公認理師資格試験 過去問解説 問141 事例問題 漂流理論(非行理論)
- 2023.07.10
- 公認心理師(第3回)
- 犯罪・司法, 第3回公認心理師試験
第3回公認心理師試験の過去問や正答は以下のサイトで入手可能です。
第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
公認心理師資格試験の過去問をしっかりと振り返ることで「自分に必要な知識は何か」を知るための手がかりとしてくださいね!
【公認心理資格試験】試験勉強の仕方。ブループリントに記載されている出題割合で勉強の範囲を狭めない方がいい理由について解説します!
問141
16 歳の男子 A、高校1年生。A は、友達と一緒に原動機付自転車の無免許運転をしていたところを逮捕され、これを契機に、教師に勧められ、スクールカウンセラー B のもとを訪れた。A には非行前歴はなく、無免許運転についてしきりに「友達に誘われたからやった」「みんな やっている」「誰にも迷惑をかけていない」などと言い訳をした。B は、A の非行性は進んでいるものではなく、善悪の区別もついているが、 口実を見つけることで非行への抵抗を弱くしていると理解した。
B が A の非行を理解するのに適合する非行理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① A. K. Cohen の非行下位文化理論
② D. Matza の漂流理論
③ E. H. Sutherland の分化的接触理論
④ T. Hirschi の社会的絆理論
⑤ T. Sellin の文化葛藤理論
出典:第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
選択肢の解説
① A. K. Cohen の非行下位文化理論
非行下位文化理論とは、コーエンによって提唱された「非行の原因=所属する環境」とした理論です。
ここでいう下位文化とは、「サブカルチャー」とも呼ばれていますが、「社会における下位集団に固有の思考や行動様式」のことを意味します。
下位集団とは、本来は下層階級という意味ではなく、社会自体を最も上位とした時の社会内の小集団を指しますが、理論が構築された当初は非行に関していえば社会的な下層階級を想定されていました。
つまり、下層階級に属する少年は社会的に不利な立場から、「上層階級がつくった規範体系に対して反抗する形で反社会的な行動をとる」あるいは「生きるために反社会的な行動が必要だった」と考えられていたことになります。
現代的には、必ずしも社会的な立場の低さのみでなく、非行少年という集団内でのアイデンティティを確立させるためといった要素も含まれてきます。
すなわち、非行下位文化理論とは、非行少年を所属する下位文化(≒環境(経済状況・所属する集団の価値観))で説明した理論といえますね。
本問題では、Aがこのような非行と関係する下位文化に所属しているかどうかが明らかではないため、不適切と考えられます。
② D. Matza の漂流理論
漂流理論とは、マッツァによって提唱された非行理論で、「非行の原因=逸脱行動の合理化(自由意志)に基づく行動」とした理論です。
マッツァの漂流理論をわかりやすく説明すると、非行少年は規範遵守と逸脱行動の間を漂流(一時的に行ったり来たり)している状態であり、何らかの理由により逸脱行動が合理化されることで逸脱行動が生じるという理論になります。
逸脱行動が合理化されるには主に以下の2点が挙げられています。
- 罪責の否定(negation of offence):自分には責任がないという感覚
- 不正義の感得(sense of injustice):司法のやっていることが不正義だという感覚
つまり、たとえば「自分には責任がない」と言って、自分の所属する集団の他の人間もやっているなど外的な要因を自分の行動の原因に帰属させることや、裁く方の社会や組織に批判を寄せるなどによって、規範を逸脱したことへの合理化をすることで非行への抵抗を弱くするということです。
本問題では、Aは自分の行動の原因を他者に帰属させており、こちらの漂流理論が適合していると考えられます。
③ E. H. Sutherland の分化的接触理論
分化的接触理論とは、サザーランドが1930年代に提唱した古典的な理論で、「非行の原因=環境からの学習」という理論です。
サザーランドによれば、非行は特別な行動ではなく、日常的な行動と同じように学習されるとあり、逸脱行動を起こすか否かの違いは、逸脱行動を許容する文化に触れていたかどうかの差であるとしました。
分化的接触理論は社会学と心理学を織り交ぜた犯罪・非行理論でしたが、逸脱行動を許容する文化と接触していても逸脱行動を起こさない者が存在することなどを説明できず、この理論をもとにさまざまな非行理論が発展していったという背景があります。
④ T. Hirschi の社会的絆理論
社会的絆理論は、ハーシが提唱した非行理論で、「非行の原因=社会との絆が弱くなったこと」としています。
ハーシによる社会的絆には以下の4つが含まれます。
- アタッチメント(Attachment)
- コミットメント(Commitment)
- ビリーフ(Belief)
- 巻き込み(Involvement)
アタッチメントとは「感情による絆」で、家族・仲間・学校など愛着を感じる対象の期待を裏切らないようにするものを指します。
コミットメントとは「投資」を意味し、自分が今までに社会生活で積み上げてきたもの(勉強・信頼)などによる社会との絆を指します。
ビリーフとは「規範観念」を意味しています。
巻き込みは「日常的な活動への忙殺」を意味し、日常的な活動に忙殺される程度が強いほど非行に至りにくいとされています。
ハーシによる社会的絆理論では、これらの社会的絆があることによって、非行が抑制されるとされます。
⑤ T. Sellin の文化葛藤理論
文化葛藤理論はセリンによって提唱された理論で、「非行の原因=異なる文化間の接触と葛藤」としたものです。
こちらもサザーランドの分化的接触理論と関連するものであり、異なる文化的な背景を持つ集団同士が混ざり合ったときに、優先的な規範とそうでない規範とが生じ、劣勢な規範をもつ文化圏のものが非行や犯罪に至るという内容になります。
社会学的な色合いが強い理論といえますね。
まとめ
非行理論について、以下の観点を押さえておきましょう。
- サザーランド 分化的接触理論 :非行の原因=環境からの学習
- コーエン 非行下位文化理論 :非行の原因=所属する環境
- セリン 文化葛藤理論 :非行の原因=異なる文化間の接触と葛藤
- マッツァ 漂流理論 :非行の原因=逸脱行為の合理化に基づく行動
- ハーシ 社会的絆理論 :非行の原因=社会的絆の弱まり
-
前の記事
公認理師資格試験 過去問解説 問140 事例問題 取り繕い反応 2023.07.07
-
次の記事
公認理師資格試験 過去問解説 問142 事例問題 器質的疾患の疑い 2023.07.12
コメントを書く