公認理師資格試験 過去問解説 問18 負の相補性について
- 2023.01.07
- 公認心理師(第4回)
- 第4回公認心理師試験, 若手心理職・大学院生
第4回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。
【令和3年10月29日14時】第4回公認心理師試験(令和3年9月19日実施)合格発表|講習・試験・登録|一般財団法人 日本心理研修センター 公認心理試験
公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!
【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!
【問18】負の相補性
問18 心理療法における「負の相補性」の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① セラピストとクライエントが、お互いに過去の誰かに関する感情を相手に向けること。② セラピストの働きかけに対して、クライエントがその方針に無意識的に逆らおうとすること。
③ セラピストが言葉で肯定的なことを言いながら態度が否定的なとき、クライエントが混乱を示すこと。
④ セラピストが問題の言語化を試み続ける中で、クライエントが行動によって問題を表現しようとすること。
⑤ クライエントが敵意を含んだ攻撃的な発言をしてくるのに対して、セラピストが同じ敵意を含んだ発言で応じること。
正答は ⑤
⑤ クライエントが敵意を含んだ攻撃的な発言をしてくるのに対して、セラピストが同じ敵意を含んだ発言で応じること
負の相補性
負の相補性 negative complementarity とは、岩壁(2007)によって指摘された概念で、セラピストとクライエントとの間の良くない相互作用によって心理療法の中断や失敗に繋がるとされています。
その詳細に関しては以下の通りです。
セラピストとクライエントがお互いに怒りと敵意を増幅させてしまうことによるものが多いとされている。(中略)セラピストがそれに対して怒りで対応して、お互いの怒りを増幅させてしまうことによって心理療法が失敗または中断することが多いとしている。
出典:公認心理師必携テキスト|学研
岩壁によれば、転移や逆転移よりも一般的に起こるものとされています。
つまり、「クライエントからの敵意を含んだ攻撃的な言動」→「セラピストが敵意を含んだ攻撃的な応答をする」→「クライエントが怒りを強める」というような相互作用のことを示しています。
ここでいう「敵意」とは必ずしも直接的なものを意味するわけではありません。
例えば、岩壁(2009)によれば、「クライエントにフラストレーションを感じる」「クライエントのなかに好きな部分あるいは尊敬する部分を見つけられない」「クライエントの生活状況(環境)に関して怒りを感じる」なども含まれます。
選択肢⑤「クライエントが敵意を含んだ攻撃的な発言をしてくるのに対して、セラピストが同じ敵意を含んだ発言で応じること」はまさに上述した「負の相補性」を示しているため、こちらが本問題の正答となります。
選択肢の解説
①セラピストとクライエントが、お互いに過去の誰かに関する感情を相手に向けること
こちらの選択肢は「転移」「逆転移」について説明していると考えられます。
転移 transference
精神分析学の鍵概念で、過去の体験が現在の人間関係のなかに反復強迫的に持ち越されること。
出典:心理学辞典|有斐閣
学習の分野における「転移」と差別化を図るために、「感情転移」とも呼ばれています。
Freud, S(フロイト) が提唱した概念で「クライエントからセラピストに向けた言動で本来は過去の重要な誰かに対して向けるべきだった感情を反映しているもの」を意味します。
逆転移 counter transference は、反対に「セラピストからクライエントに対して向ける転移」で「クライエント側からの転移によってセラピストに引き起こされる感情」を意味します。
心理療法ではこのような転移ー逆転移の関係をうまく扱っていく必要があります。
②セラピストの働きかけに対して、クライエントがその方針に無意識的に逆らおうとすること
こちらの選択肢は「抵抗」について説明していると考えられます。
抵抗 resistance
心理療法の過程で患者にみられる現象で、専門的な援助は求めながらも、治療の手続や進行に反対しようとすること。指示に従わない、何も話すことはないと言う、議論をしようとする、治療者を喜ばせるような話ばかりをする、眠るなどのように、態度や言葉、行為に示される。
出典:心理学辞典|有斐閣
「抵抗」もフロイトが提唱した概念で、心理療法のなかで適切に扱っていく必要があるものです。
③セラピストが言葉で肯定的なことを言いながら態度が否定的なとき、クライエントが混乱を示すこと
こちらの選択肢はアンビバレント(両価的)な態度による混乱について述べているため、「ダブルバインド」を説明していると考えられます。
ダブルバインドとは、もともとはBateson, G(ベイトソン)による二重拘束理論 double bind theoryという親子関係のなかで愛情と敵意という矛盾したメッセージが発せられることで子どもが心的外傷にも似た影響を受けるという理論に基づいた用語です。
そこから広く使われるようになって、両価的(矛盾するどちらの意味とも取れるような)な態度のことを意味するようになりました。
④セラピストが問題の言語化を試み続ける中で、クライエントが行動によって問題を表現しようとすること
こちらの選択肢は「行動化」について説明していると考えられます。
行動化 acting out
精神分析など言語化を基礎とする心理治療において、記憶や態度や葛藤が、ことばによらずに行動で表現されることを行動化とよぶ。
出典:心理臨床大事典|培風館
行動化(アクティングアウト)は現在では、広く「葛藤の外在的な行動で表現すること」を示しています。
まとめ
- 負の相補性:セラピストとクライエントとの関係性で、怒りや敵意を含んだ言動の相互作用が生じて、結果として心理療法の中断に至ること。
- 転移:クライエントからセラピストに向けた言動で本来は過去の重要な誰かに対して向けるべきだった感情を反映しているもの
- 逆転移:セラピストからクライエントに対して向ける転移でクライエント側からの転移によってセラピストに引き起こされる感情
- 抵抗:心理療法の過程で患者にみられる現象で、専門的な援助は求めながらも、治療の手続や進行に反対しようとすること
- 行動化(アクティングアウト):記憶や態度や葛藤が、ことばによらずに行動で表現されること
-
前の記事
公認理師資格試験 過去問解説 問17 関与しながらの観察 2023.01.04
-
次の記事
公認理師資格試験 過去問解説 問19 産後うつ病について 2023.01.08
コメントを書く