公認理師資格試験 過去問解説 問24 保護観察所「生活環境の調整」

公認理師資格試験 過去問解説 問24 保護観察所「生活環境の調整」

第4回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。

【令和3年10月29日14時】第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)合格発表|講習・試験・登録|一般財団法人 日本心理研修センター 公認心理試験

公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!

【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!

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【問24】生活環境の調整

問24 保護観察所において生活環境の調整が開始される時期として、正しいものを1つ選べ。
① 家庭裁判所の審判が開始される時点

② 医療及び観察等の審判が開始される時点

③ 矯正施設から身上調査書を受理した時点

④ 矯正施設において、仮釈放(仮退院) の審査を始めた時点

⑤ 矯正施設から仮釈放(仮退院) を許すべき旨の申出が行われた時点

出典:第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)|一般社団法人日本心理研修センター

正答は ③

③ 矯正施設から身上調査書を受理した時点

選択肢の解説

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Photo by kat wilcox on Pexels.com

生活環境の調整とは

保護観察所は「更生保護法」を法的根拠とする施設です。

生活環境の調整は更生保護法により、保護観察所の業務として規定されています。

保護観察所の業務についてはこちらの記事を確認!

生活環境の調整とは、対象者の社会復帰を円滑にするために釈放後の生活する環境の調整を行うことです。

生活環境の調整 = 釈放後の生活環境の調整を行うこと

具体的には、以下の事項を調整することになっています。

  • 住居(帰住予定の場所)
  • 引受人
  • 引受人以外の家族や関係者への理解と協力を求める
  • 就業先や通学先の確保
  • 更生を妨げるおそれのある環境からの予防
  • 公共の衛生福祉に関する機関との連携
  • 健全な生活態度や自立した生活のために必要な事柄

この生活環境の調整は、対象者の社会復帰の基礎となるのみでなく、地方更生保護委員会が対象者の仮釈放の可否を判断するためにも大きな役割を果たしています。

具体的な流れは以下の画像のようになっています。

2007年の更生保護法の一部改正により、2016年6月から『保護観察所が行う受刑者等の釈放後の生活環境の調整の充実』が図られるようになりました。

具体的なポイントは以下のとおりです。

  • 地方更生保護委員会が指導・助言・連絡調整を行うことができるようになった
  • 地方更生保護委員会が対象者に対する調査を行うことができるようになった

概要の解説が終わったところで、本問題文の選択肢をみていきましょう。

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①家庭裁判所の審判が開始される時点

こちらの選択肢に関しては、保護観察までの大まかな流れが理解できていれば判断は難しくありません。

この図を見るとわかるように、保護観察の対象者は以下のようになります。

  1. 保護観察付執行猶予者
  2. 仮釈放者
  3. 婦人補導院仮退院者
  4. 少年院仮退院者
  5. 保護観察処分少年

これらの図をみると、保護観察の対象者は裁判所あるいは家庭裁判所によって既に審判を受けた後であることがわかりますね。

よって、選択肢①「家庭裁判所の審判が開始される時点」は不適切な選択肢となります。

②医療及び観察等の審判が開始される時点

こちらの選択肢は「更生保護法」ではなく、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)」の内容に関するものとなっています。

医療観察法による「医療及び観察等の審判が開始」となる流れを確認しましょう。

  1. 検察官による申立て
    • 逮捕・送検後、検察官が心神喪失等の認定により不起訴処分をした後
    • 検察官が起訴後、裁判所が心神喪失等を理由に無罪等の判決をした後
  2. 鑑定入院
  3. 地方裁判所による審判(医療及び観察等の審判が開始
    • 裁判官と精神保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判
  4. 処遇の要否と内容の決定
    • 指定入院医療機関への入院
      • 社会復帰調整官(保護観察所に配置)により、退院後の生活環境の調整
    • 指定通院医療機関への通院
    • 不処遇

雑多にまとめていますが、医療観察法における保護観察所による生活環境の調整は処遇(入院)の決定後に行われることとなっているのがわかります。

医療観察法の第101条にも以下のような記載があります。

保護観察所の長は、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定があったときは、当該決定を受けた者の社会復帰の促進を図るため、当該決定を受けた者及びその家族等の相談に応じ、当該決定を受けた者が、指定入院医療機関の管理者による第九十一条の規定に基づく援助並びに都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)による精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第四十七条又は第四十九条、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第二十九条その他の精神障害者の保健又は福祉に関する法令の規定に基づく援助を受けることができるようあっせんする等の方法により、退院後の生活環境の調整を行わなければならない。

出典:心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律

ここでいう第42条1項1号および第61条1項1号はいずれも「入院の決定」を示す条文です。

以上のことから、選択肢②「医療及び観察等の審判が開始される時点」は正しくは「審判の結果、入院処遇が決定した時点」となるため、回答としては不適切となりますね。

③矯正施設から身上調査書を受理した時点

「生活環境の調整」についての解説で引用した図(生活環境の調整の流れ)を再度登場させます。

この図をみるとわかるように、保護観察所による「生活環境の調整」は矯正施設に収容された時点から動き始めることになります。

もう少し細かくみると、

受刑者の帰住予定地を管轄する保護観察所では,刑事施設から受刑者の身上調査書の送付を受けるなどした後,保護観察官又は保護司が引受人等と面接するなどして,帰住予定地の状況を確かめ,住居,就労先等の生活環境を整えて改善更生に適した環境作りを働き掛ける生活環境の調整を実施している。この結果は,仮釈放審理における資料となるほか,受刑者の社会復帰の基礎となる。

出典:平成30年版 犯罪白書 第2編/第5章/第1節/2 生活環境の調整

とあり、刑事施設(つまり、矯正施設)から受刑者の身上調査書の送付を受けた後から生活環境の調整が開始となることがわかりますね。

以上のことから、選択肢③「矯正施設から身上調査書を受理した時点」は生活環境の調整の開始時期として適切な記述となります。

④矯正施設において、仮釈放(仮退院) の審査を始めた時点

仮釈放(仮退院)についての大まかな流れをまずはおさえておきましょう。

  1. 矯正施設の長による仮釈放(仮退院)の申し出を行うか否かの審査(仮釈放が可能となる期日までに初めて審査を行う。以後は少なくとも6ヵ月に1度は審査を行う)
  2. 矯正施設から仮釈放(仮退院)を許すべき旨の申し出地方更生保護委員会に行う【更生保護法34条】
  3. 地方更生保護委員会による仮釈放(仮退院)の審理
    • 合議体(地方更生保護委員3人)による審理
    • 合議体による評議

「生活環境の調整」は、この仮釈放(仮退院)の可否の判断材料のひとつにもなるものなので、時系列的には仮釈放の審理前には行われているはずです。

もう少し細かく説明すると、「保護観察所による生活環境の調整」は矯正施設入所後、保護観察所が矯正施設から受刑者の身上調査書の送付を受けた後から開始されていますので、矯正施設による仮釈放の審理がなされる期日より、かなり早い段階から動いていることがわかります。

以上のことから、選択肢④「矯正施設において、仮釈放(仮退院) の審査を始めた時点」は不適切となりますね。

⑤矯正施設から仮釈放(仮退院) を許すべき旨の申出が行われた時点

選択肢④の解説と同様の内容となっています。

矯正施設から仮釈放(仮退院)を許すべき旨の申し出が行われるのは、選択肢④「矯正施設において、仮釈放(仮退院) の審査を始めた時点」よりも後の段階となるため、こちらの選択肢も不適切といえます。