【心理検査】大学院生のときに身につけておくべき症状評価尺度(HAM-D、PANSS)
- 2021.01.08
- 臨床心理士 / 公認心理師
- 心理検査, 若手心理職・大学院生

大学院生のときは聞いたことくらいはあっても、実際に項目を見たり、内容について理解できていなかった心理検査が沢山あります。
なかでも心残りなのが、症状評価尺度(構造化面接あるいは半構造化面接)を身につけなかったことです。
心残りとなっている理由が何かというと、この症状評価尺度を理解して使用できるようになると、診断基準に沿った精神症状についての知識が身につくからです!
今回の記事では、心理職として働き始めてから身につけた心理検査のなかで、特に有用な症状評価尺度に関して紹介していきます。
まだ大学院在学中の方や、臨床家として働いているけど「この検査は知らなかった」という方は是非ご一読ください。
今回紹介する症状評価尺度は以下の通りです。( )の部分は第2段で紹介する予定です!
陽性・陰性症状評価尺度
(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度)
(CAADID™ 日本語版)
(臨床認知症尺度)
この検査の多くが診療報酬に含まれています。診療報酬について詳しく知りたい方は以下の記事をどうぞ。
令和2年度(2020)診療報酬点数表(臨床心理・神経心理検査)
この記事のまとめ
- この記事ではハミルトンうつ病症状評価尺度(HAM-D)と陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の概要について紹介します。
- 大うつ病性障害、統合失調症の症状を詳しく知りたい方は是非今回紹介する検査を身につけてください。
- 症状評価を適切に実施できることは、①クライエントに対する適切な介入方法の選択、②医療機関へのリファーを行うための知識を与えてくれます。
ハミルトンうつ病症状評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale)
ハミルトンうつ病症状評価尺度は、「HAM-D」「HDRS」「HRSD」などと呼ばれるうつ病あるいは抑うつ症状を評価するための症状評価尺度です。実施時間は20分から30分程度となります。
概要は以下の通りです。
1960年にHamiltonによって発表されたうつ病の重症度を評価するための尺度である。
うつ病の重症度をあらわす17項目で構成された主要17項目版とこれに追加の4項目を加えた21項目版が主に用いられている。
- “抑うつ気分”
- “罪責感”
- “自殺”
- “入眠困難”
- “中途覚醒”
- “早朝覚醒”
- “仕事と活動”
- “精神運動制止”
- “精神運動激越”
- “不安の精神症状”
- “不安の身体症状”
- “食思不振(消化器症状)”
- “全身の身体症状”
- “性的関心(生殖に関する症状)”
- “心気症”
- “体重減少”
- “病識欠如”
といった17項目と、
- “日内変動”
- “離人症”
- “被害関係念慮(妄想症状)”
- “強迫症状”
を加えた21項目版が主流です。
主要とされている17項目の方は、DSM-5の大うつ病性障害に関係しており、追加の項目は性質や付随することの多い症状についての項目となっています。
過去1週間(7日間)の症状を聴取して、1週間の症状の程度と頻度を平均して評価します。症状が存在していなかった時期と比較することも重要となってきます。
治療効果の判定(心理療法の効果研究も含めて)研究目的で使用されることが多い心理検査ですが、診療報酬(80点)に該当する検査でもあり、医療機関では臨床場面でも非常によく使用される症状評価です。
重症度の評価は諸説ありますが(明確には決められていない)、以下の基準を考えておくといいでしょう。
0点〜7点・・・正常
20点以上・・・中等度から重症
出典:Hamilton M. A rating scale for depression. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1960; 23:56–62
海外の研究を見ると、内的妥当性や臨床家・研究者間での評定の不一致などの問題がいくらか指摘されているようですが、現状ではうつ病評価のゴールドスタンダードと考えて差し支えないと考えられます。
勿論、正確に評価するためには、臨床的な実践経験を経て、うつ病の症状についてしっかり理解しなければなりません。
しかし、身につけることができれば、うつ病について理解が深まるのみでなく、どの心理療法やカウンセリングを選択すべきか、あるいは薬物療法を行うべきなのかといった示唆を与えてくれるように思います(たとえば、睡眠の問題→CBT-I、仕事と活動→行動活性化療法など)。
以下に実際の尺度へのリンクを載せておきます。
GRID-HAMD構造化面接ガイド – 日本臨床精神神経薬理学会
陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome)
統合失調症の症状を全般的に評価するための症状評価尺度で、陽性尺度7項目、陰性尺度7項目、ならびに総合精神病理尺度17項目で構成されています。実施時間は40分〜50分程度です。
それぞれの項目を1(症状なし)から7(最重度)で評価します。
【陽性尺度】
- “妄想”
- “概念の統合障害”
- “幻覚による行動”
- “興奮、誇大性”
- “猜疑心”
- “敵意”
【陰性尺度】
- “情動の平板化”
- “情動的引きこもり”
- “疎通性の障害”
- “受動性/意欲低下による社会的引きこもり”
- “抽象的思考の困難”
- “会話の自発性と流暢さの欠如”
- “常同的思考”
【総合精神病理尺度】
- “心気症”
- “不安”
- “罪責感”
- “緊張”
- “衒奇症と不自然な姿勢”
- “抑うつ”
- “運動減退”
- “非協調性”
- “不自然な思考内容”
- “失見当識”
- “注意の障害”
- “判断力と病識の欠如”
- “意志の障害”
- “衝動性の調節障害”
- “没入性”
- “自主的な社会回避”
原著論文によると、統合失調症患者の平均得点は以下のようになっています。
陽性尺度 = 18.20
陰性尺度 = 21.01
総合精神病理尺度 = 37.74
PANSSは残念ながら診療報酬の取れない症状評価ではありますが、統合失調症に関連する症状を網羅的に聴取可能であるため、現在までも特に臨床研究などで多く使われています。
PANSS実施のトレーニングを積むことで、細かい統合失調症の症状に関する知識を身につけることが可能になるといえます。
まとめ
この記事ではHAM-D、PANSSという特に病院臨床で用いられることの多い症状評価に関する心理検査の概要を紹介しました!
いずれの検査も、大うつ病性障害、統合失調症の症状を網羅的に評価可能なため、臨床場面でも有用と考えられます。
また、症状評価の知識を身につけておくことは、どの領域で働く心理職にとっても、①介入方法を検討する、②医療機関へのリファーを行うべき基準に示唆を与えてくれるため、是非大学院生の時に身につけておくと良いでしょう。
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