心理学におけるエビデンスに基づく実践について(EBPP):EBM、EBP
- 2021.01.18
- 臨床心理士 / 公認心理師
- 若手心理職・大学院生
- EBM、EBPってなに?
- エビデンスについて、心理職はどう捉えて、どう活かしていけばいいの?
今回の記事は、こんな疑問に答える内容になっています。
「エビデンス(evidence)」とは、本来「根拠」や「証拠」を意味する英単語です。
近年では、心理療法に対してもこのエビデンスという言葉がよく聞かれるようになりました。
大学や大学院、心理職として勤務するなかで、「エビデンスのある新しい心理療法」の研修などを受けると、技法にクライエントさんを当てはめがちになってしまうことはよくあることかと思います。
この記事では、「エビデンス・ベースド・メディスン(EBM)」「エビデンス・ベースド・プラクティス(EBP)」の考え方を解説していきます。
この概念を整理することで、いま一度、「エビデンス」に関する考え方が整理できるきっかけになればと思います。
エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)
エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine:以下EBM)について、まずは厚生労働省による解説を見ていきましょう。
EBMとは、最良の「根拠」を思慮深く活用する医療のことです。EBMは、たんに研究結果やデータだけを頼りにするものではなく、「最善の根拠」と「医療者の経験」、そして「患者の価値観」を統合して、患者さんにとってより良い医療を目指そうとするものです。
この説明にあるように、EBMとは、治療に対する「エビデンス(根拠)」を念頭に起きつつ、「医療者の経験」、「活用できる資源」や「患者さん自身の価値観」を総合して、治療の意思決定を行っていくことを意味する概念です。
つまり、「この疾患(症状)に対してはこの治療」と一対一対応で決定することを意味しているのではなく、「エビデンス」を重要視しつつも複数の要素を総合的に判断して治療方法の選択を行っていくことを意味しています。
EBMは主に医療領域(医師による治療)の概念であり、医師以外のいわゆるコメディカルや教育領域では「根拠に基づく実践(Evidence-Based Practice :EBP)」と呼ばれます。
根拠に基づく実践(EBP)は伝統的に3つの基本原則をまとめた「三本足の椅子(スツール)」の観点から定義されている。
すなわち、
(1)ある治療が効くのかどうか、またなぜ効くのかについての入手可能な最良の研究エビデンス、
(2)それぞれの患者固有の健康状態と診断、それらに対して取りうる介入の個々のリスクと利益をすばやく特定する臨床的専門知識(臨床的判断と経験)、
(3)クライアントの好みと価値観、 の3つである。
基本原則をみても、「エビデンス(根拠)」「臨床的な判断」「クライエントの価値観」など、EBMと重複している部分が多くあることがわかります。
エビデンスのレベル
EBM/EBPでも重要視される「エビデンス(根拠)」には、妥当性の高さや研究報告の質によってレベルの違いがあるとされています。
諸説ありますが、エビデンスのレベルには概ね以下のようになっています。
エビデンスのレベルはそれぞれの研究の目的(リサーチクエスチョン)によって異なっているため、ここで紹介したのはあくまで治療方法(介入方法)の研究に関するエビデンスのレベルということを誤解しないようにしましょう。
アメリカ心理学会(APA)は、1990年代はじめにEBM/EBPが提唱されてから、実証的研究/経験的に支持された治療(Empirically Supported Treatments :ESTs)の作成に着手するようになりました。
ESTsとは、簡単にいうと、「エビデンスのある精神療法(心理療法)の一覧」を意味します。
APAが提唱したESTsは一般の臨床家から様々な批判があり、議論も多くされました。
批判の概要は以下の通りです。
・ESTsで作成されたマニュアルは、シンプルな症状を想定されたもので、複雑な症状に対して使用しづらい。
・ESTsのエビデンスが示されたような研究と同じ構造で実施することは難しい。
ESTsの運用は、「A症状に対してB療法」といった「エビデンスのある治療方法のみを選択しよう」といった誤解を生みやすいということが批判や議論の中心だったようです。
このような議論を経て、2006年にAPAは「心理学におけるエビデンスに基づく実践(EBBP)」のガイドラインを公表しました。
ガイドラインの内容を引用して紹介します。
“Evidence-based practice in psychology (EBPP) is the integration of the best available research with clinical expertise in the context of patient characteristics, culture, and preferences.”
「心理学におけるエビデンスに基づく実践 (EBPP)とは、患者の特徴、文化、および志向性という枠組みのなかで得られる最新最善の研究エビデンスと臨床上の判断を統合させたものをいう。」
ポイントは、エビデンスを念頭に起きつつ、クライエントの特徴、文化要因や価値観といった枠組みも踏まえた臨床的な判断によって、実施するカウンセリング/心理療法の選択を行っていくということです。
要するに「心理学におけるエビデンスに基づく実践(EBPP)」も、EBMやEBPの基本的な原則と同じで、「エビデンス(根拠)」は重要視するが、必ずしもエビデンスのみにこだわらずに、クライエントの様々な要因を加味して実施する介入方法を選択してくださいね、ということなのだといえます。
EBPPの定義のもつ意義は、一つには実践家は必ずしも治療マニュアル通りに機械的に臨床をおこなう必要が無く、エビデンスに基づいた上で実践家としての裁量権をもつことが確認されたことである。
出典:三田村・武藤(2012)
マニュアルを一言一句字義通りに進めるのではなく、クライエントさんのニーズや価値、臨床家の裁量によって最善の選択をして心理療法を進めていく必要があるということですね。
この臨床家の裁量をうまく活用するためにも、エビデンスに関する知識や技法の習得はもちろんのこと、日々の実践で経験を積んでいくことが必要なのだと思われます。
まとめ
この記事では、「エビデンスに基づく医療(EBM)」、「エビデンスに基づく実践(EBP)」、「心理学におけるエビデンスに基づく実践(EBPP)」の概念を紹介して整理してきました。
いずれの概念でも、エビデンスは重要視しますが、医療者(臨床家)の裁量、患者(クライエント)の資源、価値観、背景要因を総合的に考慮して、治療方法(介入方法)を選択することが重要だと示されています。
また、この判断力を身につけるために、エビデンスに基づく介入方法を身につけることや日々の研鑽を積むことが重要だと考えられます。
アメリカ心理学会の以下のリンク先で、エビデンスのある精神療法(心理療法)について調べることが可能です。
各疾患(診断名、状態)と有効な治療(精神療法/心理療法やそれ以外)、主要な参考文献などが記載されています。
当ブログでも今後、疾患別のESTsを紹介していく予定ですが、是非ご一読してみてください。
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