摂食障害(AN、BN、 BED)に対してエビデンスの示されている心理療法
- 2021.01.21
- 臨床心理士 / 公認心理師
- エビデンス, 心理療法, 摂食障害
この記事では、以前紹介したESTsのなかから、特に摂食障害に関するエビデンス が示された心理療法に関して紹介します。
ESTsやエビデンスに関しては、以下の記事をご覧ください。
今回紹介するのは、
- 神経性やせ症(Anorexia nervosa)
- 神経性過食症(Bulimia nervosa)
- 過食性障害(Binge Eating Disorder)
に関してエビデンスが示されている心理療法についてです。
以前、Twitterでも紹介しましたが、摂食障害を抱える方に対する心理療法は中断率が高いといわれています。
精神療法のドロップアウトについての論文。
療法間に差はないけど、見通しが持てないとドロップアウト率は高い。
中断となったケースと向き合って、その要因を考えることって、大切だなとあらためて認識しますよね。
Drop‐outs in psychotherapy: a change of perspective https://t.co/wRB4QMvbxl
— Yamashun@臨床心理士/公認心理師 (@igknowledge_ys) January 14, 2021
少なくとも心理職側がエビデンスのある心理療法を把握しておくことで、適切な対応をおこなったり、症状克服までの見通しを説明できることが大切です。
今回は、認知行動療法、家族療法をメインに紹介します。
APAのリストのなかには載っていないですが、イギリスのNICEガイドラインではMANTRA(Maudsley Anorexia Nervosa Treatment for Adults)などもエビデンスが示されています。
このあたりもいずれ記事にして紹介していこうと思います。
摂食障害に対してエビデンスの示されている心理療法
以下に記載するのはアメリカ心理学会(APA)によるAnorexia Nervosa|Society of Clinical Psychologyにあるリストです。
こちらのリストはやや古く、Chambless et al., 1998による「確立された治療法( “well-established”)」の基準を満たしていれば「強い」を意味するStrong、「おそらく有効性がある治療(“probably efficacious treatments.”)」の基準を満たしていれば「控えめ」を意味するModestと記載されています。
和訳されている心理療法に関しては和訳を載せていますが、和訳がしっかりとされていない心理療法に関しては英語表記のまま記載しています。
心理療法 | エビデンス | |
---|---|---|
神経性やせ症 | 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy ) | Modest |
神経性やせ症に対する家族療法
(Family Based Treatment:FBT) |
Strong | |
神経性過食症 |
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy ) | Strong |
神経性やせ症に対する家族療法
(Family Based Treatment:FBT) |
Modest | |
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT) | Strong | |
Healthy Weight Program
|
再検討中 | |
過食性障害 |
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy )
|
Strong |
対人関係療法(Interpersonal Psychotherapy:IPT)
|
Strong |
摂食障害に対する認知行動療法
摂食障害に対する認知行動療法は、通常は充分な体重増加が得られているときに行われることが想定されています。
これは、
①心の問題よりも命に関わる身体的な問題が優先されること
②低体重時は摂食障害の心の問題が強く出ており、適切な体重増加により症状の緩和が見込まれること
が関係しています。
ブログ主も実際に摂食障害を抱える方の対応をすることが多いですが、個人差がありますが経験的にはBMI=14が心理療法が可能なボーダーラインであると感じています。それ以下の身体状態ですと、やはり心理療法よりも身体の栄養状態の改善が優先されるべきでしょう。
摂食障害に対する代表的な認知行動療法として、Fairburn先生が提唱したCBT-enhanced(CBT-E)があります。
以下の書籍には、神経性過食症、神経性やせ症、BMIが極度に低い症例など、摂食障害の病態に対応したCBT-Eの進め方の詳細が書かれています。
また、 平成29年度に国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターで作成された「神経性過食症」に対する認知行動療法のマニュアルをインターネット上で手に入れることが可能です。
摂食障害に対する認知行動療法は、非常にしっかりとマニュアル化されているのですが、クライエント・セラピスト双方ともに強い治療意欲と根気が必要なため、中断せずに最後までやり切ることがなかなか大変な印象を受けます。
認知行動療法の詳細は以下の論文に紹介されているので、是非一読してみてください。
平出麻衣子(2019). 摂食障害の治療. 女性心身医学, 24(2), 144-148.
神経性やせ症に対する家族療法(Family Based Treatment:FBT)
Active and structured family involvement in the treatment of adolescents suffering from anorexia nervosa significantly increases the likelihood of positive treatment outcomes.
出典:Family-Based Treatment for Anorexia Nervosa|Society of Clinical Psychology
FBTは、神経性やせ症を抱えるクライエントの家族が積極的に構造化された関わりをすることが、摂食障害の症状に対して効果的であるという大前提にのっとりマニュアル化された心理療法となります。
家族療法と近い部分もありますが、構造化されている部分なども含めると、家族療法・認知行動療法・家族に対する心理教育などの多くのエッセンスが複合された心理療法といえるでしょう。
以下の書籍はFBTの邦訳版となります。
まとめ
今回は、APAのエビデンスの示された心理療法のなかから、摂食障害(神経性やせ症・神経性過食症・過食性障害)のリストを紹介しました。
今回紹介した認知行動療法やFBTは摂食障害の中核症状(肥満恐怖・やせ願望・ボディイメージの障害)を扱うことが可能な構造化された心理療法です。
もちろん、この他にも、中核症状でない部分(対人関係や自己価値など)もあるため、クライエントさんの症状や治療の段階により、効果的な心理療法が異なってくることも考えられます。
摂食障害は精神科の疾患のなかでも身体的な要因が強く絡むため、心理療法が難しい部分があります。エビデンスの示された心理療法について知識を持っておくことは重要となるでしょう。
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