【先延ばし】先延ばしは自己調節の失敗。最も影響するのは『衝動性』の問題だった!
「やるべき課題や仕事を後回しにして、やりたいことを優先させてしまい後悔…」なんてことは誰しも経験があるかと思います。
心理学では、やるべきことを後回しにする行動を「先延ばし(procrastination)」と呼んでいます。
この「先延ばし」に悩んで、専門家のところに相談にくるクライエントさんもかなり多い問題です。
この記事では、「先延ばし」とは何かというテーマで、関係する論文の内容を紹介しつつ解説していきます。
- 「先延ばし」とは、先延ばすことのデメリットを自覚しているにも関わらず課題に取り組むことを遅らせてしまう行動を意味している。将来のデメリットがわかったうえで、今課題に取り組むことの不快感を優先させてしまうため、自己調節の失敗と考えられている。
- 先延ばしはネガティブな感情を伴う。
- 先延ばしに影響を与える要因として、衝動性があげられる。この衝動性とは、「結果が得られることが遅れるのに不快感を感じやすく、目の前の結果を優先させてしまう傾向」を意味している
- 先延ばしを説明する理論としてTemporal Motivation Theoryがあり、「価値」、「期待」、「衝動性」、「時間の遅延」で「先延ばし」の生じる可能性を説明している。
先延ばしとは何か
「先延ばし」は、日本国内よりも海外の方が先に注目されて、研究が進んできています。
ここで、海外の研究サイトであるProcrastination Research Group(PRG)のリンクを貼っておきました。
Procrastination Research Group | CARLETON UNIVERSITY
Procrastination Research Group (PRG)とは、カナダのカールトン大学のPychyl博士が中心となって、「先延ばし」について1995年から研究を行っているグループです。研究報告をご覧になりたい方は是非サイトに訪れてみてください。
先延ばしの定義
まずはじめに、『先延ばし』の定義をいくつか紹介します。
自己のコントロール下にあり、主観的に重要であると思われる課題の遂行を、一時的または完全に回避したり、そのことから逃避すること
引用:亀田・古谷(1989). 学業場面における大学生の遅延傾向に関する基礎的研究, 群馬大学教育学部紀要, 45,353-364.
遅れたことで不利益を被ることが予想されるにもかかわらず、意図した行動を自発的に遅らせること
複数の定義がありますが、どの定義にも共通する点をまとめると、先延ばしは「デメリットを自覚しているにも関わらず、重要な課題を一時的もしくは完全に回避して、課題に取り組むことを遅らせてしまうこと」といえます。
ここでのポイントは、”先延ばすことのデメリットを自覚しているにも関わらず課題を回避して遅らせてしまう”ということです。
先延ばしは、将来得られるはずの大きなメリットよりも、今ここでのネガティブな気分を回避することを優先するときに起こるため、自分を律することに失敗している(自己調節の失敗)と考えられています。
先延ばしへの対処はこちら💁♂️
ポイント
「先延ばし」=先延ばしのデメリットを自覚したうえで課題を回避して遅らせてしまうため、自己調節の失敗と考えられている。
先延ばし(procrastination)と遅延(delay)の違いは、ネガティブな感情の有無と計画性にある
先ほど紹介したProcrastination Research Groupでは、「先延ばし(procrastination)」と「遅延(delay)」をわけて考えています。
すべての「先延ばし」は「遅延」であるが、すべての「遅延」が「先延ばし」というわけではない
「先延ばし(procrastination)」と「遅延(delay)」はどちらも、課題に取り組むことが遅れてしまうという点が共通しています。
「先延ばし」はネガティブな感情を伴い、「遅延」はネガティブな感情を伴わない
「先延ばし」は、デメリットを自覚しているにもかかわらず自発的に取り組みを遅らせるため、罪悪感や羞恥心などのネガティブな感情を伴うことが特徴とされています。
一方で「遅延」は、外的な環境要因(たとえば、冠婚葬祭などの用事)による仕方がない理由で課題に取り組むことが遅れる場合や、目標を達成するための合理的な判断として課題に取り組むことを遅らせる場合についても含み、ネガティブな感情が伴わないとされています。
「先延ばし」=罪悪感・羞恥心などのネガティブな感情を伴う
「遅延」=ネガティブな感情は伴わないことが多い
「遅延」は意図的に課題への取り組みを遅らせるという計画性も含む
Procrastination Research Group(PRG)含めた海外の研究チームでは、「遅延」のポジティブな側面に注目が集まっています。
なかには、課題への取り組みを適度に遅らせることによって独創的な発想が可能となるという報告もあるようです。
日本語でも視聴可能なので、ご興味のある方は是非1度試聴してみてください。
Adam Grant: The surprising habits of original thinkers
じゃあ、ネガティブな気持ちにならずに意図的に課題を遅らせる「遅延」であればいいの?
海外ではポジティブな側面も強調されているけれど、日本では「先延ばし」と「遅延」のちがいは曖昧なんだ。日本では、最終的に「適応しているか(最低限の結果を出せている=遅れるけど課題が終わるかどうか)」を重要視しているよ。
日本においては、あくまで、計画的に課題を遅らせることによって効率的に課題を達成できたという実績が大切になるでしょう。
「先延ばし」にもっとも強い影響を与えるのは「衝動性」の高さ
近年の研究では、「先延ばし」と最も関連がある要因として衝動性があげられています。
衝動性に関してはこの記事で後ほど説明するとして、 一般的に先延ばしが起こりやすくなると考えられている要因を以下にあげます。
- 課題を達成することで得られる報酬や結果が遠くにあること
- 不快に感じる課題を行うこと
- 近くに誘惑があること
- 締め切りが遠くにあること
- 失敗への恐怖
- 先延ばしの成功体験
Temporal Motivation Theory(Steel & Konig, 2006)の概要
「先延ばし」を説明するための理論として、Temporal Motivation Theory(TMT)があります。
TMTでは、”人はみな限られた特定の時間の中で、本人が最も実用性の高いと考える活動を優先的に選択する”とされています。
TMT理論を単純に表現した式を下に載せます。
この式の意味するところは、
- 人は望む報酬や結果(=価値 [ Value ] )を獲得する自信(=期待 [ Expectancy ] )があるときに実用性(=動機づけ [ Motivation ] )が高まる。
- 遅れることに対する感受性(=衝動性 [ Impulsiveness ] )の高さや報酬・結果が得られるまでの時間の長さ(=遅延 [ Delay ] )によって、その活動の実用性(動機づけ)が低下する。
- 最終的な動機づけの高さは、「価値×期待」を「衝動性×時間の遅延」で割引いたものになる。
ということです。
TMTによる衝動性は「結果が遅れること」に対する不快感の強さ
TMTで想定される衝動性とは、「短期的に得られる報酬・結果に傾倒すること」を指します。
つまり、衝動性は(=遅れることに対する感受性)は、”報酬・結果が得られるタイミングが遅れることを嫌い、目の前にある報酬・結果に心を奪われてしまう傾向”と読みかえることができます。
「得られる報酬や結果(価値)」と「望む結果を手に入れられる自信(期待)」がどれほど高かったとしても、「衝動性」が高い人に対して、「報酬・結果が得られるまでの時間の長さ(遅延)」が長ければ、活動への動機づけが下がり、結果として先延ばしが増えてしまうでしょう。
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まとめ
この記事では、「先延ばし」とは何かをテーマに「先延ばし」に関する研究をまとめてきました。
「先延ばし」とは、先延ばすことのデメリットを自覚しているにもかかわらず、課題に取りかかることを遅らせてしまう傾向のことをいい、ネガティブな感情を伴います。
「先延ばし」を説明する理論として、Temporal Motivation Theoryがあります。
「先延ばし」に関連する研究として、目の前にある報酬や結果に心奪われて行動してしまう衝動性が注目を集めています。
引用・参考文献(リンク)
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