【心理療法】EMDRはどんな心理療法?EMDRの概要と適応的情報処理モデルについて解説!

【心理療法】EMDRはどんな心理療法?EMDRの概要と適応的情報処理モデルについて解説!

トラウマのカウンセリングは難しい。もっと対応できる方法があれば…

若手の臨床家の方は一度はこんな想いや無力感を抱いたことがあるのではないでしょうか。

 

トラウマに悩んでおられる方のカウンセリングは、クライエントさん・臨床家どちらにとっても困難さを感じやすく、ともすれば辛さが増えてしまうこともあるなど、カウンセリングを実施する際には適切な知識が必要となります。

 

今回はトラウマの心理療法のなかでもEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)の概要についてまとめました。

 

こんな人におすすめの記事となっています!

  • トラウマ治療に興味・関心があり、EMDRについて知りたい人
  • EMDRがどんな心理療法なのか知ってから臨床に取り入れたい人
  • EMDRを受けてみたい人

EMDRとは

 
EMDRってどんな心理療法なの?

この疑問に答えるために、まずはEMDRについて、日本EMDR学会のホームページを見てみましょう!!

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、エビデンスのある心理療法です。

(中略)

この治療アプローチでは、過去経験、現在の引き金、未来の潜在的挑戦をターゲットにし、現在の症状を緩和し、苦痛な記憶からストレスを減じたり、除いたりし、自己の見方が改善し、身体的苦痛から解放され、現在と未来の予測される引き金が解決するのです。

出典:EMDRとは|日本EMDR学会

 

この文章だけでは難しい・・・。ので、簡単に?まとめてみました!

 

EMDRの概要!
  • EMDRはFrancine Shapiro(シャピロ)先生が開発したPTSDに対してエビデンスが示されている心理療法です。
  • トラウマ的な記憶と結びついた否定的な認知情動身体感覚をターゲットとして、両側性の刺激による脱感作両側性の刺激を使用しながら、繰り返しトラウマ的な記憶に曝露することで、記憶と否定的な認知・情動・身体感覚の結びつきを弱めていくを行う技法です。
  • 両側性の刺激とは、両側(右脳と左脳)へ交互に刺激を与えることをいい、Eye Movementと冠されているように、「眼球運動」が代表的とされています(他には「音」、「タッピング」などがあります)。
  • EMDRの標準的なプロトコルは8段階あります。
  • いくつか種類があるトラウマの心理療法のなかでも、①トラウマについて詳細に話すことが少ない②比較的短期間での改善が見込まれるという点が特徴的です。
  • EMDRを実施するには、日本EMDR学会認定の正式なトレーニングを修了する必要があります。

 

EMDRは、トラウマ記憶を思い浮かべてもらいながら両側性刺激(眼球運動、音、タッピングなど右脳と左脳交互に加わる刺激)を加えることで、トラウマ記憶の強い反応を抑えつつ記憶と結びついたネガティブな考え・気持ち・身体の感覚の修正を図っていく技法といえます。

 

キーワードトラウマ、否定的な認知、情動、身体感覚

両側性刺激(眼球運動・音・タッピング)による脱感作と再処理

クライエントさんに負担の少ない心理療法の1つ

 

EMDRの概要を知るためにわかりやすい本。トレーニングを受ける前の臨床家・院生EMDRを受けてみたい方におすすめ📘

適応的情報処理モデル

 
トラウマ的な記憶って何?

 

この疑問に答えるために、まずはEMDRが準拠している適応的情報処理モデル(Adaptive Information Processing Model:AIP)を紹介します!

適応的な情報処理とは、われわれの脳が本来もっている情報処理過程であり、否定的な記憶に何度もアクセスし、考えたり、人に聞いてもらったり、夢に見たりしながら、原因や対処を考え、徐々に冷静さを取り戻し、やがては、さほど気にならない出来事にまで動かしていく過程である。

(中略)

PTSDのような病気の状態は、この過程がどこかで阻害され、自身の力ではもはや適応的解決には至れない。何度アクセスをかけても、映像も感情も鮮明なままで、理不尽さのみが意識され、対処方略が浮かばず、自責や運命を呪うような認知に支配されている状態である。

出典:市井雅哉(2012). EMDR-PTSDに効果的な心理療法, Jpn J Psychosom Med, 52, 819-827.

 

文章だけだとイメージが掴みにくいので、イラストを用いて説明していきます!

適応的な記憶のネットワーク

適応的情報処理モデルでは、記憶はネットワークを構成しており(適応的な記憶のネットワーク)、お互いに関連し合っていて必要なときに取り出すことができると仮定しています。

 

そして、なにか「嫌なことが起きたとき」には、「嫌な記憶」と「適応的な記憶のネットワーク上にある他の肯定的な記憶」を交互に繰り返しアクセスしながら、嫌な記憶を“さほど気にならない出来事”に処理していきます。

 

これが通常の適応的な情報処理とされていて、PTSDやトラウマに関連した症状は、この適応的な情報処理がうまくいっていない状態としています。

 

トラウマは適応的な記憶のネットワークにアクセスできない

EMDRのなかでは、トラウマ記憶を「冷たい記憶」とか「凍った記憶」と表現することが多いです。

 

つまり、まるで凍ってしまったかのように、トラウマ的な体験をした当時の映像や情動がそのままの形で鮮明に残っているとされています。

 

先ほど説明した適応的な記憶のネットワークとは別の形で貯蔵されるため、他の肯定的な記憶とアクセスすることができず、適応的な情報処理がうまく進んでいきません。

 

EMDRでは適応的な記憶のネットワークを活性化させることでトラウマ記憶の処理を促進する

EMDRでは、両側性刺激によって適応的な記憶ネットワークを活性化させることで、この凍ってしまったかのようなトラウマ記憶と適応的な記憶ネットワークとの繋がりを戻して、交互にアクセスできるように導き、適応的な情報処理を再開させることを目指す心理療法です。

 

参考文献

市井雅哉(2012). EMDR-PTSDに効果的な心理療法, Jpn J Psychosom Med, 52, 819-827.

三島・森(2020). EMDR で用いる「安全な場所」エクササイズに関する研究-触覚刺激が自律神経に与える影響から手続きを検証する-, 甲南大學紀要.文学編, 170, 139-149.

吉川久史(2016). 眼球運動が自伝的記憶の想起に与える影響, 兵庫教育大学連合大学院博士論文.

EMDRについての疑問

 

 

EMDRってどこで受けることができるの?

 
EMDR学会のホームページでEMDRが実施可能な治療者リストを見ることができます!
 

EMDRは日本EMDR学会による正式なEMDRトレーニングを修了した臨床家が実施することが可能な心理療法です。

 

トラウマ治療のなかでは苦痛度が低いという触れ込みではありますが、扱う題材が題材だけに強い苦痛を伴う可能性があるため、専門のトレーニングを受講している臨床家のみ実施が許可される心理療法と位置づけられています

 

このブログを見てEMDRのメカニズムがわかったとしても、トラウマによる強い除反応(トラウマ体験に対する反応)が生じる可能性が高く、トレーニングを受けていない臨床家が実施するべきではありませんし、クライエントさん自身がセルフケアとして行うことも推奨されません

 

EMDR学会のリストに名前が記載されていなくてもトレーニングを修了している臨床家はいますので、「EMDRの臨床家資格」を有しているかどうかを問い合わせてみるといいでしょう。

 

 

EMDRを受ければトラウマはすぐに良くなるの?

 
EMDRには8つの段階があり、トラウマの処理(脱感作)までの準備段階が最も重要とされています。この準備段階が整うまでには、人によって個人差があるため、必ずしもすぐにトラウマが良くなるとは言い切ることはできません!

 

トラウマ体験を扱う心理療法であるため、トラウマ処理を行う土台となる適応的な記憶のネットワークがしっかりしている必要があります。

 

EMDRのトレーニングを受けた臨床家は、この準備段階が整うまでトラウマ処理の段階に進むことはしません。

 

このようなリソースには個人差があるため、準備段階に長い期間がかかる方もおられますし、比較的早い段階でトラウマ処理まで進む方もいらっしゃると思います。また、臨床家の判断によってはEMDR以外の他のカウンセリングが勧められることもあるかもしれません。

 

 

EMDRの臨床家資格を得たらトラウマのカウンセリングができるようになるの?

 
EMDRの臨床家資格を得ることと、クライエントさんが抱えるトラウマをうまく解決できるようになるかは別問題です。

 

EMDRのトレーニングを終了すれば、臨床上のカウンセリングでEMDRを使用することはできるようになります。

 

とはいえ、EMDRのプロトコルをマスターしていれば、クライエントさんが抱えるトラウマをうまく解決できるかというと必ずしもそういうわけではありません。

 

トラウマに対するカウンセリングを行うためには、各種さまざまな知識や技術に加えて、ある程度の経験が必要だと思われますし、カウンセリングの基本的な態度が身についていないことにはトラウマという難しい課題をうまく扱うことができないでしょう。

 

EMDRはあくまでトラウマに対するエビデンスの示された1つの心理療法であり、EMDRが全ての選択肢ではないという認識が重要です。

 

心理療法のエビデンスに関する考え方はこちら💁‍♂️

まとめ

今回の記事では、トラウマに対する心理療法の1つであるEMDRの概要についてまとめました。

 

記事の中でもあげたように、トラウマを扱うということは臨床家にとってもクライエントさんにとっても困難さを感じやすく、ともすれば苦痛が増加する可能性もあり得ます。

 

適切な知識を得たうえで、しっかりとトレーニングを受けた専門家によるカウンセリングを受けることを強くお勧めします。

 

また、臨床家はEMDRはあくまでトラウマに対するエビデンスの示された心理療法の1つであるという意識を忘れずに、クライエントさんにあったカウンセリングの手法を選択できるようにしなければいけないと思われます。

 

トラウマに関する知識はこちらもご参考にしてください💁‍♂️

【若手臨床家向け】実践的な内容を学びたいのであれば専門雑誌を読むのがオススメ!