公認心理師資格試験 過去問解説 問43 可視的差違について
- 2021.05.30
- 資格試験
- 第3回公認心理師試験
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第3回公認心理師試験(令和2年12月20日実施)|一般社団法人日本心理研修センター
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【問43】可視的差違
問43 口唇裂口蓋裂、皮膚血管腫、熱傷などによる可視的差違がもたらす心理社会的問題について、最も適切なものを1つ選べ。
① 家族への依存性が強くなるため、社会的ひきこもりとなることが多い。
② 可視的差違は、子どもの自尊感情の低下を招くリスク要因にはならない。
③ 可視的差違を有する子どもの多くは、年齢に応じた心理社会的発達を遂げることが難しい。
④ 家族や友人だけではなく、広く社会一般の反応や受容の在り方は、子どもが可視的差違に適応していくに当たり重要な要因となる。
④ 家族や友人だけではなく、広く社会一般の反応や受容の在り方は、子どもが可視的差違に適応していくに当たり重要な要因となる
となります。
可視的差違
身体の外表にある顔やその他の部位にある観察可能な他者との違いのことを可視的差違あるいは可視的変形といいます。
可視的差違は、社会的・文化的な慣習は除く他者から見てわかる容姿の違いをさしているため、ピアスや刺青などは含まれないとされます。
傷害や疾患などが原因で引き起こされ、大きく先天性と後天性に分けられます。
先天的な可視的変形の代表例は400人〜600人に1人の割合で出生するといわれている口唇裂・口蓋裂であり、後天的な可視的変形の代表例は火傷である。
出典:深谷・ 岩滿(2018)可視的変形者に対する一般人の評価と認識ー写真刺激を用いてー, ストレス科学研究, 33, 21-31.
可視的差違を有する方の多くが心理社会的な苦痛を感じているとされ、松本学(2008)によると以下のような影響が指摘されています。
- 自尊感情の低下や社会不安抑うつ
- 自殺企図
- 心理的苦痛に関する問題
- 対人関係の回避
- 他者への過剰反応
- 攻撃性
- 容姿が原因のいじめ
- 婚姻率の低さ
- 職業満足度の低さ
出典:松本学(2008).Visible Differenceにまつわる心理的問題-その発達的理解と支援-, 心理学研究, 79(1), 66-76.より抜粋
このような心理社会的問題が生じる最も大きな要因としては、対人魅力・印象形成に関連する影響が考えられており、養育者との関係性を含む当事者の方の周囲を取り巻く環境や社会・文化的な要因によって、以下のような問題に発展していく可能性があります。
- 否定的な自己概念の問題
- 社会的ひきこもり≒社会的場面を回避することにより適応状態の悪化やコミュニケーション能力の低下
このような心理社会的問題に対する介入としては、ソーシャルスキルトレーニングや認知行動療法が行われますが、個人的要因だけでは介入が不十分であり、幅広い支援が必要とされています。
選択肢の解説
① 家族への依存性が強くなるため、社会的ひきこもりとなることが多い。
先程も説明したように、可視的差違を有する方たちにとって、社会的ひきこもりへと発展するリスクは大きな問題とされています。
可視的差違に対する他者の反応から否定的な自己概念が作られることによって、社会状況での不安が強くなるため、回避行動として社会的な状況を回避するようになることが多いといわれています。
家族との関係性は可視的差違を有する方にとって、自己概念の形成などで重要な影響を与えますが、家族への依存性から社会的ひきこもりにつながっていくという知見は得られていません。
そのため、選択肢①「家族への依存性が強くなるため、社会的ひきこもりとなることが多い」は不適切といえます。
② 可視的差違は、子どもの自尊感情の低下を招くリスク要因にはならない。
可視的差違の大きな影響として、否定的な自己概念の問題があります。
児童期では、可視的差違への周囲の無理解によって、いじめなどの問題が生じることが多いとされています。
いじめのような対人関係上の問題によって,肯定的な自己概念も容易には形成できない状態になる可能性がある(Broder & Strauss, 1989)。
出典:松本学(2008).Visible Differenceにまつわる心理的問題-その発達的理解と支援-, 心理学研究, 79(1), 66-76.より抜粋
いじめなどの対人関係上の問題や児童期・青年期のアイデンティティ確立に際して自分自身でも周囲との違いを感じることで、自尊感情が低下することは多く、「自尊感情の低下」は可視的差違の大きな心理社会的問題とされます。
そのため、選択肢②「可視的差違は、子どもの自尊感情の低下を招くリスク要因にはならない」は不適切といえます。
③ 可視的差違を有する子どもの多くは、年齢に応じた心理社会的発達を遂げることが難しい。
乳幼児期、児童・青年期、成人期など、それぞれの発達段階に応じたリスク要因はありますが、年齢に応じた心理社会的発達を遂げることが難しいという知見はありません。
そのため、選択肢③「可視的差違を有する子どもの多くは、年齢に応じた心理社会的発達を遂げることが難しい」は不適切といえます。
④ 家族や友人だけではなく、広く社会一般の反応や受容の在り方は、子どもが可視的差違に適応していくに当たり重要な要因となる。
これまで説明してきたように、可視的差違を有する方にとっての大きな問題は『否定的な自己概念形成』と『社会的状況への回避』が挙げられます。
そして、どちらも『対人関係上の問題』を発端にして生じていくことが多いとされます。
この対人関係上の問題に影響を与えるのが『対人魅力や印象形成の問題』であり、広く一般の反応や受容の在り方も大きく関係しています
個人や家族など周囲の人が可視的差違について理解して受容していたとしても、学校・職場など社会一般の理解や受容が進んでいない状態では適応状態の向上は難しい部分があるでしょう。
よって選択肢④「家族や友人だけではなく、広く社会一般の反応や受容の在り方は、子どもが可視的差違に適応していくに当たり重要な要因となる」は正しいといえます。
まとめ
第3回公認心理師資格試験の問43は、可視的差違に関する問題でした❗️
個人の要因だけではなく、周囲、社会的な問題が大きく絡む内容であるため、適切な知識を得て、必要であれば心理教育を行っていくことが重要といえます。
キーワード可視的差違とは、社会的・文化的な慣習は除く他者から見てわかる容姿の違いのことをさし、口唇裂・口蓋裂に代表される先天性と熱傷に代表される後天性にわけられる。
心理社会的な影響が大きいとされ、対人関係上の問題を引き金とする「否定的な自己概念の問題」「社会的な状況への回避」の影響を受けることが多い。
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