公認心理師資格試験 過去問解説 問48 認知機能・感情・社会性の発達「心の理論」
- 2021.06.16
- 資格試験
- 発達, 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問48】心の理論
問48 「心の理論」について、不適切なものを1つ選べ。
① 自他の心の在りようを理解し把握する能力である。
② 標準誤信念課題によって獲得を確認することができる。
③ D. Premackがヒトの幼児の発達研究を通して初めて提案した。
④ 「信念-欲求心理学」の枠組みに基づき、人々の行動を予測すると考えられている。
③ D. Premackがヒトの幼児の発達研究を通して初めて提案した
となります。
心の理論
心の理論とは、いろいろな心的状態を区別したり、心の働きや性質を理解する知識や認知的枠組みをいう。
出典:心理学辞典|有斐閣
心の理論は、自分や他人の行動を予測・説明をするために必要とされる心の働きに関する知識や枠組みを意味しています。
心の働きに関する知識のなかには、感情・信念・意図などが含まれており、このような知識に基づいて現在の心の状態を推測することが可能となると考えられています。
心の理論は、D. Premack プレマック とG. Woodruff ウッドラフ(1978)が、チンパンジーなどの霊長類を対象とした研究を発端として、『Does the chimpanzee have a theory of mind?(チンパンジーは心の理論をもつか?)』という論文で提唱した理論になります。
その後に、乳幼児の発達研究へと広がり、現在では発達研究の文脈で語られることが多い概念といえます。
乳幼児を対象とした心の理論研究の文脈では、心の理論=「自分と異なる他人の考えや行動を推測する能力」と想定しており、「誤信念課題(Wimmer & Perner, 1983)」によって獲得できているかどうかが検討されます。
通常、4歳以降で心の理論を獲得するとされていますが、現在では「4歳以下で心の理論が獲得できない」という確固たる証拠もないため、4歳未満が心の理論を獲得できていないと言い切ることもできない状況となっています。
選択肢の解説
① 自他の心の在りようを理解し把握する能力である
先ほど説明したように、
とされています。
つまり、自分や他人の心の状態を推測するための前提となる考え・感情などの知識や、このような状況で相手は〇〇と考えるというような枠組みをさしています。
人は獲得された心の理論に基づいて、自分や相手の心情を推測するというわけです。
そのため、選択肢①「自他の心の在りようを理解し把握する能力である」は正しいといえ、問題の回答としては不適切となります。
② 標準誤信念課題によって獲得を確認することができる
誤信念課題を簡単に説明すると、他人が自分とは異なった誤った信念を持っていることを理解しているかどうか確認する課題といえます。
代表的な誤信念課題には以下の種類があります。
- マクシ課題(Wimmer & Perner, 1983)
- サリーとアン課題(Frith, 1989)
- スマーティ課題(Perner et al, 1985)
特にサリーとアン課題は日本で有名な誤信念課題となっています。
実験では、被験児に対して、人形を使って実演をしたり、ビデオやイラストを使用したりして、以下のような物語を聞かせ、いくつかの質問を行う。
「サリーは、かごにビー玉をしまって、外に遊びに行きました。そこにアンがやってきて、かごからビー玉を取り出し、箱に移しました。そして外に出て行きました。しばらくして、サリーは外から戻ってきました。サリーはビー玉で遊びたいと思いました。」という物語を話し、「サリーは、箱とかごのどちらをさがしますか(どちらに入っていると思っていますか)?」と質問する。この課題は、サリーはビー玉がかごから箱に移されたことを知らないので、「かごをさがす」が正答である。現実には、ビー玉は箱の中にあるけれども、サリーはそれを知らないので、現実とは異なる誤った信念(ビー玉はかごに入っていると思い込んでいる)を持っていることを推測できれば、正答できるのである。一方、被験児が知っている現実にある場所を答えてしまうと、不正解になる。
出典:佐久間路子(2017). なぜ3歳児は誤信念課題に正答できないのか -第 2 世代の心の理論研究の概観から-, 白梅学園大学・短期大学紀要, 53, 1-14.
このように誤信念課題では、自分の見ている世界と他人の見ている世界が異なっていることを理解したうえで、他人の状況を踏まえた行動を推測することが求められます。
そのため、誤信念課題では、自分・他人の心的状態を推測するための知識や認知的な枠組みである「心の理論」の獲得を測定するものとされてきています。
以上のことから、選択肢②「標準誤信念課題によって獲得を確認することができる」は正しいといえ、問題の回答としては不適切となります。
③ D. Premackがヒトの幼児の発達研究を通して初めて提案した
心の理論は現在では乳幼児の発達研究の枠組みで話題となることが多いですが、先ほど説明したようにもともとは霊長類学者であるD. Premack プレマックがチンパンジーの研究を通して提唱した理論となります。
その後、Wimmer ヴィマーと Perner パーナーが「マクシ課題(誤信念課題)」を開発することで、乳幼児の発達研究に登場するようになってきたという経緯があります。
そのため、選択肢③「D. Premackがヒトの幼児の発達研究を通して初めて提案した」は、「ヒト」ではなく「チンパンジー」が正しいといえるため不適切で、問題の回答としては正答となります。
④ 「信念-欲求心理学」の枠組みに基づき、人々の行動を予測すると考えられている
こちらの選択肢について考えるには、「心の理論」を説明する2つの立場について知っておく必要があります。
- Wellman ウェルマン
- Perner パーナー
この記事では詳細は割愛しますが、両者とも非常に難しい概念で「心の理論」の説明を試みています。
両者のうちウェルマンの立場は以下の通りです。
「心の理論」における因果的説明の枠組みとは、「信念一欲求推論シェマ (belief― desire reasoning schema)」 であり、われわれは行為者の意図や心理状態を推論するために、信念一欲求心理学を持っていると考える。
出典:木下孝司(1993). 幼児期の「心の理論」に関する論争をめぐって(II) : 4歳ころにみられる変化を中心に, 静岡大学教育学部研究報告. 人文・社会科学篇, 43, 193-212.
ウェルマンは、2歳頃には「ある外的な対象を欲している」という欲求を理解することが可能[欲求心理学]で、この欲求心理学に基づいて単純な行動であれば推測することができると考えました。
また、3歳頃には、単純な欲求のみでなく、個人の持つ考え方も個人の行動につながることを理解して、さらに複雑な行動についても予測できるとしています。この認知的な枠組みのことを信念-欲求心理学と呼びました。
一方で、パーナーは、1歳頃は目に見える現実に即した状況のみを理解する[一次表象]、2歳頃には目に見える現実以外の状況も保持することが可能になり、過去や仮定について理解が及ぶようになる[二次表象]と考えています。
そして、4歳頃には、心的な状態を理解できるというメタ表象の水準に発達していくと主張しました。
この両者の立場はお互いに議論を繰り返しつつも、はっきりとした結論までは導かれていません。
(現在の理解としては、パーナーの立場がやや優勢のようにも見えますが…)
よって、選択肢④「「信念-欲求心理学」の枠組みに基づき、人々の行動を予測すると考えられている」は、ウェルマンの立場を示す正しい記述といえますので、問題の回答としては不適切となります。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問48は、心の理論に関する問題でした❗️
ポイントは以下の通りです。
- 「心の理論」は、D. Premack プレマック とG. Woodruff ウッドラフによって、チンパンジーの研究を通して提唱された。
- 誤信念課題が開発されるなかで、乳幼児の発達研究が進むようになった。
- 日本で最も有名な誤信念課題はサリーとアンの課題である。
- 「心の理論」は、4歳頃に獲得されるとされているが、4歳以下で獲得できないという検証もされていない。
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