉にし、他者の考えと照らし合わせる機会を設けることが重要です。授業中に正解を急いで与えず、考えの違いを学習資源として扱うことが、対話的な学びにつながります。

アクティブ・ラーニングで誤りやすいポイント

第一に、「動いている授業」ならアクティブ・ラーニングというわけではありません。ゲームやグループ活動が多くても、学習者自身の思考が浅ければ目的は達成されません。第二に、教師の説明が一切不要という意味でもありません。必要な知識や枠組みを教師が提示したうえで、学習者が活用・比較・吟味する時間を設けます。

第三に、全員が同じ発言量である必要もありません。個人で考える、書く、ペアで共有する、全体で振り返るなど複数の参加方法を組み合わせることで、発言が得意でない児童も学習に参加しやすくなります。本問では「セリフを考える」という活動が、その入り口として最も適切に描かれています。

まとめ

第4回午前問68の正答は⑤です。アクティブ・ラーニングは、単なるグループワークの名称ではなく、主体的・対話的で深い学びを実現するための授業改善の視点です。本問では、児童自身が例話の登場人物のセリフを考えることで、他者の立場を想像し、自分の考えを表現し、他者との対話につなげられる点が重要です。

参考文献・資料

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